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はじまりはいつも雨。

彼女と僕に、
挿入歌があるとしたら、
その曲がぴったりだった。

友達の紹介で仲良くなり、
メールを交換した。

「楽しかった。また遊ぼうね。」

はじめての返信に心が躍った。

グループではなく、
二人きりでご飯食べることになった。

「雨か…」

外はどじゃぶりだった。

車に乗った
エンジンをかけ、
ワイパーを動かす。
雨粒が激しく飛ぶ。

車を走らせた。

アパートの前で、待ってくれていた。

「ごめんな。雨で。」
「ん?なんで謝るの?」
「あたし、雨女やねん。」
「大丈夫だよ。」

ダボっとしたTシャツ、
くるぶしが見えるパンツ。
足元はスタンスミスのスニーカー。

くるくる巻いた
おだんごヘアーが似合う
まあるい子だった。

ご飯食べた帰り道、

「ごめん。」
「いいよ。濡れるから。」

傘をさすと、体がくっついた。

はじめての告白は、
雨が勇気をくれたものだった。

「いっつも雨だね。」
「ごめんな。でも楽しいやん。」
「うん。そうだね。」

はじめての、デート。
はじめての、花火大会。
はじめての、ディズニーランド。
はじめての、…。

すべて雨だった。
雨の匂いまではっきり覚えている。

「おっ今日は小降りだね。どこ行く?」
「そうやな。どこでもええよ。」

就職を機に実家に帰り、
遠距離恋愛が始まった。

「今日は降ってないねっ」
「…うん。」
「どうしたの?」
「…ううん。なんでもない。」

遠距離になって
一年が過ぎたころ、
実際の距離以上に
心の距離は遠くなっていった。

突然、仕事中に電話が鳴った。

「話がある…」
「どうした?」
「…」

「京都に行きたい」
5年付き合って
はじめて彼女からの誘いだった。

仕事を切り上げ、会社を出た。

雨の匂いがする…

ぽつ、ぽつ、ぽつぽつ…

ザー。

雨だった。

「止まないでくれ」

車に乗った
エンジンをかけ、
ワイパーを動かす。
雨粒が激しく飛ぶ。

まだ 終わり じゃない、
また はじまり に戻るんだ。

待ち合わせのカフェに着いた。
カウンターの端っこに座り、
彼女がくるのを待った。

遠くの窓から
光が差し込んできた。

街が太陽の光に反射して
キラキラしている。

街中がどんどん乾いていく。

「こんにちは。」

彼女だった。

「あぁ、何飲む?」
「えぇと。コーヒー。」
「あれ?飲めたっけ?」
「最近ね、晴れたね。」

「あぁ晴れたね…」

天気が違う。
髪型が違う。
服装が違う。
言葉が違う。

何もかもが違う。

僕の知っている彼女は、いなかった。

帰り道、
車の窓から差し込む
夕日に悪態をついた。

「雨じゃねえのかよ。」

退屈だった雨が、愛おしい。


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