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Magic to Do

僕は、ミュージカル、落語・講談、ラジオが好きだ。


バラバラに見えるかもしれない3つだけど、
”ストーリーを楽しむ” という点では共通している。


ラジオに関しては、小学生のころからずっと好き。


特に、深夜ラジオが好きだ。


深夜1時、自室でこっそりと、
ラジオを付けて聴いていた。


ちょっと大人の、くだらない下ネタ。


親にバレないよう部屋の電気を消して
最小の音量で聴く深夜ラジオ。


電波を通して、スタジオの空気が流れ込んでくる。


月夜、冷え込む外気。


とても大好きだ。


落語や講談も好き。


彼のラジオが好きで、
講釈師の神田伯山に興味を持った。


始めは、大好きなラジオパーソナリティーの
本職を見学しに行く様な気持ちで、
独演会を見に行った。


ちょっぴり難しかったけど、
それでもやっぱり面白くて、
YouTubeを漁るようになった。


そこから、寄席に行くようになって、
ほかの落語家にも興味を持ちだした。


そして、ミュージカルも大好き。


大学1年の春。


劇団四季のCATSを観に行った。


ミュージカルを観るのは、
小学生のころ家族で見に行ったライオンキング以来。


CATSは、とてもよかった。


大学では友達ができなさそうだ、ということを
感じつつあった僕を、肯定してくれたジェリクルキャッツたち。


その後1年間で、オペラ座の怪人、アラジン、ライオンキング、
バケモノの子、ノートルダムの鐘、を観た。


どれも最高で、劇団四季のディズニー作品を見て
アランメンケンという作曲家を知った。


アラジン、美女と野獣、リトルマーメイド、ノートルダムの鐘の
音楽の作曲者。


ディズニー音楽の巨匠。


そんな時、彼が来日するということで、
彼のコンサートのチケットも買った。


ここまではずっと劇団四季だったけど、
それ以外も観てみたいと思うようになった。


だから、ピピン、キンキーブーツ、シカゴという
四季以外のミュージカルも予約してみた。


そして明日、初めての四季以外のミュージカルである
ピピンを観に行く。


渋谷の、東急シアターオーブ。


初めての会場。


YouTubeで何度もピピンの動画を見て、
Twitterで何度も感想を調べた。


とにかく楽しみで、ワクワクしていた。


ミュージカルは、高い。


基本的には13,000円くらいする。


でも、僕にはそんなに高いとは思えない。


結局、賢いお金の使い方というのは、
どれだけ安く買えるか、ではなくて、
どれだけ還元率良く 自分の幸福に結び付けられるか、だと思う。


僕の場合、ミュージカルを観に行くとなったら、
チケットを予約した、いや予約することを考え始めたその瞬間から、
幕が上がるその瞬間まで僕を高揚感でマックスにする。


そして、幕が閉じてからも、
サントラを通じてそのミュージカルは僕の人生に入り込んでくる。


通学途中だろうが、朝起きた瞬間だろうが、
バイトでうまくいかなかったときだろうが、
所かまわず僕の頭に、ふと流れるミュージカルナンバー。


その瞬間、僕の頭では、
あの時の舞台上の光景がよみがえる。

そう考えると、チケット代は安い。


13,000円でも、その幸福が200日に分配されるとしたら、
一日あたり75円でとんでもない幸福を得られるという計算。


明日はピピン。


期待を胸に、ワクワクの前日、のはずだった。


そんな中、あるニュースが飛び込んできた。


ミュージカルピピンの
新型コロナ感染者の確認による講演の中止。


手が、足が、頭が、息が、止まった。


心臓だけが、異常に速く動いていた。


前日の今日、ピピンの中止が決まった。



明日の公演がなくなった。


すごく辛い。


悔しい。


苦しい。


悲しい。


苛立たしい。


きっと、この舞台を楽しみにしていた多くの人が、
同じように思ったはず。


誰も悪くない。


だからこそ、悔しい。


出演者や関係者の方のほうが、
もっと悔しいはず。


でも、僕だって悔しい。


ただの観客なんだから、
悔しい、というのは変かもしれないけど、
やっぱり、悔しい。


そして、ため息ばかり。


自然とあふれ出る息。


ぼーっとしてしまう心と体。


前にも、こういうことがあった。


多くの舞台を見に行こうとすると、
コロナ禍では突然の中止に何度も遭遇する。


そして、裏切られたような気持ちになる。


期待なんてしなければよかった。


楽しみになんてしなければよかった。


発券したチケットに、胸を躍らせなければよかった。


こうやって、自分で未来の光を潰してきた。


今回も同じだった。


楽しみにした自分を恥じ、否定し、蔑んだ。


そんな時、ふとあるメロディーが
僕の頭を通り過ぎた。


星明かりさえ すでに消えて
行く道も 見えない
故郷さえも どこかに消え
僕は今 独り

求める時は 必ずいると
貴方はいつも 誓った
僕は独り 貴方を求め
その一言を 待ちつづける

夜明けはいつ訪れる 終わりなきこの夜
貴方はどうして 去ったのか
行くべき道は どこに

求める時は 必ずいると
貴方はいつも 誓った
僕は独り 貴方を求め
その一言を 待ちつづける

夜はいつか終わる
日はまた昇る  日はまた昇る
雲はいつか晴れる
日はまた輝く  日はまた輝く

夜はいつか終わる
日はまた昇る  日はまた昇る
雲はいつか晴れる
日はまた輝く  日はまた輝く

そうだ そうなんだ 日はまた昇り
そうだ そうだ 空はいつか晴れ

夜はきっと終わる 日はまた昇り 心も晴れてゆく

夜はいつか終わる 日はまた輝き
空は晴れて 日は昇り 光はあふれ


はじめて観たミュージカル、ライオンキングの
”終わりなき夜”というナンバー。


ふと頭に流れたこの曲に、
なんだか泣きそうになった。


零れそうになっていた思いが
あふれ出してきた。


ミュージカルによる悲しさを救ったのは、
ミュージカルだった。


気分が晴れやかになり、
ふと思った。


このままだと悔しいから、
明日は寄席に行こう。


寄席で、落語を、講談を聴こう。


明日の出演情報を見る。


浅草演芸ホールにしよう。


ピピンを見るはずだった時間、
僕は寄席に行くことにした。


落語で、思いっきり笑おう。


娯楽、エンターテインメントは、嗜好品なのだろうか。


今日、僕はエンターテインメントに救われた。


今まで積み上げてきた、僕のエンターテインメントに救われた。


生きるために、僕にはこれがいる。


中止の発表を聞いてから聴く気にならなかった、
ピピンのアルバムを再生する。


ミュージカルピピンは、
"Magic to Do"という曲から始まる。


妖艶なイントロから始まり、
サビではこう歌い上げる。


"We've got magic to do just for you!"


”あなただけの魔法を!”


「好き」が人生を作る。
明日へ僕を向かわせる。








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