短編小説『月と犬』第1話
私は歩く。犬を引いて、月あかりの下を。
暗くて、そこに道があるかどうかよく見えないけれど、犬は自信満々に私をひっぱっていく。
かわいい見た目の割には賢くて勇敢なところが自慢の犬だ。
子供の頃から犬が欲しかった。でも、自分より小さい命よりも自分の価値観を優先しそうな父
と、自分より小さい命に対してきっちりすぎるほどに管理しそうな母を前にして言い出すことはなかった。
大人になって、なんて口にするにはもう十分に歳を重ねた頃に偶発的に出会った犬だ。 奇跡というより、ある意味で事