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【物語】遠吠え #1~シロの詩~

寒空の中遠くの山へむかって
一心に飛んでいく鳥を
僕はここからじっと見上げている

どうしてあの子は
自由に行きたいところへ飛んで行けるの?
どうして僕は
ここにずっと綱につながれたままなの?

僕は「わんっ!」と空に向かって吠えた
どんなに吠えても
その声は空と空気の中に虚しく消えていく

飼い主は僕を愛していると抱き締めるけど
それはほんの束の間のこと
ほとんどこうして外に放置されている
綱につながれたままで

僕の体はどこにも行けない
心は空想することと
鳥達をうらやむことだけが許されている

僕は昔
何度も何度もこの綱をひきちぎって
見たこともない道や公園へと
自由に走っていったものだ
「野良犬になりたい」
僕は心底そう思った

餌をさがし
友達を探し
僕の力で生きていく
それがしてみたかった

たとえ 餌を探せなくて
飢えそうになっても
自分の力で生きたいとそう思ったんだ

緑の木々の中に自由を感じる
「僕の道を生きるんだ!!」
僕は空に向かった声高らかに叫んだ

希望に胸が高鳴る
「僕は自由だ!」

背後に
束縛がそっと忍び寄ってきた

僕はとらえられた
心も体も僕の生きる道さえも

飼い主は言う
「いつも僕は君に
間違いのない生き方と
ありあまる餌を与えている
いつも君のことを思って大切にしているじゃないか。
どうして逃げるの?
さあ おいで。私の愛情に帰りなさい」

僕はそうして何度も何度も
飼い主の愛情という札のついた「束縛」という綱にまたつながれた

それから僕は
綱をひきちぎることを
自分を生きることをやめたんだ

僕が一瞬でも自由を望んで
思わず走り出そうとすると
僕の首はぎゅっと強くしまる

その嫌な痛みは体だけじゃない
心にも痛みが鋭く走る

そしてあの声が聴こえてくるんだ
「君は僕の愛にこたえつづけなさい
君よいつまでも僕から決して離れず
従順であれ!」
何度も何度も言われ続けた飼い主のいつもの言葉が響いて
頭がズキズキとまた痛みはじめてきた

僕は・・・
命を燃やすことも許させず
ただつながれたまま
飼い殺されるんだ

僕は死んだ時にやっと自由になれる
呪縛はあの世まで追ってはこれないからね

この命の終わりを待ち望む自由しか
僕には許されていない

僕は愛情という名の
「束縛」の綱につながれたまま
今日も生きている

ひきちぎりもせず 逃げもせず
ただ空に「わんっ!」と
虚しく吠えている

灰色の空はもう
僕になにも言ってはくれない

愛情という名の呪縛は
あぁ なんと重苦しいのだろう

https://note.com/himawari_mama/n/n0050d22768c0

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