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短編小説『お決まりの交差点』第1話

 朝の身支度を整えたら、混雑する通勤電車を避けるために少しテレビをつけて時間をつぶす。 お決まりの番組のお決まりのスポーツ特集がやっている。昨夜はどうやらサッカーの試合があったらしい。毎日見る割には、誰が日本代表なのか覚えていないあたり、情報のためというよりは 出発時間の確認のために見ていると言っていいだろう。8時10分。よし家を出よう。

  お決まりのルートで、まだ開店準備すら早すぎるショップのウィンドウで身だしなみが崩れていないかチェックするのがお決まりだ。今に始まった事ではないと半ば諦めている猫背を気にしないふりをして駅へ向かう。

 駅前の交差点は、横断歩道の赤がやたらと長い。ほんの数歩の距離がかえって待ち時間を強調する。スマホで時間を確認する。8時27分。まだ大丈夫。”赤信号みんなで渡れば怖くない”なんて 黄色い帽子を被った子供達に教えるわけないでしょう?

 ふと顔を上げると、この時間この交差点でたまに見かける男性が立っている。名前はもちろん 声すら聞いたことのない他人以上知人未満の誰か。どこかスッキリしない顔持ちは、これから始まる責任あるプロジェクトに緊張しているのだろうか、それとも昨夜のサッカー中継に睡眠時間 を削ったのだろうか。いずれにせよ負けられない戦いをみんな背負っているのだ。

信号が青に変わる。誰もが正面に向かって一斉に歩きだす。この信号の点滅が早いことをみん な知っている。交差点の中心で影が重なる。

 頑張ってください。私も頑張ります。

私は足早に駅に向かう。男性は私が来た道に進む。

 どこか知らない街からやってくるあの人が降りる駅。私のよく知るこの街であの人は働いてい る。私はこの街に住んでいて、あの人と入れ替わるようにこの駅から電車に乗って今日も仕事へ向かう。8時32分。お決まりの電車がやってきた。

『usual way』

※本ストーリー、イラストは、
Mr.Children 横断歩道を渡る人たち
乃木坂46 きっかけ
こちらの二曲からイメージした
ファンストーリー、ファンアートです。

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