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[小説]ギフト〜誰がどうして〜

 ある日、うちの次男坊が派手に殴られて帰ってきた。私は激しく動揺した。

「どうしたのそれ!」

と言うが早いか、陽太の顔を両手で包み、何があったのか聞いた。だが、本人はこちらの動揺など意にも介さず、「何でもないよ」とそれ以外答えない。何でもない訳ないじゃない、と食い下がるも、陽太は自分の部屋に戻ってしまった。時計を見ると午後4時半。まだ学校に誰かいるかもしれない、と電話をかけた。

 電話に出たのはちょうど顧問の先生だった。うちの息子が殴られて帰ってきたこと、何も話してくれないこと、何があったか知りたいと伝えた。

「すぐにお母様にご連絡ができず申し訳ございません。陽太くんの様子に大変驚かれたことと思います。当事者どちらにも話を聞いたんですが、どちらにも細かいところまで話してもらえませんでした。陽太くん自身はこのことをあまり大事にして欲しくないようで、そういった経緯もあり、ご連絡が遅れました」

話してもらえませんでしたって、本人が大事にしたくないからと言ったからって...。私は納得がいかなかった。何があったにせよ、暴力をふるった方が悪い。それにあれは一発二発殴られただけではない。

「相手の子はなんて言ってたんですか?教えてください」

「いやぁ、本当に細かいところまで話してもらえなくてですね...。でも理由も無しに殴る子じゃないんですよ。今までもこんなことはなかったですし、部活も真面目に取り組んでいて。これは...推測になってしまうのであれなんですが、他の友達のことを思いやるあまりの行動だったのかなと...」

何とも歯切れが悪い。この先生は私が聞きたい答えをくれない。電話でもどうしてもイライラを隠せなかった。だって自分の子どもが顔を腫らして帰ってきて、理由も分からなくてどうして冷静でいられる?この先生は一体何をどうしようとしているのか。むしろ何をどうしようともしていないのか?とりあえずこの電話をどうにか取り繕うとしているようにしか感じない。

 大体、友達のことを思いやったからと言って、人を殴っていい訳ない。それにどう考えたってこれはやりすぎだ。ここまでやる必要があるのか。陽太がそれほどのことをしたとも思えないし...。あぁダメだ!ハッキリした事が聞きたい!

 この先生とのこの電話でのやりとりでは拉致があかないと感じ、私は電話を切った。しばしスマホの連絡帳を見る。スクロールすれどもなかなかピンと来る人がいない。そして「わ行」まで来たときに気づいた。灯台下暗し。お兄ちゃんに聞けばいいじゃない。

「それより先に冷やさないと」

響子はひとりごとを呟きキッチンに向かった。

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