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孤立していると感じる夜に : 「絶望名言」読書感想文

 NHKのラジオ深夜便の番組を文庫としてまとめたもの「絶望名言」を読了しました。これは古今東西の文学作品の中から、絶望を書いた言葉を紹介し、生きるヒントを探す番組です。

「いくら生きたいきたいと思っても、死が救いに思われるほど辛い現実がある」

 そんな言葉が飛び出すほど、絶望の名言と体験を深く掘っていく内容になっています。カフカ、ドストエフスキー、べートーヴェン、ゴッホ、芥川龍之介、中島敦などなど。

 文学の中の絶望名言やその背景を知ることで、「ああ、人生がとても苦しいのは自分だけじゃないんだ」と思う。すると、私の背中にもぴたりと張り付いてしまっている絶望をすこし自分から剥がして見ることができました。
 現実には何も変わらないし、人生の問題の解決策はやはり見つからない。けれど、絶望が少なくともこの世の中で私にだけ張りついているものではないと思うと、少し楽に息ができる気がしました。私と絶望との距離が少しでもあくことは、自分の中の凝り固まった思い込みから離れることなのかもしれません。それによってほんの少し、心の余裕ができるのかもしれません。


 私も病気のために、できていたことができなくなったという体験があります。普通ではなくなってしまったという孤立感。
 「病気によって首を絞められているという感じで、なんとかその手を振り払いたいという思いだけでした」
 という文学紹介者でご自身も難病を抱えておられる頭木弘樹さんの言葉にはとても共感しました。
 仕事、病気、恋愛、家庭環境、人間関係、お金、死別など。問題を抱え、絶望し、孤立感を抱かない人などいないのではないかと思うのに、私たちはそれを外に、他人に見せずに生きています。見せれば自分が世の中で不利になると分かっているからです。
 でもそれはとてもしんどい。抱え込むしんどさ。他人には人生に問題などないとしか見えないしんどさ。どうしても、孤立してしまう。だからその胸に去来するものを絶望というのかもしれません。

 できることなら私は、運命と戦って勝ちたい。だが、この世の中で、自分が最もみじめな存在なのではないか、と感じてしまうことが、何度もある。あきらめるしかないのだろうか。あきめとは、なんて悲しい隠れ家だろう。しかも、それだけが今の私に残されている隠れ家なんだ。

べートーヴェン(友人の医師フランツ・ゲルハルト・ヴェーゲラーへの手紙)


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