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君の体温に触れて

地面を打ち鳴らす夕立に、私は目を見開いた。入道雲の育ち具合からして、下校時間に一雨来そうだなと思ってはいたのだが……。大粒の雨が、容赦なくセーラー服を濡らしていく。
家に向かって駆けだそうとしたとき、後ろから声を掛けられた。

「あの、傘持ってないの?」

振り向くと、同じクラスの丸山君がいた。銀縁眼鏡に、長めの前髪が特徴的な男子だ。

「うん。朝、急いでたから忘れちゃったんだ……」

思えば、彼と会話をするのは初めてだった。丸山君は数か月前に来た転校生だったからだ。窓辺の席で一人文庫本のページを繰るような物静かなタイプで、近寄りがたいイメージがあった。

「良かったら、この傘使う? 俺の家、そこの角だからさ……」

そんな彼が私のことを知り合いだと認識していて、話しかけてくるというだけでも驚きだ。その上、自らの傘を譲るだなんて――

「じゃあ、ここに置いておくから」

私の返事を聞かずに、丸山君は地面に傘を置いて走り去ってしまった。
置き去りにすることも出来ないので、私は青くて大きな傘に手を伸ばす。ピカピカの持ち手に触れると、仄かに熱かった。
これが彼の体温かと思うと、急に鼓動が速くなる。意識してはいけないと念じれば念じる程、私の手も熱くなるのだった。


シナリオライターの花見田ひかるです。主に自作小説を綴ります。サポートしていただけると嬉しいです!