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【短編】Bread&Diary

ザァァ────────。

ばしゃばしゃばしゃばしゃ。
ああもう、なんなのよこの雨!!
フラれるわ、降られるわ、何言ってんのよ、わたし!!

『涙なのか、雨なのか』

これもよく言ったわ、往年の人達が。
「あ、染み込んでる!」
失恋記念に皆からもらった自社ブランドの服。
雨が染み込んでいる。

勝手な思い込みで、店長をやっている私は、人よりカッコイイと思っていた。


────、あの人に届くと思っていた。
憧れの職業、お洒落な服、好奇心を満たす仕事。
やりがいもあり、華やかな私生活。
田舎では、かなり有名なポジションまで登りつめても────

…フラれる。

自分のことながら、10年もの片思い頑張った。終わる。
告白前の今朝、年下のコから
「中さん、どうしたんですかー?今日、ヘンですよ?(笑)」
と、支離滅裂の朝礼をして、大笑いを買う、
「ハイハーイ、中、今日、告白だよー!!記念に自社プレゼントー!!」
「中さん、このトップスです!えちえちですよ、女上げてください、大丈夫ッスよ!」
「中ー、このスリット!コレで次のオトコなら落とせるようになる!!」
「中さん、ドンマイ!!」
皆の何故かショップでのドンマイ集合。

告白。キメる前に、ショップを出ると、

「中ー、雨降ってるー。すげー雨になるよー」
嫌な予感。


そして予感は、土砂降りと共に当たる。


──────私は10年の恋にピリオドを打たねばならなくなった。
そもそも告白しようと思わねば、まだ想っていられたんだろうか?
そもそも手に届く職業なんて就こうと思わねば、あこがれでいられたんだろうか。
もう救われない後悔が襲ってくる。

「中ー、雨だよ!!」
同僚の声も聞こえない。雨に降られたい。
「…大丈夫!走れば3分だから。」


そうして雨に降られること3分程。
何だか懐かしい匂いがする。
足を止めてみたのはカフェ。新しく見るカフェだ。

カラン。

懐かしい匂いに、告白のことも一瞬忘れて店に入った。
「ベーカリー…カフェ」
何だろう、この匂い。

棚を覗いてみると、“いぶりがっこ”と。
「これかぁ」
懐かしいはず!私の故郷のお漬けもの。
「いぶりがっことチーズ!それからカシューナッツ!」
「焼き立てですよ」という、店の人の言葉も後押しして、濡れた体を温める、ホットコーヒーと共に頂くことにした。
すると、

「これにするべ!」


ぎょっとして振り返ると、
「河本さん、今、方言出てましたよ!」
あはは、と笑う、河本という男。
「へー…私とイナカ同じか。」
名札をを見ると、
「加茂印刷…近所だ」
そして。よく見ると、同郷にはいないタイプだった、結構、いや、上等にイケメン。

ふふ。

何て自分て、たくましい。呆れる。
この記念のトップスとスカートで、デート服は決まった。
あと、足りないものは、知り合いじゃないことと、デートの日にち。

10年の恋も、近くのイケメン。

よくよく、パンの名前を見ると
“いぶりがっこのバトン”。

バトンが渡した恋。

「もしもしー、中だけど、ドンマイ会ありがと、でさー♡」

親友の同期に、新しい恋バナを。


そして、空は、何時の間にか晴れていた!


私は、数年前の日記を閉じた。
写真と共に、懐かしい匂いが届きそうだ。
そして、彼はパンを買って来る。
私と彼の出会い。
故郷の匂い。
威勢の良かった自分。

くすぐったい思い出。



明日は結婚式だ。




※いぶりがっこのバトンは本当にある商品です♡





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