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愛の所在

私は知らない。私の中に住んでいるお前たちのことを。お前たちが、私の中のどこに住んでいるのか。私の中で日々何をしているのか。私は何も知らない。そもそも私の一部のはずなのに、私はお前たちの活動の目的すら聞かされてはいないし、その活動に何ら関与することはできない。

私はお前たちが何者なのか知らない。しかし、確かなこともある。私の軟弱なんじゃくな意思など比にもならないほど強大なお前たちの意思。その意思のあるじとは一体誰なのか。少なくともそれが私でないことは明らかだ。常に最も近くにいるのに、最も遠い存在。それがお前たちと私の関係。

私は私の中に住むお前たちと一度も出会うことなく、いずれ死ぬだろう。私が生まれたその日から一日も休むことなく働き続け、死ぬ時が来ればみな道連れになってくれるという。たった一言のねぎらいの言葉もなく独り去ろうとする私に、たった一言の不平もなく、静かに、共に死んでくれるお前たち。

私はお前たちのことを知らない。一生出会うこともない。しかし私は何度もお前たちを傷つけた。お前たちの幾人かを殺したことさえあるだろう。もし、こんな私でも愛という言葉の使用が許されるなら、ここに書き記しておきたい。愛とは、お前たちが私のことを・・・・・知っている・・・・・ということだと。私はお前たちのことなど何ひとつ知らないのに、お前たちは誰よりも私のことを熟知している。そうでなければ私という存在は一日もたもたれまい。

不思議なことだ。お前たちは私と共に生き、私と共に死ぬ。お前たちが何者であるのかさえ知るすべもない私に、愛の所在を知らせてくれたのは、一生出会うことすらないお前たちだった。


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