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AIレジのアルゴリズム 【1000文字小説 #003】

 しまった。AIレジに並んでた。
 私は他のレジ選択肢をさっと見返した。
 女性の有人レジは山盛りのカゴをさばいている。男性キャッシャーは待機中だ。セルフレジ。ビールを買ったので、結局は人を呼ばなければならないのが面倒だ。
 男性レジに行こうにも、今日はパンティライナーを買ってしまった。男性キャッシャーが、生理用品を持ち上げた時の「そ……」と頼りなげな手つきが苦手なのだ。男性にしても、四角いわりにかさばって手応えのない商品だなあと思っているだろう。さりげなさを装って紙袋に詰めてくれるが、ぜんぜんさりげなくないのも申し訳なさを掻き立てる。
 生理用品を買った日は、女性レジかセルフレジか、AIレジかに並ぶ。後者2択は言わずもがな、女性キャッシャーの、生理用品がその他大勢の商品とさして変わらない扱いがいい。
 アルコールを買った日は、有人レジかAIレジかに限る。

 今日はゆずこしょうを買ってしまった。ゆずこしょうでAIレジを通ると、しばらくの間、婚活サービスのディスプレイ広告に煩わされることになる。
 テキには、私が四十代女性であることなど、とっくに割れているようで、
 「一人でいるのもいい……でも二人ならもっといい……まだ間に合う……いや、年齢を重ねた今だからこそ……将来を見据えた……大人の恋愛ができるんじゃない?」というような、インハウスのコピー担当が捻り出した、お花畑広告を一週間ほど視界の端っこで追うことになる。
 ゆずこしょうを買うと、アルゴリズムが四十代/女性/結婚願望→縁があれば、を叩き出してしまうらしい。

 そうこうしているうちに、前に並んだ男性が「あっしまった」というように「AIレジ」のサインと自分のプレート上の商品を見て列から外れ、男性キャッシャーのところに小走りで行ってしまった。プレートの上には菓子パンと、剃刀の替え刃と、タラの芽の天ぷらと味の素が乗っていたが、その中に、彼の日常をざわつかせるアルゴリズムの着火剤が含まれているのだろうか。


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