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パティシエ&ドラマー 前島剛さんにお聞きしました【独立編】

【音楽編】では、自作のドラムで遊んでいた小学生時代に始まり、中学~専門時代のバンド活動や、職業としてのドラマーだった時代、そしてホテルに就職してパティシエの道を歩み始めた頃までのお話しを伺いました。

突然ホテル勤務を辞め、建築中だった自宅に、無理矢理店舗と厨房を付け加えた前島さん。20年以上同じ場所で1人店を経営しつつ、最近うたわれる健康志向に対しての思いや、商品のこだわりなどについて、更にお話ししていただきました。

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オープン当初の様子

ー この店は何年ぐらいやってるんですか?オープン当初の様子はどんな感じでしたか?

21~2年経つかなあ。オープンの日はね、今じゃ考えられないけど、2時間半待ちの行列ができたんだよね。

ー えー!本当ですか?すごいですね!!

あの当時は、この辺に手作りのケーキ屋なんてなかったんだよね。「本日オープン」っていう広告を新聞に入れて、その日に2時間半待ちになった。

ケーキを1日500個限定にして、まあ実際は1,000個ぐらい作ってたけど、それも売り切れて・・・その時は1週間風呂入ってなかったんだよね。笑

1週間わずかな仮眠だけで、死ぬかと思ったよね。どこかで必ず売り切れになっちゃうから、すごいクレームが来たし。

後日使える引換券とかを用意しとけばよかったなと後から思ったけど、2日間一睡もしてないとかそんなだったから、引換券を作るとかまったくそんな余裕がなかったんだよね。

2ヶ月間ぐらいはずっと忙しくて、そのうち売上は落ちてきたけど、そうなったら今度は不安になったり。まあ、今そんなに忙しくなったら困るけど。

クリスマスケーキも当時は予約だけで180個あって。今は50個ぐらいになっちゃったけど、そのぐらいがちょうどいいかな。1人でやってるからね。

近年言われる「身体に悪い食材」について

ー 材料とかについてこだわりがあったら聞きたいです。今白砂糖はだめとか言うじゃないですか。まあ、ご存知の通り、私もお菓子を食べるのをやめているのですが。笑

いま本当になんでもダメっていうよね。小麦はダメ乳製品はダメ。白砂糖も身体に害があるって言うけど、少なくとも自分が作っているお菓子で言えば、毎日食べるものではないし、どの位の量でどんな影響があるのかが疑問で、それが甜菜糖なら大丈夫って言えるのかなあとか。

乳製品を使わず豆乳にしたところで、味はすごく変わってしまうけれど、身体にそこまでの影響があるのかなあとか。いろいろ思うところはあるよね。

ー 私も砂糖をとらないと言ってるけど、それをとらないことと、我慢するストレスってどっちが身体に悪いのかなあとも思いますね。笑

砂糖もべつに、とりすぎない程度であればいいんじゃないのかなって思うんだよね。主食じゃなくて、嗜好品だから。余分なものは身体がちゃんと排出してくれるんじゃないかと思うし。

「身体に悪いもの使ってません」っていう店は増えているよね。自分も使ってないものは、もちろん作ろうと思えば作れるけど、使っているものと相違ないクオリティで、ということはできない。

味が伴わないんだよね。アレルギーがあって切実な人とかにとっては味より大事なものがあると思うんだけど。

ー 身体にいい(と言われている)ことを追求するのも悪いことではないけれど、自分が妥協できない味や見た目のクオリティがありますもんね。そりゃ、違うもので再現できないですね。

「身体に悪い(と言われている)ものは使っていません」という商品も、できたらなあとは思うけど、それを追求する締め切りがないから、なかなか切羽詰ってできないんだよね。笑

天然酵母がよくてイーストはだめって言う人もいるけど、イーストって日本語に直すと酵母で、イーストも自然界に存在する、言ってしまえば天然の酵母なんだよね。それを扱いやすい形にしているだけで。

天然酵母にもイーストにも、それぞれメリットデメリットがあるけど、用途によって使い分ければいいんじゃないかな。

ー おお!私も天然酵母のほうがいいものなのかな?みたいな勘違いをしていました。でも実際どっちを使っているパンも美味しいですよね。砂糖に関しても、私はちょっと考え方が偏っていたかなと思いました。(以下、天然酵母とイーストについて、調べたことをまとめてみました。)

天然酵母:果物や穀物の周囲に付着する酵母菌を採取して、自然に発酵させた酵母のこと。イーストに比べて発酵力が弱く、パンができあがるまでに時間がかかるが、風味と味わいが豊か。発酵不足や発酵過多になることもあり、扱いが難しい。
イースト:果物や穀物から発酵力の強いパン酵母菌だけを集めて培養したもの。短時間でパンを膨らませることができ、発酵力が安定している。酵母が単一で癖がなく、天然酵母では扱いが難しい材料を多く使うパンにも適している。

「イースト菌」と、イースト菌を活性化させる食品添加物の「イーストフード」を混同している人も多い。また「天然酵母」という言葉に対しての「イースト」という対比が、イーストを人工物だと勘違いさせてしまうことも多い。

まあ実際白砂糖を大量に摂取すれば、身体に影響があるのかもしれないけれど、洋菓子みたいな嗜好品の材料において、それを違う砂糖に代えたところで、身体に変化があるのか、その効果と自分の納得できる味のバランスを考えると、材料は簡単には代えられないんだよね。

あと、スポンジに色を付けたくないと思うと、白砂糖を使うしかないっていうのがあるんだよね。そういうことを気にせず、うちは茶色いスポンジになっちゃうって言ってもいいかもしれないんだけど・・・

ー 嗜好品だから、見た目の美しさも大事ですよね。

砂糖も用途がいろいろあって。白砂糖って時間が経つと固まりができるよね。あれは湿気を吸うからで、しっとりさせたいものは白砂糖のほうがいいんだよね。だから、スポンジケーキは白砂糖で、湿気を吸っちゃだめなメレンゲはグラニュー糖にしていたり。

ー じゃあクッキーもグラニュー糖ですね。そういえばお菓子作りの本にも、クッキーはグラニュー糖って書いてありました。

そう。でもグラニュー糖を使いすぎるとクッキーがざくさくしすぎるんだよね。固くてすごくザクザクするものはみんなグラニュー糖で、しっとり系のものは粉砂糖。

この型抜きクッキーは、タルト生地と兼用なんだよね。だから、タルト生地としてはかなりクオリティが高い。

ー クッキーにこだわりはあるんですか?

そんなにはないけど、なんでもかんでも甘くしすぎないようにはしてる。

例えば、フランスでは食事に砂糖を使わないから、デザートにしっかり甘味をつけているけれど、日本は食事の中に砂糖が結構入っていたりするし、今は時代が砂糖を控えるという傾向だしね。

でも砂糖を減らしすぎると美味しくないし、膨らまないとか、いろいろなデメリットもあるんだよね。

クッキーに限らず全部のものに対して、甘さを控えても美味しいギリギリのラインにはこだわっているかな。

「身体に悪いものは何も使わない」という極端なことはしないけれど、トランス脂肪酸が入ったものは使わないとか、気にしている部分もあるよ。

ー 材料の量を、自分の求める味のクオリティを損なわないギリギリのラインで考えているんですね。他にこだわりはありますか?

タルトのこだわりは土台の上にアーモンドクリームをのせていること。

アーモンドクリームっていうのは、カスタードクリームみたいなものじゃなくて、焼けば固まるクリームなんだけど、これをのせることで土台がふかふかになるんだよね。

その上にカスタードクリームを塗って何かを置くか、洋梨みたいなものは、アーモンドクリームの上に置いてそのまま焼いちゃったりするんだけど。

アーモンドクリームは本来、バター・砂糖・卵・粉は、全部同じ分量って決まってるんだけど、そのうち砂糖だけをを半分にしてる。それでも甘いけどね。

あとは、栗のケーキを作らなくなったね。今はかぼちゃを栗の代わりにしてるのね。

栗が高いっていうのもあるけど、マロンのペーストって栗と同量くらいの砂糖を入れないと甘くないんだよね。かぼちゃは砂糖を殆ど入れなくても甘い!

ー ここのケーキ甘すぎなくて美味しいってみんな言いますね。粉とかはやっぱり業務用?

いろいろ使ってみたりもしたけど、小麦粉や砂糖や卵は、実はスーパーとかで買ってる。業者とそんなに値段も変わらないし。アーモンドパウダーや粉砂糖は大きな袋で売ってないから、業者で買うけど。

ケーキの材料って代用品がものすごくあって、牛乳や卵も、一般には出回らない、値段にすると一般の半額以下のものとかもあるんだよね。そういうものは一切使わないけど。

従業員が多いちゃんとした店だと、いろんな決まりがあって、ミーティングしないと物が買えないとかあるけど、そういうところは自分の勝手にできるからいいなあと。

でも1人だと、これがいいかなって思いついた時に、のめり込み過ぎてしまう時もあって、それちょっと危ないよね。色々チャレンジするけど、なかなかうまくいかないしね。

ー お子さんに誰かお店を継いで欲しいとかは思っているんですか?

全然ないね~。1人じゃ大変すぎるから。笑 

仕込みが夜中にしかできないんだよね~。絶対に手を休めちゃいけないときにお客さんが来ると、生地が固まっちゃうとかあるからね。

自分がやってるバンドもね、あまり見せたことないの。

子どもは3人とも、音楽やケーキとは全然関係ない仕事してるよ。

ー そうなんですね。前島さん自身は今、音楽とパティシエのバランスはどんな感じなんですか?

いくつもバンドをかけもちしているから、音楽の活動は週2日~多い時は5日くらい、店が終わった夜に活動してるんだけどね。

頭は音楽が半分でケーキが半分。ケーキ屋が本職なんだけれども、音楽もやるってなったら、どんなバンドも真剣に仕事みたいにやろうと思ってるよ。

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前島さんのお店『ふらんす屋』は、私が一番行く洋菓子店であり、前島さんは私が所属する吹奏楽団でもサポートドラマーとして一緒に活動をしています。

私は以前から、明らかに砂糖依存と思われる量のお菓子を食べてしまう悪習慣があって、ここ半年ほど完全にお菓子を断っていました。

そんな中で、前島さんとお話しすることができ、自分の考え方の偏りも見えてきました。詳しくは、こちらに書いています。

これからは砂糖やお菓子と上手く付き合いながら、また前島さんのお店にお邪魔したいです。

前島剛 (まえじま つよし)
10年間ホテル勤務の後、1995年より山梨県北杜市で、パティシエとして洋菓子店『ふらんす屋』を1人で経営。ドラマーとしても、様々なバンドで活動中。
【ふらんす屋】
山梨県北杜市長坂町長坂上条1511-73
営業時間: 午後1時頃~7時頃まで。
定休日:毎週水曜日(臨時休業あり)
電話:0551-32-5616

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いろいろな方にインタビューをして、それをフリーマガジンにまとめて自費で発行しています。サポートをいただけたら、次回の取材とマガジン作成の費用に使わせていただきます。