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恋の温度


先日、友人の付添いで占いに行った。
占いを信じない私は、半分冷やかしのような気持ちで自分の恋について聞いてみた。

「今のままではダメ。もっと人と会ったり、恋愛映画を見たり、自分の中で"恋の温度"を上げなさい。」

占い師はそんなようなことを言った。


そんなことは三日も経つと忘れていた私だったが、私は今、恋の温度がだいぶ上がっている。
私をそうさせたのは占い師でも、新たな出会いでも、恋愛映画でもなく、

この本だった。


ふと立ち寄った本屋で、なかなか見つけられず初めて検索機を使ったこと。カバーをかけられた時、綺麗な装丁が隠れてしまってもったいないような、それともひっそりと守りたいような、不思議な気持ちになったこと。しっとりとした紙に触れ、本ってやわらかいんだ、なんて思ったこと。

そんな一つ一つが、大切なことのように感じて、読む前からこんなにじっくり「本」を味わったのは初めてだったかもしれない。


そっと扉を開いてからは、あっという間だった。

めくる指を走らせる度に、私の中を様々な恋が駆け抜ける。
そしてそれを紐解くかのように、作中の店内に流れるメロディ。


私の中で錆びついていた「恋」がガコガコと揺れ、軋んだ。


途中で本を閉じる時、私はふと思い出して財布にずっと入っていた映画の半券を挟んだ。
始まるかもしれなかった恋のかけらのようなそれは、この本の栞にふさわしいように思えた。


幾つもの恋が私の中に染み込んでいく。
同時に私の携帯には、それぞれの恋の傍らで流れる名曲たちが追加されていった。それらをプレイリストにまとめ「恋はいつも…」と名前をつける。

十九個の恋を彩る曲と、聖夜のアルバム、そしてある映画の主題歌。
最後に流れるであろう映画の曲に想いを馳せながら、プレイリストを回す。


私はこれからきっと、このプレイリストのアーティストを辿って、新たに気に入った曲を追加していくだろう。

その中のどれかが、私のまだ見ぬ恋の傍らで流れているかもしれない。


ほら、あなたも今、恋の温度が上がっているはずだ。


※こちらは、林伸次さんの小説「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」の文庫版発売にあたって募集されている、文庫版解説文への応募として投稿させていただきました。
小説を楽しく読ませていただいたことはもちろん、自分がこの本に触れて感じたことや、作品に対して何かを書くという面白さを知ることができました。
このような機会を与えてくださり、ありがとうございます。


#恋はいつも文庫版解説文

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