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神保町日和〜春のお彼岸編

神保町の古本屋街によく出没します、Himashunです。

5年くらい前から毎月通い続け、今では古本屋の脳内マップが作成されるまでになっています。

自分の専門は日本美術の展覧会図録ですので、文庫本が得意なお店にはあまり出入りしません。

神保町では元々展覧会図録は手っ取り早い収入口として片手技的な位置付けでした。

それが今では専門店までできるくらいの一大ジャンルになっています。

今日はいつものルート、小川町駅で降りて神保町交差点までを物色しつつ散歩してきました。

戦果はボチボチ。スーパーレアこそありませんでしたが、その二段下くらいの希少図録が2冊ほど手に入りましたのでご紹介。

今日のラインナップはこちらの5冊。

『神武寺』展図録 神奈川県立歴史博物館(⭐︎)
『琉球漆器の美展』図録 浦添市美術館(⭐︎⭐︎⭐︎)
『東寺の曼荼羅図』図録 東寺宝物館(⭐︎)
『呉春』展図録 逸翁美術館(⭐︎⭐︎)
『特別展 密教工芸』 奈良国立博物館(⭐︎⭐︎⭐︎)

⭐︎はレア度を表しまして、5段階評価です。

星三つが二つ取れたのはけっこう良い日だと思います。

神保町は確かに日本一の古本屋街ですが、希少本に関してはまだ大阪や京都の方が上です。

その理由はよく分かりませんが、上方の方が商売のレベルが高いし、本当に欲しいものを安くで売ってくれます。

今回の星三つのうちの一つが、琉球漆器の本。

沖縄に行かないとなかなか手に入らない本なので、よく入荷したなという感じ。

源喜堂で3500円でした。相場としては少しお安め。


琉球漆器の方は2冊目。

左はメルカリで1000円ちょいで買ったもの。こちらは浦添市美の館蔵コレクション。その大半を寄贈したのは日本画家で川端龍子の孫である岡信孝氏。

私が今回買ったのは県外のコレクター達が集めたコレクションだそうで、詳しい背景は分かりません。

館蔵コレクションの方はかなり中国っぽい感じがする、大きな作品が多めです。


『琉球漆器の美』展図録の中身です。

コレクションとしては茶道具色が強めかなという気がします。

要するに茶人達が茶会で使うために集めたコレクションということです。

先の戦争で沖縄には文化財は何も残っていませんが、それより前から数寄者たちは沖縄に目をつけていました。

そのおかげで本土にはけっこうな数の琉球漆器が残っていたようです。

琉球漆器の特徴は大雑把に言えば、朱塗りが多い、そして螺鈿の質が高いということでしょうか。

漆器というと黒のイメージが強いですが、沖縄は風土的に朱塗りの方が合っていたのでしょう。

沖縄は夜光貝の産地であり、輸出原産地でもあります。地産地消の螺鈿はまさしく七色の輝きです。

ちなみに、朝鮮や中国も漆塗りは古来から盛ん。japanとは英語で漆器のことですが、漆器は日本だけではありません。

上の図録は、韓国国立中央博物館の朝鮮漆器を特集した図録。

韓国の展覧会図録はシックで洒落たものが多いです。


朝鮮王朝時代の螺鈿が象嵌された箱です。

絵画に影響を受けた素朴な文様ながら、螺鈿をふんだんに使い冨貴を表します。

朝鮮の漆器は黒地が圧倒的です。数は少ないながら、高麗時代まで遡るともっと精巧な、茶色みを帯びた作品が残っています。

琉球漆器は年代によって三つぐらいにそのスタイルは分かれるそうで、王朝後期から現在までは朱塗りが主流です。

こちらは中国の香港中文大学博物館で開催された、コレクション展の図録。

朱色が美しいデラックスなハードカバー図録になっています。

漆器の源流は中国であり、この図録では宋元から清代に至る漆器を取り上げています(ただ螺鈿入りの漆器は弱め。)


宋元の螺鈿入り漆器がこちら。

すさまじい技術力、そして溢れ出る高貴さ。さすがです。

ちなみにこれとそっくりなものがトーハクにもあるそう。

日本には宋元の漆器が多く伝わっていて、その全貌は根津美術館の展覧会図録『宋元の美』で窺い知ることができます(まだ持っていないので欲しい!)

琉球漆器はこれほどの高雅さを持っていませんが、逆に中国を憧憬し追いつこうとする情熱がほとばしっており、また魅力的です。

長くなりましたが、漆器の話はここまで。次の図録にいきましょう。

神奈川の神武寺というお寺の展覧会図録です。

図録専門の悠久堂で1500円でした。ちょいお高い。

神武寺は鎌倉の近くにある天台の名刹。私は行ったことはありませんが、古来からの山岳修行の場だったそうです。

寺宝はあまりすごいものがあるわけではありません。というのも室町時代に大火に遭っているからです。

それでも薬師三尊や、千手観音図、十一面観音坐像など往時を偲ばせるに足る仏像や仏画が残っています。

境内にはやぐらや切り通しが残っており、史跡巡りには面白そうなので、神奈川住まいの人間としては興味が湧くお寺です。


3冊目は、写仏用の図録、『東寺の曼荼羅図』です。

こちらはけっこうな優れものでして、普段ですと細部が見られない巨大曼荼羅を、拡大して数ページに渡り取り上げてくれるありがた〜い本です。

京都の真言宗総本山である東寺には空海が関与した直系のものも含め、多くの曼荼羅が伝来します。

それらを大々的にピックアップしていて、割に安くで多く出回っているのでオススメの図録です。

こんな感じで相当なアップで一つ一つの仏様を拡大して紹介してくれます。

平安鎌倉期の仏様はかなり艶かしいお姿で、乳首(仏様にもあるんです)まで珍しく描かれます。

あと面白かったのは、緑色や青、黒い肌をした仏様もいたこと。

仏像では金色に塗られる仏様ですが、仏教絵画の表現ではさまざまな色で表現されます。

それを見て、かつて「俺は演奏の上手い奴なら緑色の肌した奴だとだってセッションするぜ!」とのたまわった晩年のマイルスデイビスの言を私は思い出しました。

マイルスと同様に、仏様も人種(仏種?)関係なくマンダラ・セッションするんですかねぇ笑


4冊目は、これが一番嬉しかったですね、『密教工芸』展図録です。

密教工芸、という言葉自体、ちょっと不自然ですね。

要するに、仏像や仏画以外の、シンボルとして仏様や聖や持つ宝珠や金剛杵(こんごうしょ)、金剛鈴などを差すみたいです。

この図録、1992年のものなので、まだ印刷技術が進歩しておらず、モノクロ図版がほとんどです。

ただ出品された工芸品は多くが金銅といって、銅で型を作った上に金を上塗りしたものなので、そこまで不便さはありません。

密教工芸、の一例。

最近すごいかっこいいなぁと思ってハマってます笑

右の輪宝はよく仏教のシンボルにもなっていますね。もともとは古代インドの武具だったそう。

それが仏教思想を広めることの象徴と今はなっています。

左の金銅工芸品は「羯磨(かつま)」。

カルマ(業)と音が似ていますが、そこからきています。

ちょっとマインスイーパーの地雷感あります、触ったら痛そう…。

最後は…。

ヒントなしでわかりますか?

ヒントは江戸絵画です。

うんうん、円山四条派のね。

そう、呉春(ごしゅん)です。

与謝蕪村と円山応挙に師事し、京都人から熱狂的に支持されたという。

日本絵画史上、とっても重要な画人です、是非覚えておいてくださいな。


呉春はこんな絵を描きます。

フツーに円山応挙っぽいですよね。

でもちょっと荒いな、っていう筆致。

まさしくその「荒さ」は与謝蕪村譲りであり、南画らしき「抒情性」を付与します。

この人、応挙や蕪村の陰に隠れているんですが、すごい人です。

いいとこ取りできる才能がある画家、いいですよねぇ。換骨奪胎できる画家というか。

現代画家で言うと、今と昔をごちゃ混ぜにして描いてくる山口晃みたいな人、それが呉春な気がします。

長くなってすみません!以上です。

甘味でもどうぞ!神保町の和菓子屋、ささまのお彼岸おはぎです。

母が大好きなんですよ、ささまの生菓子。

私は日本一こし餡が旨いお店だと思っています。

神保町の駿河台交差点にあります。ぜひお立ち寄りを。

ご覧いただきありがとうございましたー。

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