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マイ本棚でまとめるマイ人生

――今日は「マイ本棚で振り返る半生」という企画でお話をお伺いしようと思っていたのですが、あなたの提案で「マイ本棚でまとめるマイ人生」というタイトルに変更されました。この意図についてまず聞かせてください。

Hideo Saito(以下斉藤) 「振り返る」に値するような「半生」など僕は送っていないのです。言い換えれば、僕には人生と呼べるようなものがない、ということです。「半生」という言い方には、「これまで人生を送ってきた。これから残りの半分の人生を送っていく」という含みがあるでしょう。これまでも人生なんてなかったし、これからもないでしょう。

――それならば「まとめる」ような人生も、ないのではないですか?

斉藤 人生はまだ始まっていない、しかし将来必ず始まるはずだ、という、のび太くんみたいな願望はあります。しかし必ず裏切られることが約束された願望であることも承知しています。かような願望を頓挫させたい。サルトルをもじって言えば「人間存在は人生を企ててみずから挫折する一つの受難である」となりましょう。

――なるほど。よく分かりませんが、どうでもいいので先に進みましょう。紹介いただく本棚の概要を教えてください。

斉藤 まず人生を6段階に分けました。本棚の6つの枠に、それぞれの「段階」を対応させています。
(1)草創期
(2)早期
(3)前期
(4)中期
(5)後期
(6)晩期
この分け方は、縄文時代の区分法から借りています。

――そのこころは?

斉藤 よく分かんないじゃないですか。なんで「前期」の前に「早期」だの「草創期」だのがあって、「後期」のあとにさらに「晩期」が来るんですか。これじゃ「前期」は実質「中期前半」じゃないですか。

――もともとは前期・中期・後期の三区分だったのが、後から付け加わったらしいですけどね。

斉藤 それはともかく、おおむね次のように考えていいでしょう。
(1)草創期:中高生時代〜大学に入学してしばらく
(2)早期:ポストサリン事件、卒論提出まで
(3)前期:修士論文提出まで
(4)中期:博士課程在籍中
(5)後期:都落ちしてしばらく
(6)晩期:今現在のテーマ

――では順番に本棚を見せてください。

厳密なブックリストをここに載せると煩雑になるので、ブログ記事として別途まとめた【2017.07.25】

草創期

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――中高生時代から、大学に入学してしばらく経過するまでの本棚ですね。この次の「早期」はポストサリン事件ということなので、1995年以前が草創期、と考えていいでしょうか。

斉藤 あまり厳密ではありません。サリン事件があって宮台真司を読み、ベイトソン経由でシステム理論を知り、柄谷行人との出会いがあった。それが「早期」となるので、それ以前が草創期、ということです。

――草創期の本棚の特徴は、小説はいわゆるW村上と、アメリカ文学が中心。他には根本敬などのサブカルやマンガがあり、音楽や美術がある。

斉藤 あ、それから、全体を通してですが、実際に読んだ時期は異なるけれども、この枠に入れたほうがいいだろう、という順序の入れ替えはしています(棚のスペースの都合が主な要因ではありますが)。それと、この写真に写っている本は、当時読んだ本そのものではない場合が多々あります。村上龍『限りなく透明に近いブルー』は単行本、文庫本、あわせてこれまでに何冊も買いましたが、いま手元にあるのは「文庫本新装版」です。サリンジャー『フラニーとズーイ』は野崎訳と村上訳の両方を並べました。カーヴァーをしっかり読んだのはもう少し後のはずですが、スペースの都合上、ここに入れました。

――鶴見済『人格改造マニュアル』は1996年ですね。この時期ならむしろベストセラーになった『完全自殺マニュアル』(1993年)が重要ではないですか?

斉藤 いまだに(『自殺マニュアル』は)売れているんですよね。でも持ってないんです。社会的意義としては『自殺』がダントツですが、実用性としては『人格』が上ですね。

――この枠で、この本はぜひとも読んでおいたほうがいいよ、というものがあれば。

斉藤 夏目漱石『夢十夜』。椹木野衣『シミュレーショニズム』。『POWERS OF TEN』。村上龍の初期、村上春樹の初期とくに短編、カーヴァーサリンジャーポール・オースター。『因果鉄道の旅』。諸星大二郎はここに入れたアンソロジーだけじゃなくて、すべて読んだほうがいい。

――この枠で、この本を読んでいるようなオンナノコとお付き合いしたいな、というものがあれば。

斉藤 その〈オンナノコ〉というのは、ラカンの言う〈女性〉のこと?

――もちろん。〔註:ラカンは「カントとサド」でこう述べる。《ひとは悪によって幸せである。あるいはこう言ってもよい、永遠の女性は天上で誘惑しない、この方向転換は哲学的考察についても行われた》『エクリ3』〕

斉藤 岡崎京子と『夢十夜』。カーヴァーサリンジャー。できれば諸星大二郎も。

早期

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――サリン事件以降、卒論提出まで、ということですが、宮台真司・社会学・システム理論・柄谷行人・現代思想(デリダが多い)・近代哲学(とくにカント)・美学、と多岐に渡っている感じですね。サリン事件は大きな出来事でしたか。

斉藤 サリン事件そのものというより、事件をめぐって日本社会が大きく反応したんですよね。それがショックだった。小林よしのりも「ゴー宣」初期はすごくよかったのに、オウムに命を狙われてからおかしくなっちゃった。

――ショックだった、というのは。

斉藤 1997年に、神戸連続児童殺傷事件、いわゆる酒鬼薔薇事件が起きるんですけど、当時の僕らの感覚としては、「最近は分かりやすい、ベタな出来事ばかりで、つまんないよね」というものだった。ところが「なぜ宗教団体が!」「なぜ14歳の少年が!」みたいな、教科書通りのベタな反応が、主流の言説になっていたんです。はじめは、大人として、わざとベタな反応をして見せているのかな、と思っていたのですが、どうもそうでもないらしいと。最近でも「オウムなんて宗教じゃない、ただのテロ組織だ」と言っている人がいて、愕然としました。当時宮台真司らが精力的にやっていた言論活動が、なかったことになっている。

――柄谷との出会いが早期の特徴なのでしょうか。

斉藤 柄谷行人に出会うまでは、僕には「ものを考える」ということがいかなることなのか、まったく分かっていなかった。柄谷行人は映画『MATRIX』でいうレッド・ピルです。卒論は現代美術のモダニティについて書きましたが、上京する前に読んだ椹木野衣『シミュレーショニズム』(草創期)と、この時期に読んだ上野俊哉『シチュアシオン』を、『批評空間 臨時増刊:モダニズムのハードコア』で止揚する、という内容だったと思います。原稿が残っていませんが。

――この枠で、この本はぜひとも読んでおいたほうがいいよ、というものがあれば。

斉藤 柄谷の『探求1、2』『日本近代文学の起源』、東浩紀『存在論的、郵便的』、竹内敏晴『ことばが劈かれるとき』、クニール&ナセヒ『ルーマン 社会システム理論』。あと、この枠に『社会学のあゆみ』1巻を入れられなかったのが心残りです。いずれにせよもう売っていませんが。〔追記:現在、パート1も復刊して普通に買えるようだ〕

――なくしたんですか。

斉藤 そうみたい。

――この枠で、この本を読んでいるようなオンナノコとお付き合いしたいな、というものがあれば。

斉藤 阿部和重町田康柄谷なら『日本近代文学の起源』と初期の文芸評論集(スペースの都合上「晩期」に入れてある)。

前期

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――大学院修士課程に入ってからですね。修士論文提出までの2年間ということになります。

斉藤 修士論文は「セクシャル・マイノリティのアイデンティティ・ポリティクス」で、Webで公開しています。この枠に『現代思想 臨時増刊:レズビアン/ゲイ・スタディーズ』を入れられなかったのが、今回の企画の最大の心残りです。

――なくしたんですか。

斉藤 そうみたい。震災(2011年)のときに本棚がめちゃくちゃになって、今回、この棚を作るのにも苦労したんですが、肝心のものが幾つか見つからなかった。

――さいきん、マスメディアでもLGBTとかLGBTQとかの用語がよく使われますが、思うところはありますか。

斉藤 今年(2017年)5月18日の毎日新聞の記事で「LGBT:theyの三人称単数OK 性的少数者に配慮」という見出しのものがあります。小見出しとして「米AP通信が新ルール 「he」「she」が嫌な人に」とあります。ニュースになっているのは、英語の三人称単数の代名詞であるheやsheには性別の刻印があるため、性的少数者に配慮するばあいには「単数のthey」を使うことにする、というものです。これ自体は「政治的に正しい」動きかもしれませんが、見出しに使われている「LGBT」とは関係がありませんね。性同一性障害(GID)には関わるかもしれませんが、「LGBT」というときの「T」だけです。

――言われてみればそうですね。L(レズビアン)G(ゲイ男性)B(バイ・セクシャル)の性自認が問題になる場合でも、T(トランスジェンダー)のひととはかなり違う。異性装(トランスヴェスタイト)のケースでもそうですね。

斉藤 僕の修士論文のタイトルに「アイデンティティ・ポリティクス」とあるので、《一般的な、集団を指し示すカテゴリーをアイデンティティとして使用する立場》を擁護するものだと誤解されがちですが、基底にあるのはクイア・セオリー(Queer Theory)です。「クイア(Queer)」は「変態」を意味する蔑称ですが、テレサ・デ・ラウレティスが1990年に主催した学会の名に使用することで、敵から盗用した概念です。デ・ラウレティスが危惧したのは、それまでの「gay and lesbian」という「性的少数者」の呼び名は、「and」という接続詞によって差異が不可視になってしまうことです。重要なのは差異です。

――それを言うと、分断工作だと言う人が出てくる。

斉藤 そう。僕が今いるフクシマもそうですよ。古いタイプの左翼に多いんだけど、分断やら差異やら区別やらは、よくないもの、無力化するものだと感受されてしまう。逆ですよ。差異が大事。デ・ラウレティスは、共通する部分よりも先に、差異について語り合うことから始めるべきだ、とまで言っている。差異に耐えられない共同体志向の脆弱な精神、同一性を求める欲望は、似非右翼と同じです。本物の右翼は、一人一殺のテロをやろうと思ったら所属していた集団を抜けて、ローン・ウルフで実行しました。日本を守るためなら日本人であることさえやめる覚悟・気概をもつ、これが本物の右翼(保守)とネトウヨを分かつ分水嶺です。サヨクだとスピリチュアル系エコロジーおばさんに多い。

――この枠で、この本はぜひとも読んでおいたほうがいいよ、というものがあれば。

斉藤 加藤秀一『性現象論』、落合恵美子『21世紀家族へ』。

――この枠で、この本を読んでいるようなオンナノコとお付き合いしたいな、というものがあれば。

斉藤 落合恵美子『21世紀家族へ』、上野千鶴子『家父長制と資本制』。

中期

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――さて、ここから後半です。中期は博士課程在籍中です。修士課程は2年と短かったですが、博士課程には6年在籍したんですよね?

斉藤 博士課程の最初の2年のうちに、査読論文を2本通すと、「在学延長」という制度を使えたんですね、うちの大学は。最大3年延長できて、フルに使うと6年通える。

――この枠は9割がたルーマン関連の本ですね。

斉藤 この棚を作り始めたときは、ここにドイツ語文献がずらーっと並んでいたんですが、そんなもの見てもつまんないだろうと思って、入れ替えました。

――これも充分つまんないです。唐突に『よつばと!』と『ストーンオーシャン』が出てきますが。

斉藤 ルーマン以外にはいろいろ雑多に読んでいました。マンガも多かったし、レイモンド・カーヴァーをがっつり読むようになったのもこの時期じゃなかったかな。ジョジョを読み始めたのもこの時期かもしれない。

――遅いですね。

斉藤 ネットで「新手のスタンド使いかァァッッ!!」とか流行っていたので、遅れて便乗ですね。中学生の時に『週刊少年ジャンプ』で連載がはじまって、当時もまあ、セリフを教室の黒板に書いて遊んだりしてましたけど。ストーリーで一番好きなのは7部(『スティール・ボール・ラン』)、人物で一番好きなのは空条徐倫(6部主人公)。理想の女性像です。その意味で6部の『ストーンオーシャン』をここに挿し込みました。

――ところで博士論文は書かなかったんですよね。

斉藤 書いてたらこんなところに都落ちしてませんよ。書かなかったというか、書けなかった理由は、一つには長岡克行先生の『ルーマン/社会の理論の革命』というすごい本が出て、何も付け加えるようなことは無いなあ、と思ったこと。第二に、「博論計画書」を提出して、これは今でもWebでPDFで読めるんですけど、「計画書」に書いたことで「僕の言いたいこと」は尽きている、ということ。

――未練はないんですか。

斉藤 さいきん、デリダデイヴィドソンの言語論を読み返していて、こういう方向から何か書くというのもありかなあ、とぼんやり思っています。ルーマンは「言語は非システム」って言っていて……。でも手続きが分かんないんですよね。論文を書いたとして、どこにどうやってどういう形式で提出すればいいのか、とか。

――この枠で、この本はぜひとも読んでおいたほうがいいよ、というものがあれば。

斉藤 『よつばと!』『ジョジョ』。あと森本浩一さんの『デイヴィドソン』は面白いかもしれない。

――この枠で、この本を読んでいるようなオンナノコとお付き合いしたいな、というものがあれば。

斉藤 『よつばと!』。できれば『ジョジョ』も。

――せっかくなので、ルーマンの本で一冊読むならこれ、というのがあれば。

斉藤 いきなりルーマン自身の本を読むのはやめておいたほうがいい。「早期」に挙げたクニール&ナセヒ『ルーマン 社会システム理論』が入門書としては定番。ルーマンの書いたものの翻訳で、前提知識が少なくても読めるものは『社会の教育システム』。

後期

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――後期は、アカデミックポストに就けなくて、フクシマに、当時はまだ福島でしたが、都落ちしてくすぶっていた時期。

斉藤 おおまかには、ソフトウェア開発の組織論的なアプローチ、一言で「アジャイル」で済ませますが、それと、カウンセラーとしてチョコチョコ活動し始めたので、心理療法に関する本が多い。サルトルが目立っていますが、前期にも中期にも入れるスペースが無かったので便宜上ここに入れました。フロイトも同じ理由ですが、ラカンは意外と臨床に便利だと感じたので、ここに入れる必然性はある。

――ソフトウェア開発とカウンセラーって、あまり結びつかないような気もするんですが。

斉藤 産業カウンセラーとしてはいわゆる「カイゼン」に近いことをやりますよ。もっとメンタルヘルスのケアに重心を置いたトレーニングを受けますけど、オフィスの合理化(アジャイル化)こそが働く人のメンタルヘルスに貢献する、というのは、自明だと思うんですけどね。CS(顧客満足度)よりもES(従業員満足度)の向上を優先することが売上に貢献する、って言っても、なかなか理解してもらえていない感じはします。

――ESって、そう言えば、日本だと従業員満足度って訳されるんですね。日本は非正規雇用ばかり増えてしまって、メンタルヘルスケアにケアしてもらえない層が分厚くなっている。

斉藤 うん。employeeってただの「被雇用者」だから、非正規だから正規のケアから排除していいってことにはならないはずなんだけど、「先立つものが」って口にする経営者は多い。そうじゃねえって、ESを向上させると売上が増えて「先立つもの(マネー)」も増えるんだろうが! って思うけど、顧客の前ではなかなかそれは言えない。

――ヘタレですね。心理療法の本も多岐にわたっていてあれこれ手を出しすぎな感がありますが。

斉藤 根本精神はブリーフセラピー(短期療法)です。ブリーフセラピーの精神は「あれかこれか」でなく「あれもこれも」です。正直、認知行動療法は自分に使うにはいいけど、クライアントさんに使うのは好きじゃない。世間的に有名なので、「認知行動療法をやりたいです」って言ってくるクライアントさんが多く、そうしたニーズに応じる必要はあります。さいきんは「マインドフルネスをやりたいです」が多い。これは僕の大好きな分野なので嬉しい。あまり「ブリーフ」じゃないけどね。

――この枠で、この本はぜひとも読んでおいたほうがいいよ、というものがあれば。

斉藤 『ドグラ・マグラ』は基本として。ロジャーズの入門書『[新版]ロジャーズ クライエント中心療法』、若島&長谷川『短期療法ガイドブック』、『アイデアを組織に広めるための48のパターン』。アジャイルの歴史の面からは『パターン、Wiki、XP』。小説だと舞城王太郎『九十九十九』(実際読んだのは中期)。ロジャーズについては、初期の論文をいくつか読んだほうが早いんだけど、邦訳がよくないので、ググって原文のPDFを探したほうがいいです。ロジャーズはとても平易な英語で論文を書いています。

――この枠で、この本を読んでいるようなオンナノコとお付き合いしたいな、というものがあれば。

斉藤 夢野久作『ドグラ・マグラ』。哲学入門書としてサルトル『存在と無』を読むのもいいかもしれない。

晩期

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――やっとラストに来ました。また柄谷の本がある、というのと、詩にかんする本が多いこと、言語哲学もちらっと見える、というのが特徴です。

斉藤 柄谷は『トランスクリティーク』以降、ほとんど読んでいませんでした。地域通貨が流行った頃に、「アソシエーション」とか言い出して、おいおいそれって共同体志向の旧式左翼とどこが違うんだよ、って思っていて。でも『日本精神分析』を読み返したら面白くて、さらに『遊動論』で柄谷の言う「アソシエーション」が腑に落ちた。そこから柳田の古層の研究、これは本居宣長の古学を民俗学的に行ったものですが、言ってみれば『古事記』以前、『延喜式』以前、日本が誕生する以前に遡行する試みですね。高橋克彦『火怨』は戯画化しすぎの時代小説ですけれど、痛快です。これを読む前に高橋崇『蝦夷』で頭をクールにしておくのがベター。瀬川拓郎のアイヌ本によれば、高橋崇が論じている時代の「エミシ」(アイヌと交易していた)は、DNAに古代出雲人と同じハプログループを持っているらしいんです。熱いですよ。

――古代東北から古代北海道に関心が北上していったと。琉球はどうなんですか。

斉藤 いまのところまだ掘り下げてなくて、今後の課題ですね。日本史というか極東アジア史を〈環オホーツク・日本海交易圏〉という観点から再記述するという構想を持っていますが、古代アイヌの文化には南島産の貝でできた腕輪があって、おそらく琉球のものも交易されていたでしょうね。琉球人はDNA上、アイヌに次いで縄文人に近いことが分かっています。アイヌよりも弥生人との混淆が早めに進んではいますが。

――歴史オタクみたいでキモいですよ。詩と言語のテーマ系はどうなんですか。

斉藤 長田弘の詩を朗読しなければならない機会があって、そのために掘り下げ始めました。掘って行ったらパウル・ツェランに到達して、そこでデリダ側に抜けた感じ。すべてが繋がったぞ―、っていう。

――この枠で、この本はぜひとも読んでおいたほうがいいよ、というものがあれば。

斉藤 先にも述べましたが、スペースの都合上ここに入れていた柄谷の初期の文芸評論『意味という病』『畏怖する人間』。時代は飛んで『日本精神分析』『遊動論』『憲法の無意識』。瀬川拓郎『アイヌと縄文』。『古事記』の現代語訳は池澤夏樹訳が史上最高ではないかな。谷川俊太郎の詩集は、アンソロジーがいくつも出ていますが、1965年の思潮社版だけあればいいでしょう。初期の詩集をすべて収録したものです。最果タヒ『グッドモーニング』は彼女の最高傑作でしょう。ルイス・キャロルのアリスは山形浩生の訳がいちばん読みやすい。江戸川乱歩はちくま日本文学全集のアンソロジーがベター。ウエルベックスティーヴ・エリクソン

――この枠で、この本を読んでいるようなオンナノコとお付き合いしたいな、というものがあれば。

斉藤 江戸川乱歩ウエルベックスティーヴ・エリクソン。アリス。『リテラリーゴシック・イン・ジャパン』。都築響一『夜露死苦現代詩』。

――この企画のために本棚を作ってみて、思うところがあれば。

斉藤 ほんらい入れるべき本が見つからなかったことが心残りである、と同時に、スペースの都合上、入れることができない本を切り捨てなければならなかったことは、非常に苦しい体験でした。何かを選択することが、何かを棄てることになる、ということは、僕の基本モチーフである「あれも、これも」に反することです。

――今日はありがとうございました。

(このインタビューはフィクションです)

※2017.07.24:若干の追記をした。

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