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【オーナーカーレビュー#3】初代だけが持つ独特な世界観 トヨタ 初代プリウス(NHW11型) 試乗レビュー

こんな車をレビューしている人のほうが少ないのではないだろうか?今回は初代のプリウスに乗せてもらうことができ、なおかつ長距離を走ることができたので、レビューを書いていこうと思う。

この車のオーナーはhiroki99zさん。とても初代プリウスに詳しい方なので、興味のある方は是非ツイッターもみていって欲しい。

ということで、レビューしていこうと思う。

引用:GOOD CAR LIFEさん


みなさんは、プリウスと比べて、どの代のものを思い浮かべるだろうか。自分はプリウスと言われれば真っ先に、箱根駅伝を走る30プリウスの姿が思い浮かぶのだが、人によっては今のプリウスの基盤となった20系だったり、かなり大きな進化をした50系、デザイン性がかなり上がった60系を思い浮かべる人もいるだろう。

「21世紀に間に合いました」のキャッチコピーが有名ではあるが、初代のプリウスを思い浮かべる人というのは少ないのではないだろうか?もちろん初代を思い浮かべる人もいるとは思うが、オーナー曰く20系を初代と思っている人も多いようだ。
ちなみに今回メインとなる11プリウスのキャッチコピーは「Hybrid Frontier」だそう。

内装からみる「ヒューマンパッケージ」のすごさ

まず11プリウスに乗って一番に感じること。他の代のプリウスと比べても圧倒的に視界が広い。プリウスといえば空力を求めたクーペスタイルで、確かに燃費はいいが、視界がいいとはお世辞にもいえない。

11プリウスの視界
50系プリウスの視界

前方視界はこの2枚を比べれば一目瞭然だろう。50系も湾曲したダッシュボードの割に運転はしやすいと感じたが、視野が広いというのは安心感にも繋がる。

ご覧の通りウォークスルーができる。コラムシフトや収納が奥まっているからこそできるのだろう。

また、ウォークスルーできるのも、初代系の大きな魅力だろう。普通車でセダンスタイルのクルマたちはセンターコンソールがあるのが一般的だが、初代プリウスではセンターコンソールがカットされている。この車高で車内を移動するというのはなかなかキツイものがあるというのが正直なところだが、運転席側からクルマに乗り込むのが難しい時など、役に立つ場面はあるだろう。この辺りから、トヨタがこの技術を世間に浸透させたかったことが伝わる。

また、メーターやエネルギーモニターの表示もシンプルでとてもみやすい。
このモニター、ナビやオーディオなども一緒になっており、EMV(エレクトロマルチビジョン)と呼ばれるものだが、こちらで回生量や瞬間、平均燃費も見ることができる。欲をいえば瞬間、平均燃費とエネルギーモニターが同時に見られたらもっと楽に燃費運転ができるのだが、このような情報が可視化されているのはすごい。ちなみに10(いわゆる前期型)では瞬間燃費のみで、平均燃費表示はなく、ナビの音声やエネルギーモニターのデザインまでまるっきり違う。ナビの音声に至っては地名のみに合成音声が使われており、違和感ではあるがそれもまた愛嬌。

シートがふかふかなのも現代の車にはない特徴だ。現代の車はどれも安定感重視というかホールド感重視、いわばGTカーが主流ではある。しかし、初代プリウスのシートはファブリックの素材がすごく上質で、現代のナッパレザーやプライムスムースのような上質感ではなく、親しみやすい中に実はしれっとおカネがかかっているような感触がある。全体的な空間の中で居心地が良く、「実家のような安心感」とはまさにこれのことを言うのだろう。

詳しくはオーナーが発信しているプリウスの翼を読んでもらうとかなりわかりやすいので、そちらを読んでください。
肝心な走りのレビューに行こう。

走りは優しいの一言

現行ではかなりスポーティーとなったプリウスだが、初代の走りを一言で表すなら、「ただひたすらに優しい」だろう。これには様々な構成要素が重なってこうなっているわけだが、今回は、その理由を探っていこうと思う。
ちなみに、今回試乗したモデルは主に11前期(レビュー当時14万キロ走行)、後期(レビュー当時31万キロ走行)で、デザインの違いはほぼなく、グレードの違いで多少の違いはあるにせよ、どちらかというと制御面が違いが色々出ている。オーナーから聞いた話を織り交ぜて違いを解説していこうと思う。
また、10プリウスの最終型にも少しだけ乗せてもらうことができたので、そちらに関しても少しだけレビューしていこうと思う。

なかなかの長編になる予感がするが、貴重なクルマのレビューを最後まで読んでいただけると大変嬉しい。

シャシーの剛性が高い!

まずこの車に関して思うこと。シャシーの剛性感が異様に高い。10プリウスから比べると高速安定性能なども考えられたシャシーとなっており、街中を走っているだけでもフロアのプルプル感が少なく、時代を考えるとかなり剛性は高いほうだと言える。ドアの部分もしっかりしており、曲がっていてもボディからくる不安感はない。
証拠にドアを閉めた時にしっかりと身の詰まった音がしている。正直ヤリスやアクアのようなハリボテみたいなボディではなく、ドアの鉄板からしっかり作ってあるのだということが伝わってくる。
気密性も異様に高く、半ドアになりやすいが、静粛性も異様なレベル。

アシはふにゃふにゃ

プリウスといえば、空気を切り裂いていくようなデザインからGTカーのような、安定感のある足回りを想像する人も多いだろう。しかし、11プリウスの足回りは非常に柔らかめでいわばふにゃふにゃである。高いボディの剛性感、特にフロアの剛性によって、柔らかめのアシでもしっかり使いこなしていく。
街乗りでは非常にゆったり感があり、1200kgの割と重めな重量と剛性の高いシャシーをうまく使いこなせている。

乗り心地に関連するものとしてハンドリングに関しても述べていこうと思う。ボディの剛性によって曲がっていっているという感じで、アシがついてきてない。ただハンドルを切った時のレスポンスは非常に良く、車の前側の仕事量がかなり多い。ハイブリッドバッテリーによって多少は重心が下がっているのも関係しているのかもしれない。

それより何より、フロントにスタビライザーが装着されているのが大きいのかもしれない。
逆に後ろ側はなかなかついてこず、アンバランスな感じが出ている感は否めない。総じて言って、グニャッと曲がる感じが出てしまっているし、一般人からすると微妙と言わざるを得ない。しかしこれも愛嬌。

何も考えずにハンドルを切るとまともなことにならないが、ボディ剛性は高いのでしっかりと車の姿勢変化を意識して、カーブでの一連の動作を意識して運転すると安全に曲がる。この辺りの作り方は非常にトヨタらしい。

加速は若干力不足

加速に関しては若干力不足感が否めない。およそ1200kgの車重に1.5Lエンジンで、重量と排気量の関係でいえば一番近いのは現行のフィットになるが、やはり時代の差を感じないと言われると嘘になる。
まずシステムスタートするとヒュルリンという音と共にエンジンがかかる。EV始動が当たり前の現代のハイブリッドとは違い、必ずエンジンが掛かるようだ。暖気が終わるとエンジンは止まる。コラムシフトを動かしてDに入れ、サイドブレーキを下ろしてブレーキを離すと無音でクルマが走り出す。
バック時も無音でバックする。もちろん車内ではピーピーというバック音がしているがそれのみで、車外で見ていても無音でバックしてくる。時代の革命を感じる。


この無音で走り出すのが後にプリウスミサイルと言われるようになるきっかけの一つになるのだが、エンジンのカラカラという音もなくクリープする様を見ていると、なんだか新技術が来たような不思議な感覚になる。感動にも近いのかもしれない。現代のハイブリッドは車両接近の警報音が必ず鳴るため、この感覚はすごく新鮮だった。
クリープの出方もガソリン車とは異なり、ブレーキを離すとまるで機械仕掛けのものがゆっくりと移動していくかのような不思議な感覚で、ガソリン車のそれとはまるで違う。これは0回転からスタートしていくモーター駆動と、アイドリングである程度回転しているものがクラッチによって繋がっていくガソリン車との大きな違いだろう。

10km/hほどでインバータのヒュイーンという低い音がしっかり聞こえてくるようになり、交通の流れについて行こうとすると18km/hほどでエンジンが始動する。そのあとは協調して加速、巡航を行うわけだが、エンジンの出力が若干不足している感じというか、エンジンのトルク感に谷間があり、以前170系のシエンタに試乗した際にも述べたが、実用回転域で力がないというのは、1NZエンジンの持病ともいうべき欠点なのかもしれない。それをモータートルクで補えればいいのだが、トヨタ初のハイブリッドに期待することもなかなかできず、バッテリーの出力、モーターの能力的にも決して高いとはいえない。

高速域はその割には伸びると言った感じで、これも1NZエンジンの特徴かもしれない。NAエンジンらしさがしっかりあり、低回転ではそんなに力はないが、高回転や高速域では素直に速度が伸びていく。3気筒のM15Aエンジンのような実用領域での扱いやすさこそないが、耐久性も高回転でのパワーもあるという、エンジンとして非常に優秀な出来であると言えるだろう。

現代のハイブリッドがいかに進歩し、優秀になっているのかが分かる一方で、読者の皆様には悪い印象を持たせるようなことになっているが、力不足が全て悪いというわけではない。むしろ、現行の2.0Lハイブリッドのような過激な加速性能は必要ないだろう。緩慢な加速力こそこの車に合っている。

結局車というものは見た時の第一印象が一番大事で、この車を見て一番最初に何を感じるかが大事になってくる。それに次いでどういう乗り心地なのか、どういう内装なのかなど、様々な要素が重なって車の総合的な評価が決まっていく。スポ車のような過激な乗り味で緩慢な加速の仕方ではキャラが合っていないし、センチュリーのような車で過激な乗り心地や加速はいらない。

エコミッションの写真。

スイッチ式ブレーキ

ブレーキはいわばスイッチといったような感じ。ハイブリッド車やEVで、よくブレーキがスイッチのように効くという表現を耳にすることがあるが、この車ほどスイッチ的にブレーキの効く車はそうそうない。踏んでから数ミリは遊びがあるのだが、あるポイントからガッツリ効くような感触で、ダバっとブレーキを踏むとぐっと首が動かされるどころか、普通にイタズラに寝てる人を起こせるだろう。やりすぎると嫌われます。

現行のフィットでは確かに初期からガッと効くブレーキではあるが遊びが少なく、初期から効きながらコントロール性もいいという優れものだったが、11プリウスでは初期から効きはするが、コントロール性はよろしいとは言えない。

そもそもこの時代に回生ブレーキを協調させて物理ブレーキも使用するというアイデアがそもそも斬新ではあるのだろう。現行のトヨタのハイブリッドでは、ヤリスやアクアあたりを最後にほぼこの現象は消え、企業努力を感じることができる。

今回は車を労るという意味で強めの制動はかけなかったが、安心感はあると言える。

鬼の静粛性

一言で言うと、静粛性は鬼。現行のBセグメント、Cセグメントあたりと比較してもこれに勝てる車はなかなかない。現行のフィットと同じくらいで、エンジンノイズだけで言えば現行のフィット以上、ノート以下といった感じ。もちろんオーラのような静粛性ではないし、エンジンの音も普通に聞こえてくるのだが、遮音がしっかりされている。箱の中に入ったエンジンが動いているような感じで、オーナーさんのデトニングした30系のプリウスよりも静かである。

この静粛性は現代のトヨタ車ではなかなかなく、居心地がいいのはもちろん、費用対効果もなかなか高いといえる。

ロードノイズも小さく、乗車後にドアを少しだけコンコンすると、かなり身が詰まった音になっている。全く響かない。現行のトヨタ車だとベコベコした音がしており、決して上質とは言えないのだが、ドアを閉めた段階でガシッとした密度感を感じる。

現行プリウスが持っていない初代プリウスの魅力

様々なものを単体で特徴として持っているものを紹介してきたが、現行プリウスにない魅力があるのは確かである。それを一言で言うと優しさだろう。

乗り心地にしても柔らかめで、安定志向というよりはラクシュリー志向だし、静粛性にしろ加速感にしろかなり優しい。視界も広く着座位置も高めなので運転もしやすく、それでいて実家のような安心感に包まれながら疲れることなく運転することができる。
初代プリウスのりの方々は新しいプリウスを嫌う傾向にあるように感じたが、そもそもの方向性の違いから、確かにそうなるよなと感じる。

中の人はどちらも好きで、初代にも愛着あるし現行にも先代にも愛着はある。どれが一番好きかといわれるとなかなか決められないが、それだけどの代もプリウスは完成度高く作られていると言うことである。
ただ、色々と叩かれがちな初代ではあるが、他のプリウスたちから消えてしまった魅力が確かに存在している車で、お金がかかっている場所こそ違うが、他の代と一緒でお金のかかった車であると断言できる。

10プリウス(初代前期)と11プリウス(初代後期)の違いについて

初代には10と11という二つのモデルが存在する。便宜上タイトルでは前期と後期という分け方をしたが、このふたつ、実はフルモデルチェンジレベルの大改造がされており、同じなのは各種部品と基礎のデザイン部分のみとも言える。

何せシャシーから違うのである。10ではもっといなしが効いているが、11ではシャシーから強化されており、加速力はともかく高速走行も意識したものになっている。

ハンドルに関しても圧倒的に10プリウスのほうが軽いし、乗り心地もいなしが効いているのか10プリウスの方がいいように感じる。加速力は圧倒的に11プリウスだが、10でも意外にも高速域は伸びる。

10プリウスのEMV

内装に関しても使い勝手や時代によって進化しており、EMVがタッチパネル化していたりエアコンパネル周りが変わっていたり。

現代車でマイナーチェンジでここまで進化する車を見たことがあるだろうか。少なくとも自分が見る限りここまで変わる車は少ないように感じる。

11プリウスの前期型と後期型について

11プリウスだけでも前期と後期がある。主に回生制御が違うようで、燃費に多少の影響はあるようだが、あまりその違いを感じることができなかった。
自分が感じた決定的な違いは減速時に回生が打ち切られるタイミングで、後期ではより燃費重視なのか5km/hくらいまで回生エネルギーをとっているが、前期では10km/hくらいで打ち切られてしまう。
また、これは同じコースを2台でカルガモ走行した時の燃費履歴だが、ドライバーの違いを差し引いても回生量に差がついていることがわかる。

11前期。
11後期。20分から25分のところで回収されてるエネルギーに差が出ていることがわかる。

まとめ

今回は珍しい車をレビューさせていただくことができた。しかも前期後期両方乗ることができ、なかなか贅沢に試乗させていただくことができた。
初代プリウスに俄然興味が出てきたのはもちろん、この世界観は色々な人に知ってもらいたいと感じる。
部品もどんどん廃盤になっていくだろうし、10プリウスに関してはバッテリー交換が2024年3月で打ち切られてしまうので、これからどんどんと現存数は減ってしまうだろう。時代の流れとして仕方のないことではあるが、なんだか寂しい気分になってしまうのも確かである。

今のうちにしか感じられないかもしれない初代プリウスだけが持つ独特な世界観、ぜひ皆様にも思う存分堪能していただきたい。

今回も長くなりましたが最後まで読んでいただきありがとうございました。オーナーはとても人懐っこくて親切な方なので、興味が湧いた人はぜひオーナーのツイッターも覗いてみてください。
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