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あかつき。/ショートショート


少し冷たさを覚えたフローリングに、そっと足を置く。
どれくらいの時間こうしていただろうか。

椅子に体育座りをするようにして、
しばらく操作していたパソコン代わりのタブレット。
画面に映し出されるのは、色とりどりの写真たち。
顔も知らない、名前も知らない、性別も分からない、
そんな人々が競うようにして作り出す、演出された写真たち。
スクロールをしているだけで、何を思うでもなく、
でも、あっという間に時間が過ぎてしまう。

窓際へ近づくと、少し音がする。
今日は夜明け前に、雨が降るって言ってたっけ。
ということは、もうすぐ、夜が明ける。

あ、
忘れていた。
こんな時間だけど、食べようと思っていたのに。
お湯を沸かしている間の暇つぶしにと、
あの色とりどりの写真たちを眺めていたら。
お湯も冷めきっているだろうし、
そろそろ窓の外も、明るくなる時間。
少し熱めのシャワーを浴びて、
お気に入りのパン屋さんへ一番乗りしよう。


開けた窓から手を出して、雨粒を確認してみる。
そして、そっと覗き込んでみた。
レインブーツを履くほどには、雨は降り続いおらず
遠くのほうには、明るい雲が浮かんでいた。

グレーがかった街が、わたしは好きだ。
いつもより重い空気も、湿気を含んで跳ねる髪も。
ちょっとだけ、体調が優れなくなることも。
これから消えていくだろう、グレーの世界を感じながら。
今日はどのパンにしようかと、優しい香りの元へ向かった。



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