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反君主の年 【1000文字小説 #004】

 千年王国紀666年は、俗に「反君主の年」と呼ばれ、何かが起こると恐れられていた。

特に大患難時代を通過してきた人々と、その末裔にとっては、666という反キリストを象徴する数字が、強いトラウマとなっているのだった。

 フェリツ国の破天荒で怖いもの知らずと称される王は、臣民の心痛を鑑みて、反君主の年を冗談でやり過ごそうと考えた。
「食い物だ。とっておきの変な食い物を考え出して食卓を埋め、パーティをするぞ。呪われた666年を笑い飛ばしてやるんだ」

「たとえば何?」女王は尋ねた。

「たとえばだな」

 王は形のいい顎にちょんと指をつけて考えた。どうせなら振り切ったものを作らなければならない。

「ダニエル、という料理はどうだ?」

「ダニエル?」女王は眉をしかめた。

「見た目はコロネに似た食べ物だ。筒状のパイでもパンでもいい。ただし出口も入り口も塞いで、中にはタンポポとソーセージを詰めるんだ」

「何でタンポポなの?」

「ダンデ〝ライオン”と言うだろう」

「洞穴のなかに、獅子とダニエルを入れるのね」

「そう。タンポポとソーセージは、一緒くたにしちゃダメなんだ。半分がタンポポ。半分がソーセージだ」

「恐れ多いわね」

「これくらいでなくちゃ」王はふふんと鼻を鳴らした。

 女王も、真珠色の指先を頬にあてて考えた。

「じゃあ、同じくダニエル書から、〝ネブカデネザルの炉”という料理はどうかしら」

「ネブカデネザルの炉!」王はもうすでに面白そうに目をらんらんと輝かせた。

「揚げパンみたいなものを想像するといいわ。中に四種類のアイスクリームを入れて、熱々の油でジュッと揚げるのよ。中のアイスが溶けないうちに、引き上げて食べるの」

「シャデラク、メシャク、アベデネゴ、そしていないはずの四人目だな。素晴らしい! まさにそういう発想だ」

王は女王と考えたレシピ見本と共に、国中におふれを出し、反君主の年を乗り切るための創作料理を、臣民から募った。



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