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赤ワインは健康に効果があるのか?

「赤ワインは健康に良い」と一般的に信じられています。

「フレンチパラドックス」(フランス人は飽和脂肪酸が豊富に含まれる食事を摂取しているにも関わらず、冠状動脈性心臓病にかかることが比較的少ないという逆説的な疫学的観察)の理由として、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトロールの作用が紹介されたことから、1990年代後半に赤ワインを飲む健康法が国内で広まりました。

サントリーは、赤ワインには動脈硬化の予防効果があるとしています。NIKKEI STYLEは、ワインには赤白を問わず降圧(血圧を下げる)、新陳代謝の活発化、腸内環境の調整といった効果があるとしています。

果たして、これらには科学的根拠があるのでしょうか。ここでは、主に「フレンチパラドックス」で言われている心血管疾患のリスクに対する効果を中心に着目します。

赤ワインの健康効果をめぐり、科学的見解は対立

赤ワインの健康効果について、科学的見解は分かれています。

「Impact of Red Wine Consumption on Cardiovascular Health」はナラティブレビューの結果として、赤ワインに含まれるポリフェノールのうち、とくにレスベラトロールが心血管(CV)に起こるリスクの予防に貢献することを示唆し、「フレンチパラドックス」を支持しています。

この研究は、PubMedで「赤ワイン、心血管、アルコール」と「ポリフェノール、心不全、梗塞」を組み合わせた検索語を使用し、2016年5月までに検索および取得された論文をレビューしたものです。

結果として、赤ワインのポリフェノールが内皮機能(血管内皮細胞の機能)障害、高血圧、脂質異常症(血中に含まれるコレステロールや中性脂肪などの脂質が一定の基準よりも多い状態)、代謝疾患に有益な効果を発揮し、心筋梗塞虚血性脳卒中や心不全などの有害なリスクを低減する可能性を報告しています。

ただし、この研究はナラティブレビューであり、系統的レビューと異なりバイアスを最小限にするための方法論的手続きが取られていないので、注意する必要があります。

「Moderate wine consumption is associated with lower hemostatic and inflammatory risk factors over 8 years: The study of women’s health across the nation (SWAN)」は赤ワインに限定していませんが、適度なワインの摂取が心血管疾患(CVD)を予防する可能性があることを示唆しています。

実験では、42〜52歳の健康な女性2,900名(白人48%、黒人28%、ヒスパニック8%、中国人8%、日本人9%)が対象となり、ワインの摂取とCVのリスクマーカー(リスクの診断に使用できる物質)との関係が調査されました。

結果として、ワインの摂取量は、

摂取しない:被験者の20%:
軽度の摂取(1日1杯未満):被験者の69%
中程度(適度)な摂取(1日1杯):被験者の7%
重度の摂取(1日1杯より多い):被験者の4%

となりました。中程度のワインを摂取した女性は、ワインを全くまたはほとんど飲まなかった女性と比較して、C反応性タンパク質(体内で炎症反応や組織の破壊が生じているとき血中に現れるタンパク質)、フィブリノゲン(のり状になって出血を止める働きを持つタンパク質)、第VII因子(血液凝固因子の1つ)、プラスミノーゲン(血栓など血液が凝固したものを溶解するタンパク質分解酵素であるプラスミンの前駆体タンパク質)活性化因子阻害剤のレベルが著しく低くなりました。これらの関連は、民族の違いに関わらず同様でした。

これは、適度なワイン消費が炎症経路と凝固経路を介してCVDを防ぐ可能性を示しています。

また、「フレンチパラドックス」で言われている心血管疾患リスクに対する効果とは異なりますが、ワインの摂取が体の酸化に良い影響をもたらす見解を示している研究もあります。

「Acute Consumption of Bordo Grape Juice and Wine Improves Serum Antioxidant Status in Healthy Individuals and Inhibits Reactive Oxygen Species Production in Human Neuron-Like Cells」は、ラブルスカ種(北アメリカ大陸東部からカナダ南東部に自生するブドウ科ブドウ属のつる性低木植物)のブドウジュースとワインを摂取すると、体の酸化(活性酸素が細胞に入り込み、タンパク質や脂質が錆びて細胞の働きが低下すること)状態にプラスの影響をもたらすことを示しています。

この研究は、アメリカのブドウ品種が持つ生物学的効果を調査したものです。15名の健康なボランティアが実験の対象となりました。被験者は実験の48時間前に抵抗酸化食を摂り、アントシアニンが豊富な果物、野菜、ジュース、お茶、コーヒー、ココアを使った食品、アルコール飲料の摂取は避けました。

実験当日は、12時間の絶食後に

(1)100mLの水
(2)ラブルスカ種のブドウジュース
(3)ラブルスカ種のワイン

のいずれかを摂取し、1時間後に採血を受けました。

実験の結果、(2)と(3)で血漿(けっしょう)に含まれる脂質の過酸化(過酸化物を生成する反応)が減少し、血漿中の抗酸化能(活性酸素種を消去する働き)が増加しました。

「Red wine consumption increases antioxidant status and decreases oxidative stress in the circulation of both young and old humans」も同様に、赤ワインが酸化の予防に役立つことを示唆しています。

被験者となった40名のボランティアは、

(1)18〜30歳のグループ:20名
(2)50歳以上のグループ:20名

に分かれ、さらに

・1日400mLの赤ワインを2週間摂取するグループ
・2週間アルコールを控える対照グループ

のどちらかに無作為に分けられ、2週間後にもう片方のグループに移りました。赤ワイン摂取の前後には採血を受けました。

血液サンプルから全血液のグルタチオン(抗酸化物質の1つ。略称 GSH)、血漿中のマロンジアルデヒド(生体内で自然に発生し、酸化ストレスの指標になっている有機化合物。略称 MDA)および血清の総抗酸化状態(生体中の抗酸化物質の総合的な指標)を分析した結果、(1)および(2)で赤ワインの摂取が血漿における総抗酸化状態の有意な増加を誘発し、血漿中のMDAを有意に減少させました。

結論として、2週間にわたる1日400mLの赤ワイン摂取が、循環系の抗酸化状態を大幅に増加させ、酸化ストレスを減少させることを報告しています。

「フレンチパラドックス」の理由にならない可能性も

一方、懐疑的な見解を示した研究もいくつかあります。

「Resveratrol: How Much Wine Do You Have to Drink to Stay Healthy?」は、ワインを飲むことで健康維持に役立つ推奨量のレスベラトロール(赤ワインに含まれるポリフェノールの一種)を吸収することはできないと報告しています。

この研究は、一般的に多様な障害の治療に有効であるとして推奨されているレスベラトロールの摂取量(1日1g)に対し、どれだけの食品を消費しなければならないかについて調査しました。

ワインに含まれる代表的なレスベラトロール濃度は、

・赤ワイン:0.361〜1.972mg/L
・白ワイン:0〜1.089 mg/L
・ロゼワイン:0.29mg/L

です。研究では赤ワインに2mg/L、白ワインに0.5mg/Lのレスベラトロールが含まれると仮定し、フランスにおける1人あたりの年間ワイン消費量(2014年)43.4L(赤またはロゼワイン73%、白ワイン27%)を利用して、レスベラトロールの摂取量が計算されました。

結果として、ワインを摂取することで推奨量に達するには、43.4Lより5,000倍多く摂取しなければならないことが判明しました。このことから、赤ワインの摂取が「フレンチパラドックス」の理由にならないことを指摘しています。

「A daily glass of red wine: does it affect markers of inflammation?」は、赤ワインを摂取しても血清C反応性タンパク質(CRP)のレベルは低下しないことを報告しています。

この研究は、炎症マーカーである血清C反応性タンパク質(CRP)および血漿フィブリノーゲンのレベルに対する赤ワインの効果を調査したものです。

被験者となった平均年齢50歳の87名は、

・1日1杯(150ml)の赤ワイン(アルコール15gを含む)を摂取するグループ
・アルコールを完全に摂取しないグループ

のどちらかに無作為で選ばれ、3週間後にグループの入れ替えがありました。

実験の結果、赤ワインはフィブリノゲンのレベルをわずかに低下させましたが、CRPレベルは低下させませんでした。

心血管疾患への効果に関する見解ではありませんが、ワインの効果について否定している訳ではないものの、別の物質からも効果を得られる可能性を示した研究もあります。

「Cardioprotective Efficacy of Red Wine Extract of Onion in Healthy Hypercholesterolemic Subjects」は、タマネギの赤ワイン抽出物(RO)の方が赤ワイン(RW)よりも心臓を保護する効果が優れていることを示しています。

この研究は心血管疾患の危険因子を軽減するうえでの、ROとRWの有効性を調査したものです。

実験の対象となった高コレステロール血症の23名は、

・10週間250mLのROを摂取するグループ(11名)
・10週間250mLのRWを摂取するグループ(10名)

の2グループに分けられました。

実験の結果、ROとRWの両方が抗酸化活性を高め、それにより低密度リポタンパク質(脂質とタンパク質の複合体の総称)が酸化するまでの時間が延長されました。

さらにROの摂取は、RWと同等の場合、総コレステロールと低密度リポタンパク質のコレステロールレベルにおいて実質的な抑制を示しました。第VII因子(血液凝固因子の1つ)などの炎症マーカー(炎症の程度を予想するために予測されるもの)もROによって明確に調節されました。

結論として、コレステロールレベルの変更や炎症マーカーレベルの抑制によって心血管疾患の発生率を減衰させることによる心臓保護の効果は、RWよりもROが優れていることを報告しています。

心血管疾患のリスクについてではありませんが、ワインの成分が健康にリスクを与える可能性を示した研究もあります。

「Wine and other alcohol consumption and risk of ovarian cancer in the California Teachers Study cohort」は、アルコール以外のワインの成分は卵巣がんのリスク増加と関連している可能性があることを示唆しています。

この研究は、さまざまな年齢でのアルコール摂取と卵巣がんのリスクとの関連について調査したものです。

実験の対象となったカリフォルニア州教師研究コホートの女性9万371名のうち、253名が2003年末までに上皮性卵巣がんと診断されました。

実験の結果、ベースライン(時間経過を伴う変化を観察するとき、変化や実験効果の有無を判定する基準となる値のこと)の前年の総アルコール、ビール、またはアルコール飲料の摂取は、18〜22歳または30〜35歳では、卵巣がんのリスクと関連していませんでした。

ベースラインの前年にワインを全く摂取しないグループと比較して、前年に1日あたり少なくとも1杯のワインを摂取したグループは、卵巣がんを発症するリスクが増加しました。ベースラインでのワイン摂取との関連は、エストロゲンのみのホルモン療法を使用した閉経期前後の女性と社会経済的地位の高い女性の間でとくに強く観察されました。

結論として、アルコール以外のワインの成分、または今回の実験で測定されていない飲酒の決定要因は、卵巣がんのリスク増加と関連している可能性が高いことを指摘しています。

アルコールの過剰摂取による健康へのリスク

そもそも、アルコールの過剰摂取は健康にリスクを与えることも理解しておく必要があります。

「Alcohol and the risk of pneumonia: a systematic review and meta-analysis」は系統的レビューとメタアナリシスの結果として、アルコールの摂取は市中肺炎(CAP)のリスクを高めることを示唆しています。

この研究は、成人におけるアルコール消費とCAPのリスクとの関連性について調査したものです。

14の研究でメタアナリシスをおこなった結果、アルコールを摂取していない人と摂取量が少ない人と比較し、アルコールを摂取した人と多量に摂取した人ではCAPのリスクが83%増加したことが確認されました。用量反応分析では、1日あたりのアルコール摂取量が10〜20g増えるごとに、CAPのリスクが8%増加することが判明しました。

2001年の研究ですが、「Alcohol Consumption and the Risk of Cancer A Meta-Analysis」はメタアナリシスの結果として、アルコールが口腔、咽頭、食道、および咽頭がんのリスクを最も増加させ、胃がん、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、女性の乳がん、卵巣がんについても統計的に有意なリスク増加が見られたことを報告しています。

229件の研究(ケースコントロール研究183件、コホート研究46件)でメタアナリシスがおこなわれ、体内の合計19の部位または全ての部位を合わせたがんの発症リスクに対するアルコールの影響が調査されました。

結果として、この研究で検討された最低の消費レベル(25gのアルコール量、または1日2杯の標準的な飲酒)でも、

・口腔
・咽頭
・食道
・喉頭
・胃
・結腸
・直腸
・肝臓
・女性の乳房
・卵巣
・肺
・前立腺

がんのリスクは大幅に増加しました。対照的に、膵臓、子宮内膜、および膀胱がんのリスクとの間に有意な関係は存在しませんでした。

結論として、1日あたり少なくとも50gのアルコール摂取量(約4杯)が、あらゆるタイプのがんを発症するリスクを大幅に増加させることを指摘しています。

これらの研究を踏まえると、「赤ワインは健康に良い」という話には議論の余地があり、安易にこれを鵜呑みにして制限なく摂取してしまうことは危険性をはらんでいます。アルコールの摂取によるリスクは看過できないため、赤ワインを飲みたい場合は適量を嗜む姿勢を取るのが良いでしょう。厚生労働省が推進する国民健康づくり運動「健康日本21」で「節度ある適度な飲酒」とされているアルコール量は1日平均約20g程度なので、これを指標としても良さそうです。これは、アルコール度数が12%のワイン200mLに相当します。

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