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【81】北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周 27日目 熊石〜岩内② 2020年8月16日

2020年夏、「週末北海道一周」最終レグ。北海道西海岸を北上しています。断崖が海に迫る道道740号線を走り、3000メートル級の長大トンネルを抜け、ようやく青空も広がって、伸びやかな走りを楽しんでいます。

▼ 「週末北海道一周」、ここまでの記録はこちらです。


◆ 大津波の記憶

太田トンネルを抜けると息つく間もなく、1161メートルの日昼部トンネルが待ち構えていました。これを抜けると険路はひと段落し、左手に日本海が寄り添う気持ちの良い海岸線になりました。
この道道740号線は路面がきれいに整備され、クラックや陥没でストレスを感じることがありません。しかもクルマの交通量が少ないという、まさにロードバイクのためにあるような道。沿線人口の少なさを考慮すると、費用対効果は高くないでしょうけれど。

沖合には、奥尻島の島影が横たわっています。
奥尻島というと、やはり真っ先に、1993年7月12日の北海道南西沖地震のことが思い出されます。

▼ 北海道南西沖地震

その日の夜10時過ぎ、当時暮らしていた会社の寮でテレビを見ていると、緊急速報が流れ、北海道南部での大地震が報じられました。この地震で津波が発生、震源に近い奥尻島で大きな被害が生じている模様だが、現地と連絡が取れず、また夜間故に空からのアプローチも難しく、状況把握が難航していたことを、朧げに記憶しています。
翌朝、ニュースの冒頭で流れたのは、大津波で壊滅した島の姿でした。津波は地震発生から2~3分で奥尻島に到達、また島をぐるりと回り込んだ波が第2波として、さらに北海道本土から反射した波が第3波として、何度も島を襲ったといいます。
最大30メートルを超える津波に加え、崖崩れによる被害も大きく、死者・行方不明者は230人に上りました。
近年では東日本大震災の衝撃があまりに大きく、奥尻島を襲った悲劇はやや影が薄くなってしまっている感があります。喪われた命を無駄にしないためにも、風化させてはならない記憶でしょう。

そんな思いを巡らせながら走り、8時30分、水垂崎に到着。空は晴れ渡り、暑くなってきました。
深く重い色彩だった海も、エメラルド色に変化しています。
広々と視界が開け、茂津多岬までの海岸線の全容が広がりました。ここで少し脚を休めます。

▲ 水垂岬

◆ 水垂岬から瀬棚へ

海岸沿いには風力発電の風車が何基も並んでいるのが見えます。この辺りでは、瀬棚の三本杉が名勝として有名だが、それに似た無数の岩が、ボコボコと海面に顔をのぞかせています。
海岸線は北へ続き、やがて茂津多岬の断崖がスパッと切れ落ちています。その辺りは未だ層状の雲が低くたなびいていましたが、雲の上からは狩場山の山頂も顔を覗かせていました。
クリアグラスからサングラスに替え、日焼け止めを塗りたくります。今年は5月以降、天気さえ良ければ平日も週末も関係なく自転車に乗っていたので、既に観光地の人力車夫並みに肌が焼けています。さすがにこれ以上の日焼けは避けたい。

水垂岬の先は人家も増えてきました。
漁村を巡りながら走り、やがて国道に合流。途端に、路面状態のひび割れが増えました。大型車の往来も増え、走りにくくなります。

風車の回る海岸の荒地をしばし駆け、旧瀬棚町の市街地に入りました。日曜の朝、港町には人っ子ひとり見当たりません。
最初は、昨晩の宿泊地を、熊石ではなくここにして、3日間の走行距離をある程度均一化するプランも考えていました。そうしなかったのは、昨日の天候不順を考慮したのに加え、調べてみるとこの地区には、宿も飲食店もあまりなかったことも理由です。町村合併によって旧北檜山町に賑わいが集中してしまったようです。
少し前に、せたな町を舞台にした映画「そらのレストラン」を観ましたが、海の風景は全くと言っていいほど登場せず、内陸の農業地帯が舞台でした。

▼ そらのレストラン

町外れの防波堤の向こうに、有名な三本杉が巨立しています。自動販売機で飲み物を買って、防波堤に寄りかかって三本杉を眺めながら、羊羹をかじりました。

▲ 瀬棚の三本杉

時刻は9時半。岩内までは、まだ100キロ以上。幸い、絶好の自転車日和。夏の北海道の日は長い。到着後に酒場放浪記をやる程度の余力は残しておきたいし、のんびり行くこととしましょう。

◆ 茂津多岬

瀬棚の先は、平坦な海沿いの道が続きます。極めて快適な走りが楽しめました。
潮が引き、岩礁がゴツゴツと顔を出しています。

▲ 瀬棚から茂津多への道。狩場山を遠望

1999年の盛夏にも、この辺りに来たことがあります。その時は車にマウンテンバイクと野宿アイテムを積んでの旅でした。大沼湖畔で野営したあと瀬棚まで、どのルートを走ったのか今となっては覚えていませんが、ともかくも日本海岸に出て、瀬棚からこの道を北上しました。
その時に比べると、やはりコロナの影響か、随分と交通量が少ない印象。磯遊びやキャンプなら感染リスクは低いし、現に昨晩の宿のそばにあったキャンプ場は大繁盛だったのですが。内地からの観光客が来ないことが、大きく響いているのでしょうか。そういえば、ハイシーズンなのにバイクでツーリングしている姿をあまり見ないし、サイクリストに至っては皆無です。

そんな道を瀬棚から1時間弱、ストレスなく快走し、茂津多の漁村を過ぎると、道は内陸に向かって登り基調になります。
やがて茂津多トンネルの入り口が姿を現しました。二千メートル近い長さですが、一直線なので、坑口に突入する前から彼方に出口が見えています。下り基調で一直線、しかも路面が良くて交通量の少ない坑内は、トンネルには珍しく快適さを覚えてしまうほどでした。
しかし、息をつく間もなく、さらに3本の長大トンネルが連続。5年前に走った雄冬岬や、3年前に走ったえりも黄金道路、さらに今朝走ってきた道道740号線に匹敵する険阻な海岸線です。

この辺りの海岸線は、狩場山の噴火活動で噴出されたマグマが侵食されないまま、このような険しい地形を作り出しているのでしょう。狩場山の火山活動は25万年前から休止しているそうですが、今もこの辺の海岸には何箇所か温泉が湧いています。また、狩場山の山中にも、素晴らしい石灰華の天然の露天風呂があると読んだことがあります。
一本のトンネルを抜けると、すぐ目の前に次の坑口、右手は絶壁、という景色が連続。足を止めてみたいような巨岩もあり、また通り過ぎた背後に滝音が聞こえたりと、素晴らしい風景なのでしょうが、トンネル地帯は早く通過してしまいたい想いが先に立ちます。
どのトンネルも路面状態は良く、自動車通行量も少なく、ストレスなく走ることができたが、4本目の白糸トンネルではさすがに「もうご勘弁を」と思いました。

◆ 島牧村

約6.8キロに渡る地底の旅を終えると、島牧村。檜山支庁を走り抜け、ここから後志ということになります。
断崖絶壁や巨岩は姿を消し、穏やかな漁村風景のなかをゆっくり走ります。

▲ 栄浜付近にて

トンネル内はやはり早く抜けたいという心理が働き、一気に走り抜けたリバウンドか、少しバテ始めていました。
おまけに、昨日からのリム振れの振動がサドルに響くせいか、恥骨周りが熱を帯びて痛みます。適宜立ち止まりながら、骨盤を立てて坐骨で座る姿勢を取り、引き足を使って軽いギヤをクルクル回しながら進みました。

栄浜という集落にある温泉宿は、国内有数のラジウム泉で、露天風呂から日本海の夕日が望めるそうです。去年6月の悪天候で中止したライドでは、朝、八雲を出て熊石へ峠を越え、今日ここまで走ったルートを辿り、ここに投宿するプランを立てていました。
ツーリングマップを見ると、黒松内と島牧を結ぶ道道523号線というのもあります。牧草地の中を登っていくと、やがて歌島高原越しに海が広がる景色の良いルートらしい。
こんな風に、見送らざるを得なかった魅力的な投宿地とか、ルート構成上行けなかった気になる道は少なくありません。今回の旅の次は、そんな場所を集めた北海道二周目も悪くないなあ。

11時10分、道の駅「よってけ!島牧」に到着。客足疎らな建物前に、地元の人達がテントを出して、農産物を販売していました。
出発からほぼ100キロ。ここを昼食ポイントと決めていました。
まずは芝生の上で、腰と股関節をしっかりストレッチ。
建物の中に入ると、賀老の滝は滝壺への遊歩道が災害のため通行止である旨、掲示が出ています。狩場山中にある賀老の滝へは、20年前の夏旅の際、マウンテンバイクで訪れました。狩場山はヒグマの巣窟なので、熊除けの鈴をヒップバッグに括り付けて、海岸から約15キロ、ブナの原生林の中を漕ぎ上って行きました。落差70メートルを一気に落ちる賀老の滝は、横幅も20メートル以上はあろうかという豪快かつ美しい滝で、いつかまた再訪したい場所の一つです。

▲ 賀老の滝(1999年8月)

道の駅には、ヒグマ目撃情報が多数、掲示されていました。3日前にも、農場で牛が襲われたそう。

▲ ヒグマ出没情報

盛夏期の北海道では、道の駅が大混雑で昼ごはんを食いそびれる、ということが往々にしてあり、5年前の網走や3年前の室蘭では少々辛い思いをしました。今日はまだ11時。生シラスをたっぷり乗せた丼を平らげました。

▲ 昼ごはん @よってけ!島牧

しっかり水分補給して出発。岩内までは、まだまだ険路が待ち構えています。

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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。引き続き、弁慶岬へ、さらに核廃棄物貯蔵施設をめぐって揺れる寿都へ。よろしければ続きもお読みいただけると幸いです。

わたしは、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、そのほかの自転車旅や海外旅行の記録などを綴っています。宜しければこちらもご覧頂ければ幸いです。

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