見出し画像

夢のなかの学校



なつやすみ。
ここはゆめのなか。

「ねえ。算数のドリルやってきた?3問目がどうしても分からないんだけど。」
後ろの席の親友、ゆうちゃんが宿題についてきいてきた。
「私も分からないところあるから一緒にやろう。」

私は夢のなかの学校に通っている。
一週間前、おやすみなさいと布団に入って目を閉じると、そこは見慣れた校舎の前で、見慣れたともだちがいた。それからまいばん夢のなかの学校に通っている。

夢のなかの学校はとても楽しい場所だった。

いつの間にかクラスメイト全員と仲良くできていたし、苦手な授業は教室を抜け出してサボっても叱られない。給食も好きなものばかり。不思議なことに転校してしまった友達もいた。
帰りの会が終わるとすぐに目が覚めてしまうから放課後にともだちと遊ぶことはできないけれど、ずっと遊んでいるかのようで夢のなかの学校にこれからも通いたいと思う。

今日も6時間目まで授業を終えて、あとは帰りの会だけ。
私は少し緊張していた。

先生が前に来るよう私をよんだ。
「みんなに伝えたいことはありますか?」
「私は今住んでいる町から引っ越します。本当は転校しないといけないけど、夢のなかだからこれからも一緒です。よろしくお願いします。」
教室を見わたすと、クラスメイトが笑顔で私を見つめている。親友のゆうちゃんも。
このまま変わることはないんだと安心する気持ちと、なにか違うパズルのピースを無理矢理はめてしまったような気持ち悪さ。
はじめて夢のなかの学校に感じた違和感。

「では、これで帰りの会を終わります。日直さん、挨拶してください。」
先生の声でハッとする。
「きりーつ。」
ちょっと待って。何かが今までと違う。
「きをつけー。」
待って。待って。待って。
「れーい。」
あ、
「さようなら。」


目が覚めると涙があふれた。
夏休み前の光景がよみがえる。
見慣れた教室を飾りつけて開いてくれたお別れ会。
そんなに話さなかった男子も話しかけてくれたな。
となりのクラスの先生が撮ってくれた集合写真。
いつもはしっこにいた私がみんなの真ん中にいた。
ゆうちゃんはあふれる涙をぬぐおうともしないで、ずっと手をつないでいてくれた。
引っ越し当日もゆうちゃんは私の乗る車を追いかけようとしてくれたね。


涙が落ち着いて、リビングに出るとお母さんが驚きながらも赤くなった目元を冷やしてくれた。
はじめてのあいさつがこんな顔じゃかっこうつかない。
今日から新しい学校だ。


はじめて見る校舎。はじめて見る顔。
新しい先生が私の名前を黒板に書いて紹介してくれた。
「はじめまして。これからよろしくお願いします。」


近いうちにゆうちゃんに手紙を書こう。

みんな元気?
私は飼育委員になりました。
算数の宿題が大変です。
めぐちゃんというともだちができました。
おそろいのタオルハンカチをかわいいって言われたよ。

あのね、ゆうちゃんと夢のなかで会えたんだ。って。


あれから夢のなかの学校には通えていないけど、もしまた通える日がきたら今度はクラスメイトが前よりもいっぱいいて、もっともっと楽しいんだろうな。
ゆうちゃんにめぐちゃんを紹介して、一緒に算数の宿題をしよう。

でも今はまだ夏休みの前が恋しくなっちゃいそうだから、私が泣かなくなったら。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?