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この4月、縁あって香港と、そしてかねてから計画していたミラノに照明の取材に行ってきた。両方合わせて約半月、ある意味アジアのハブとデザインのグローバルなハブに行けたことはこれまでにない収穫であり経験となった。もちろん、照明のジャーナリストとして、照明パーツから光源、意匠照明から空間演出の照明までできる限り情報収集は出来たと思っているが、何よりも、結局は「人」と「場」との出会いに尽きるに至った。

香港の温度といま

実は、返還前の香港に行ったことがあり、約数十年ぶりでの訪問だったがノスタルジーに浸る間も無く、香港貿易観光局(HKTDC )が4年ぶりに力を注ぐ、LIGHTINGとELECTRONICSの総合展「Innoex」の取材へと。私は、LIGHTINGの方にフォーカスしたが、規模的には断然ELECTRONICSの方が大きく、AIはじめ、VR、AR、半導体、IoTなど最先端のスマートソリューションの機器からソフトまでを網羅していた。LIGHTINGのアジアでの見本市自体初めての体験だったが、出展の半分以上が本土ではあるものの、ソフトウェアソリューションでは香港企業の強さと温度の高さが伝わったきた。明らかに、技術と質では本土と香港合わせてアジアのトップレベルであることは間違いなく、もはや競争意識ではなく、共創していくパートナーとしてグローバル規模で日本としても向き合っていくべきではないかと感じる(もうすでにそうだとは思うが)。束の間、香港で活躍する、照明デザイナーたちと日替わりで食事をしたが、ビジネスの拠点が香港であることにプライドを持ち、アジアの経済のハブなのだという意識を持っていることと、常にEUのクリエイティブを情報としてキャッチアップし、そこに"時差"はない。

M+


ギリギリ、去年完成したHdM設計のM+にも行くことができた。迫力ある大空間と発信しているアートは、本当に質が高く、ある意味荘厳だった。3日間の滞在で得た刺激は、今後の数年に匹敵するくらいの濃さ。ただ称賛することばかりではない、ちなみにLIGHTINGの傾向として、出展も街中も、まだまだ光質の高い展示やデザインは照明コンサルありきで成立している。もちろん、カスタマイズと予算次第では、高い質はつくれるものの、どちらかというとコモディティ領域をターゲットにしている傾向は否めない。この傾向は香港や本土だけに言えることではないが、他市場へのアプローチの考え方自体をつくり変える時なのかもしれない。多分、香港は、今後本土の関与が色濃くなっていくかもしれない。ただスピリットと柔軟性は持ち続けていくのではないかと思うし、そうあって欲しいと思いまたの訪問を誓い後にした。

各国から集まったメディア、ジャーナリスト、バイヤー、サプライヤーたちとの交流カクテルパーティ。ちょうど日没前の香港島から。

照明視点のミラノデザインウィーク2023

すごい人出ではあった。30万人超えという情報も。あえて人気のない時間帯に撮影。

今年のミラノは、4年ぶりに通常の4月開催を迎え、100%完全にコロナ前の状況とは言えないまでも、訪れる人々、迎え入れる人々とが熱く心を交わすシーンを幾度となく見れた。先に、自分が感じた照明の傾向と印象を羅列すると、

・モジュール化の傾向強し
・ゼロイチからの新たなものが減少
・環境意識は必須事項
・バリエーション増を強化
・復活、復刻は定番化しつつある
・時代懐古(振り返り)
・ブランドの次世代、次の代へのリレー

といったところだろうか。また思い出したら付け加えていくが、
この数年、地球規模で起きていることを踏まえると当然の傾向であるし、以上の羅列は、決してネガティブなことを意としてるわけではない。
寧ろ、やっとこの域に辿り着いたかという感もある。自分に限って言うと、照明器具に形としての新しいデザインはあまり期待していないし、逆に新デザインや新技術(照明ブランド側の)と言っても出尽くしているはずだと思っている。人々のライフスタイルは変化してきているかもしれないが、人間にとって必要な光環境は至ってシンプルだからだ。進化し続けて欲しいのは照明を正常に点灯させるデバイス機器のスマート化、光源のクオリティ、オートメーションの部分だと思う。無闇にIT、AIを取り入れるということではなく、あくまでもツールとして、光の質を日常的に高く保つために必要な分野だからだ。


The Edison Syndrome


今回見本市会場のEuroluceのホールで" The Edison Syndrome" というインスタレーション展示があったが、エジソンが白熱電球を発明してから、茄子の形(我々の業界では"なす球"とも言っている)をしたいわゆる電球は、様々なバリエーションとデザインが世に出た。その歴代注目されたエジソン球へのオマージュやあの形が愛された理由を思い返す機会として、多くの茄子球が展示されていた。今の現状を受け止め、これからの未来を考えるためにも過去を知ることは有益で、改めて、エジソンの時代に敬意を表して別れを告げ、さらに小型化し高質のLEDに期待を膨らむ時代に入ったことを受け止めるものでもあったのでないか。
ゼロイチからの新製品が出続ける時も終わって良くて、考え方によって新しい光使いが私たちに提供されることということが重要だと思う。20代、30代の人たちにとって往年の名作照明はとても新鮮に感じるだろうし、それらが、時代に同期した技術やサイズで市場に出てくることは歓迎すべきこと。またこれらが、若い世代によって改良されて残り続けていくことで、環境意識もそうだけれども、時代が求めるライフスタイル、空間規模とともに進化していくことも望む傾向だ。

FLOS : SIX ACTS – MY CIRCUIT BY MICHAEL ANASTASSIADES

そして、思考の転換は新しい技術革新に寄与すると感じたのが、ライティングレールの進化だ。48v DCは日本を除き標準の傾向で、レールの幅が小さくなり、個別調光、制御が自由になっている。そこにレールの電力供給の向きが直下ではなく、側面になったものが登場したのに少なからず嬉しい驚きだった。そう、こう言った思考感覚が欲しいわけだ。LEDの時代に入り、DCにより深く入っていくことで、照明器具の使い勝手や製品バリエーションにとっては良い傾向だと思う。はっきり言うと、先にも書いたが、照明の形や技術が変わったところで、人間を取り巻く光環境はシンプルで多くは変わらないのと、自然光を意識せずして何も生まれない。光がつくる新しい世界は、"形"ではなく、もっと感情に訴えるエモーショナルなことだと思う。懐古が悪いわけではなく、モジュール化は人それぞれのスタイルを個性的にしてくれる進化だ。空気と同じく、光はなくてはならないもの。その光そのものを考える機会が今なのだと多くの人たちに伝えたい。ミラノデザインウィークでは、その根本と向き合うブランドもあり、"人"と"人のため"の光を言葉や形ではないスタイルで表現しているところに強く共感した。

Viabizzuno : 毎夜屋外でチャップリンのモノクロームの無声映画を上映
ミラノを訪れたら必ず立ち寄るレストラン: Fondalie milanesi 


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