short*001
無防備過ぎるから、
だからってキスすることもないだろうと、その先を求める手を体から引き離して、次いで近づく顔に愛情の欠片もない表情をしてやった。
一瞬動きが止まった、ように見えたその顔は、わたしとは正反対の表情をしながらさらに近づいて、抵抗する暇もなく重なった。
「顔やばかったし。んなもん見せるから。」
「いつも野獣だから、そう見えるんだよ。」
「俺の取り柄みたいなもんでしょ、そこ否定されたら、」
「わたしは野獣と付き合った覚えはないんだけど。」
「何、苛ついてんの?」 冷たいフローリングに倒れたまま─その冷たさに不快感は抱かない─、わたしに重なる熱すぎる体を押し上げてどかした。
当たり前だけど、体が離れたのはわたし自身の力ではなくて、彼が自分の意思で離れたからなのだけれど。
急にひんやりとした空気がわたし全体を包んで、直前まであった彼の温もり、というか熱は、跡形もなく消えた。
「もういいよ。」 その状態でしばらく、多分長い針が1周するくらいの時間、ただ息の音だけが部屋に充満していて、いい加減わたしの体も冷え切って限界だった。
「何が。」
「ずっと野獣でいいし、わたしは初めから野獣と付き合ってた。」
「…それはちょっと、嫌だ。」 のそっと体を動かして、拳を膝の上にして正座。
俺は人間です、人間の俺を愛してください。なんて真面目に言うから、わたしは彼に向けて腕を伸ばした。
人間だろうが野獣だろうが、わたしにはあなたしかいない。不安も葛藤も全部放り投げて、ただ快感を求めてわたしも野獣になればいい。
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