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短編:練習04

飛鳥の頭は丸くて小さい。そして小ぶりな頭部を支える首がまたことさらほっそりしているのでみちるは見ていて心許ない気持ちに駆られた。小さく尖った唇のみで声を発しているんじゃないかって思うような、か細くて過敏そうな高い声。二言以上喋るとその心許ない喉元を、ンくっと鳴らす。咳ではなく声でもなく、鳴くとしかいいようのない音「みちるちゃん、おはよう。今日の授業は何限からだったっけ?」ンくっ。子犬みたいなその鳴声にあたしはなぜか鳩尾の辺りが深くゆっくりと軋むのを感じる。不安と言い換えてもいい。でもそんなことはおくびにもださない。飛鳥の喉が鳴ったのを指摘することもしない。それからまたとりとめもないことを話す。宿題が出ていたかどうか、昨夜見たテレビの話。ンくっ。最近聴いている音楽、ンくっ。ペットの犬の話。ンくっ。あたしの不安はやがて落ち着いて、もはや安堵にすげ替わっている。飛鳥はあたしが彼女の鳴き声に反応しないようにしていることをすでにわかっている。そして意にも介さず話続けていることで、鳴き声を気にかけないという判断がただしいような気になった。

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