『月と犬』小説&イラストユニット

文筆家ロクと、イラストレーターミツキによる、 小説&イラストユニット 『月と犬…

『月と犬』小説&イラストユニット

文筆家ロクと、イラストレーターミツキによる、 小説&イラストユニット 『月と犬』です。 犬を飼うことに決めた美月。犬の名前は「げん」。 偶発的な出会いをきっかけに、二人の物語は始まった。 ロクのnote📖 https://note.com/ryomai7

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短編小説『月と犬』第1話

私は歩く。犬を引いて、月あかりの下を。 暗くて、そこに道があるかどうかよく見えないけれど、犬は自信満々に私をひっぱっていく。 かわいい見た目の割には賢くて勇敢なところが自慢の犬だ。 子供の頃から犬が欲しかった。でも、自分より小さい命よりも自分の価値観を優先しそうな父 と、自分より小さい命に対してきっちりすぎるほどに管理しそうな母を前にして言い出すことはなかった。 大人になって、なんて口にするにはもう十分に歳を重ねた頃に偶発的に出会った犬だ。 奇跡というより、ある意味で事

    • 『暇(いとま)』

      資料がようやく完成した。 誰かに情報を伝えてはじめてその使命を果たす資料。 肝心の会議はまだこれからだ。 でもそんなことは承知で、 高揚感と満足感は隠せない。 帰り道、駅でエスカレーターの列に吸い込まれる前に階段を駆け上がる。 その先には行き慣れたカフェがある。どこにでもある定番のカフェ。 定番だからこそ、束の間の安らぎが約束されている。 私はクイズ番組の二択の回答パネルにダイブするように、 一択しかない正解へとダイブする。 店内に広がる柔らかなコーヒーの香りと、夕方

      • ショートストーリー『白い雪だるま』

        『白い雪だるま』 今夜は雪が降ります。 テレビから聞こえる気象予報士の声を聞いて、 寒がりな私は張り切ってダウンコートを手に取った。 この前買った、白いダウンコート。 明るい色は似合わないと思っていた私だが、 今年は思い切って白を選んだ。 あの色も着てみたい。この色も着けてみたい。 そう思えるようになったのは、仕事が充実しているおかげかもしれない。 冬の楽しいイベントも、冬を彩るアイテムも、誰かの創造や労働から広がる。 私の仕事も贈り物となって、どこかの生活に届き、至福

        • ショートストーリー『サンタになった日』

          『サンタになった日』 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「はーい、少し早いクリスマスプレゼントを今から返すぞー。」 期末テストが終わった開放感と、もうすぐやって来る冬休みに浮ついていた教室に、先生がわざと水を差す。えーとか、やばーいとか、あっという間に波紋が広がり、教室のあちこちが騒がしくなる。 テストの結果、冬休みの予定、塾の冬季講習、部活の練習、模試の日程、バイトの面接、クリスマスはどこで誰と過ごすのか…話題も広がる。遊ぶ奴も、勉強する奴も、忙しそうな

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        • 短編:一話完結
          6本
        • 短編小説『お決まりの交差点』
          1本
        • 短編小説『月と犬』
          2本

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          ショートストーリー『幕間』

          『幕間』 今日は何を着よう。 母でもなく、妻でもなく、私が”私”になれる毎日の物語。 働く”私”の衣装を選ぶ。 玄関を出たら、テンポが速まる。 リビングルームでは響かないロックミュージック。 BGMが似合うように、主演の顔で季節の風を切る。 景色が過ぎ去る車窓からは、淡い富士山とベランダに干した布団がよく見える。 天気が良くて、もう幸せだ。 コーヒーを片手に、エレベーターのボタンを押す。開演が近い。 大きな鏡で身なりを整え、深呼吸をする。 幕が開けば、仕事が始まる。

          ショートストーリー『幕間』

          短編小説『月と犬』第2話“MY FOOT”

          ※第1話はこちらから 「たんとお食べ。」 お掃除ロボットがゴミを吸い込んでいく。その横でげんもご飯を食べている。 “二人”とも気持ちのいい食べっぷりだ。 夫婦のボーナスを少しずつ出し合って、新三種の神器の最後のひとつを購入した。犬とお掃除ロボットの共存には相性があるようだが、げんには心配ご無用だったようだ。 新しい家電によってもたらされた時短効果に最初は感動したものだが、人間の生活は慣れるとまた新しいタスクによって圧迫されていく。手間が減ったことは確かだが、時短に関し

          短編小説『月と犬』第2話“MY FOOT”

          短編小説『ペーパードライバー』

          『ペーパードライバー』 月曜日。日が暮れ始め、街の色が変わる。 "主婦"のタイムカードを押して、夕方が始まる。 時計を見て大雑把に逆算する。 夕飯は、食べたいものより、食べてないものから消去法で考える。 肉か魚か決まれば、あとは適当だ。 月曜日。駅近の大きなスーパーは冷凍食品が安い。隣接した薬局のクーポンもたしか期限内だったはずだ。 食材や日用品をまとめて買うとなるとやっぱり車が便利だ。運転は好きじゃないけど。 月曜日。週始めから仕事が早く終わった夫を駅で拾ってス

          短編小説『ペーパードライバー』

          短編小説『お決まりの交差点』第1話

           朝の身支度を整えたら、混雑する通勤電車を避けるために少しテレビをつけて時間をつぶす。 お決まりの番組のお決まりのスポーツ特集がやっている。昨夜はどうやらサッカーの試合があったらしい。毎日見る割には、誰が日本代表なのか覚えていないあたり、情報のためというよりは 出発時間の確認のために見ていると言っていいだろう。8時10分。よし家を出よう。 お決まりのルートで、まだ開店準備すら早すぎるショップのウィンドウで身だしなみが崩れていないかチェックするのがお決まりだ。今に始まっ

          短編小説『お決まりの交差点』第1話

          短編小説『Mine』

          柔らかな毛布でぬくもりを作りながら、朝日がのぞくまで語った二人の幸せな夢 冷えた私の手を握りしめながら”世界の愛”を教えてくれたこの狭い部屋で、私は今、熱を失った紙コップのコーヒーを中途半端な力で握りしめている。 「リカの好きなスイーツだから」とあなたが買ってきたスイーツを箱にいれてまた冷蔵庫に戻す。今はちょっと食べる気になれないから。 #オンライン展覧会 ※SIX LOUNGEさんの『リカ』という曲の ファンストーリー&アートです。 ✳︎以外解説 本ショートスト