悲劇。。。フルタイム父へのパパ見知り?

妻の出勤が増え始めた2月ごろから、娘は月曜日の午前中は決まって泣くようになった。生後3ヶ月にして早くもブルーマンデーを覚えた感じだ。とは言え、手に負えない程ではなく、月曜の午後、火曜日と次第に機嫌が悪いのも収まっていた。

しかし、生後4ヶ月が過ぎてまもなく、その日が訪れた。しかも、それは火曜日。妻が8時半に出勤してから何やらモゾモゾし始めた。9時にミルクをあげると、飲むのを拒否しつつ、まぁまぁのレベルで泣きはじめた。火曜日なのにまだ泣くのか、と思いつつ、懸命にあやす。しかし、泣き止む気配がないどころか泣き声は強くなっていく。ボリューム最大になって1時間近く泣き続けただろうか。

ピンポーン。

上の階のおばちゃんが、心配して様子を見にきてくれた。

「なんでそんなに泣いてるの?ちょっと見せてみなさい。」という感じで娘を抱っこした。

今日は妻がいないことや、哺乳瓶を強く拒否したことなど説明すると、

「パパが好きじゃないんだね(you don’t like Papa)」と、ややリズミカルに言いながら娘をあやしはじめた。

(そんなにあからさまに言わなくも、、、笑。。。(泣))

と思った頃には、おばちゃんはこの魔法の言葉を軽快に連呼しながら娘をあやし、そのメロディは、もはやユードンライクパパ音頭と化していた。

そして、娘、泣き止む、なう!

え、こんなに早く泣きやむの、さすがおばちゃんの経験値は違う、とか思って感謝しつつ、泣き止んだのでおれが抱っこしようとすると、

「オギャー、オギャー、、、」

おい。

娘はまたおれのところから離れてユードンライクパパ音頭に戻る、娘泣き止む、そして寝る!

「起きたらミルクをあげなさいね。また泣いたら来るから。それに何かあればいつでも我が家にきていいんだからね。」と言い残しておばちゃんは去った。

とりあえず泣き止んでよかったという気持ちと、なぜおれが抱っこすると泣くのかという気持ちが混ざり、なんとも言えない気持ちが小一時間ほど続いた(この間に熱を測っても異常なし)。そして娘が起きた。機嫌は悪くない。おれはミルクを用意して娘に飲ませた。

ゴクゴク、と飲みはじめたので、ほっとした。そして、そのまま

ゴクゴク

ゴクゴク

「オギャーーーーーー」

娘はまた泣き出した。そして、哺乳瓶を強く拒否。あやしても泣き止む気配はない。ヤバい。これはまた泣き続けるパターンか、そしてまたおばちゃんが来てあの音頭をはじめるに違いない。いや、待て、それならいっそのことこちらから出向いてしまうか。

そして、泣き止まぬ娘を連れて上の階に登る。おばちゃんは、こちらに向かっていたのかすでに玄関の前に立っていた。

そして、おばちゃんに抱っこしてもらう。

娘、早くも泣き止む。。。

では、泣き止んだのでさようなら、になるわけはなく、ここから赤ちゃん抱っこ合戦がはじまる。

おばちゃん、おばちゃんの母(おばあちゃん)、おばちゃんの息子、さらにはこの家のお手伝いさん、という感じで多くの人に抱っこしてもらい、娘はご機嫌だ。

そして、おれ(父)の番。

「オギャ---」

(、、、、、泣)

結局、おばちゃんの家で1時間半ほど、みんなに抱っこしてもらった。機嫌が良くなったところでミルクも飲ませてくれた。でも、おれが抱っこすると泣くので、おれは、椅子に座ってその様子を見ていた。ただ、娘が抱っこしてもらうのを見ていたのだった。寂しさだろうか、かなしさだろうか、やるせなさだろうか、切なさだろうか、いや、その全てかもしれない。なんとも言い難い気持ちで、ただ、おれはそこで娘が笑うのを見ていた。娘の笑顔を見て嬉しいはずなのに、嬉しくなかった。

そうこうするうちに娘はだいぶ上機嫌になったので、家に連れて帰った。午前中に泣き疲れていたのか、すぐに寝てしまい、いつもより長い間寝ていた。

おれはもう何もかもやる気を失っていた。ネットでパパ見知りという言葉を調べた。ただ、おそらくこれは赤ちゃんとの時間があまり取れない父親の話のようだ。じゃあ、娘が生まれてから4ヶ月、いや娘が妻のお腹にいたときから四六時中そばにいたのになぜおれを嫌いになったのか、という気持ちや、娘をこんなに泣かせてしまい、働いてもらっている妻(経緯はこちら)に申し訳ないという気持ち、おれが働かないせいで母に日中会えない娘に申し訳ない気持ち、そして、もしこれが続くとしたら、本当にこのままおれがフルタイム父で大丈夫なのかという不安だったり、とにかく100パーセント・ネガティブな午後だった。

夕方、また娘が泣きはじめた。特に理由はないのか、母が恋しいのか、大泣きではなく、ぐずるように泣いた。おれは、娘を恐る恐る抱っこした。また大泣きになるのが怖かった。居間を歩きながら、懸命にあやした。そして、ふと、鏡の前に立ったとき、

娘が、鏡の奥のおれをみて嬉しそうに笑ったのだ。

そして、おれは娘の顔(実物)をみる。

笑っていない(鏡の中を見ている)。。。鏡のなかの娘をみる。目が合う。

「きゃーーー(笑)」

そして、娘の顔(実物)をみる。

笑っていない(鏡の中を見ている)。。。鏡のなかの娘をみる。目が合う。

「きゃーーー(笑)」

このとき、おれは気づいた。そして、ギガントポジティブなおれが姿を現した。

娘はおれのことが嫌いだから、おれが抱っこしたときだけ泣いてたんじゃない。

おれのことが好き過ぎたから、おれが抱っこしたときだけ泣いたんだ。

つまり、おれが抱っこしたときは、灯台下暗し的に、おれが周りにいなくなったっと思って泣いたのだ。

なぜなら、今まではほとんど、

寝転がってるとき→だいたい母父両方いる。そうでなくともどっちかが近くにいる。

授乳→母。だいたい父も近くにいる。

ミルク→父が多い。だいたい母も近くにいる。

抱っこ時→どっちかが抱っこで、どっちかが近くにいる。

という感じで、抱っこされているときも、常に母か父のどちらかが近くにいたのだ。しかし、いまは母が近くにおらず、あまり知らない人が周りにいる状況で、おれが娘を抱っこしたときに、何かに拍子に、父もいないと思ってしまったのに違いない。だから、おれ以外の誰かが抱っこしているときは、少なくともおれが近くにいるので泣き止む。だから、鏡の中で少し遠くで目が合えば笑うのに、おれが娘の顔をみると笑いが止まるんだ(このとき鏡に写ってるのはおれの後頭部なので)。きっとまだ距離感が掴めてないから灯台下暗し的になったり、朝は母がいなくて寂しいから一時パニックになっただけだ。とにかく、父のことが嫌いなわけではない。むしろ好き過ぎるんだ!!!娘よ、そうだよな!

こう自分に言い聞かせるようになってからは、不思議なことに、妻が近くにいないときでも娘がよく笑うようになった。たぶん、そんな気がしてるだけなんだけど、フルタイムの父をやるにはそういう根拠のない自信も大事だと思った。

約1週間後、エレベーターでおばちゃんに会った。

「もうパパのこと好きになったでしょ。泣き声が聞こえなくなったもの。」

「おかげさまでもう大丈夫!また泣いたらお邪魔しますよ。それか泣いてないときでもまたうちにも来てください。」

デリーは夏が近づいてきた。次はユーラブパパ音頭を踊ろうか。


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