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随筆【五】

夜妻が私の布団に潜り込んでくることがある。
そういう時、大抵は妻が不安感に襲われたりしている時だ。
私はそんな時妻の体をとん、とんと優しく手で打つ。そうするのは私はそうされると安心するからで、後で妻からそのことを聞くと妻も安心するらしい。

私はそうする時いつも自分が小さかった時のことを頭に思い浮かべる。
小さな時に住んでいたマンション。その一室。その部屋が広いかどうだったかはもう思い出せないが、たしかそこで父と2人で寝ることがあった。
父は寝かしつける時に私の体をとん、とんと優しく打ってくれた。それは父が私を優しく包んでくれているようだった。
その安心感と思い出の感触は今でも私の心に残っている。

今それを妻にするようになって思うことがある。
その柔らかな感触はされる側も安心させてくれるが、する側もどこか心を穏やかにさせられるということだ。
目の前に大事な存在が居る。
その大事な存在を柔らかに包む。
その穏やかな時間。
それは大事な人を優しく抱く感触に似ている。

あぁ、大事な人が生きていてくれているんだな。ここにいてくれるんだな。そういう幸せな感触に私自身も包まれる。
かけがえのない時だ。

それは私をたまらなく幸せな気持ちで溢れかえさせる。その幸せな気持ちを大事な人にも分け与えられていれば、その瞬間それ以上のことはない。
状況は違うかもしれないが、父も同じような気持ちだったのかもしれない。

また実家に帰って、話をしてみたい。

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