ニュースメディアの新しいビジネスモデル − スウェーデンから 4 <組織と広告>

セコイア・キャピタルのパートナー、マイケル・モリッツもその先鋭的なビジネスモデルで、世界中の新聞社の一歩先をいくことを認めたスウェーデンの大手日刊紙ダーゲンス・ニュヘテル。4回連載レポートの最終回。

存在意義のなくなったホワイトカラーに次の仕事を

スウェーデンのTRR (Trygghetsrådet 「安心のためのサポート機関」) は、民間企業がリストラを行う際、整理されてしまうホワイトカラーが次の仕事へとスムーズに移行できるよう支援する非営利の団体で、40年の歴史を持つ。

TRRの活動は、加入している3万5000社の雇用主が、従業員に支払う給与の0.3%に当たる額を積立てていくことで支えられている。

社会の動きと連動して、存続する意義のなくなった仕事をしている人にはやめてもらい、そのかわり次の時代で必要とされる分野で活躍してもらおう、という考え方がTRRの活動の根幹にある。

TRRに加入しているのは、一度に大量解雇の必要がでるような大企業が多いが(近年では私の住む街にあるソニーやアストラゼニカが大量解雇をした際に、TRRが活躍していた)、ダーゲンス・ニュヘテルの親会社であるスウェーデンを代表するメディアグループ、ボニエももちろん会員だ。

TRRのサイトでは彼らのサポートで人生の次の舞台へと進んだ人たちのインタビューを紹介しているが、そこには59歳でフリーのジャーナリストとして再スタートを切った、マルガレータ・ホルムクヴィストさんの話もあった。

ジャーナリストはスウェーデンのハローワークに相当する労働斡旋機関が「将来性のない仕事」としてあげている、今は需要が減っている仕事だ。

米国の状況と同じく小さな地方の新聞や、また業界誌や組合誌の経営状況がどんどん悪化していったスウェーデンでは、それまで新聞社や雑誌社に雇用されていたジャーナリストが、次々に人員整理されていった。

地方紙の状況は深刻で、28紙を買収統合して効率化を図ろうと事業を進めてたMittmediaは、結局、最大手のボニエへ吸収統合されることが今年にはいって決まったばかりだ。また、つい先週にはスウェーデン第二の都市、ヨーテボリの地元紙で長らく同族経営を続けていたヨーテボリス・ポストンが、ノルウェー最大のメディアグループへと買収されることが発表された。

2回の20%の人員削減はどうすすんだか?

この連載の第2回で触れたように、ダーゲンス・ニュヘテルは2010年と2013年の2回、それぞれ当時在籍していた社員の20%にあたる、100人と80人の人員削減を行っている。

2010年の100人削減時には、50人体制だった文化局が30人になるなど、編集局全体で60人の人員削減が実施された。このうち、38人は自主退職のプランを選んだ。各社員の新聞社との雇用契約によるが、この時は多い人で20ヶ月分の給与相当額の退職一時金が支払われた。

この他に、編集局から10名が、当時力をいれていたタブレットで読む電子新聞プロジェクトへ移動。さらに12名が会社から雇用契約を打ち切ることを告げられ、条件をまとめる話し合いへと進んでいる。編集局以外では自主退職で予定数が埋められ、雇用が打ち切られた人はいなかった。

必要悪だった改変騒動

明らかにやり方が悪かったのは、2013年春、400人の20%にあたる80人を削減した時だ。この時、編集局は240人の所帯から50人削減する必要があった。

人員削減の指揮をとった就任したばかりの編集局長ヴォロダルスキの念頭にあったのは、この機会をデジタルの時代に必要な才能を揃える準備とすること。裏を返すとデジタルな働き方についていけない人には、出ていってもらわなければいけない。これがこじれる原因となる。

50人の削減目標のうち、30人は退職一時金付きの自主退職パッケージを受け入れ、また10人は雇用契約を打ち切られた。ここで、スウェーデン独自の事情を説明すると、雇用保護法であるLASには、人員整理のため雇用契約を会社側から打ち切る際には、雇用契約期間が最も短い人からやめてもらわなければならないという、雇用歴の長い社員を守る条項がある。

自主退職にも応じず、また経営陣からはデジタル時代の人材とは残念ながら認識されなかった人たち。署名入りの記事も書いていたような著名な記者を含む40代から50代の12人が、この時、意味のない仕事へと配置換えされた。

皮肉なことにこの仕事は、ダーゲンス・ニュヘテルの創刊150周年を祝う関連記念事業の一部という名目の仕事であった。彼らには、普段の職場からは遠く離れた場所で、小学生でもできるようなタスクがあてがわれた。

この仕打ちには、「ダーゲンス・ニュヘテルの冷凍庫」とのアダ名が付けられ、ジャーナリスト組合がその意味のないプロジェクトの運営コストを試算して「3000万クローナ(約3億6500万円)の冷凍庫」と揶揄し、あちこちで大きく報道された。

この事件の顛末に関してヴォロダルスキは、「その後10人は退職し、2人は編集局に戻った。(2014年8月には組合がダーゲンス・ニュヘテルの対応の悪さを労働裁判所に訴えた経緯などもあり)結局この問題に関してすべて落ち着くのに2年かかった。今振り返ると、もっといいやり方があったと思う」と、2016年に、このざわついた2年間を振り返って述べている。

その後もダーゲンス・ニュヘテルは、紙の編集に慣れた編集者にはやめてもらい、ウェブの世界の人材を編集者として多く採用するなど、人材の入れ替えを行い続けたが、2013年のような問題は再びおこっていない。腕のいい人事の責任者を雇うことも、経営陣が力を注いで解決した問題であった。

組織が変わっていくためには必要なことではあっても、会社に必要ないとされてしまったひとりひとりの社員には、尊厳に関わり、深い傷を残す人員削減、組織改革。

ダーゲンス・ニュヘテルでも確かにもっとうまいやり方はあったのかもしれないが、同時にこの改変騒ぎが「ブランドとして生き残る。そのために必要なことはなんでもやる」と、残った社員の覚悟を強くしたのかもしれない。

デジタルなニュースメディアが求める人材

紙ではなくデジタルで商品を提供するのなら、ウェブサイトやアプリの製作に長けた人材が必要になるのは当然だ。デジタルな組織へと改革する前は90名いた編集部員は、強引な人員削減問題が落ち着いた2015年頭には30名になっていた。そこから更に同年末には早期退職で15人の編集者が退職したと伝えられている。

アナログからデジタルへとすっかり軸足を変えたダーゲンス・ニュヘテルの今のウェブチームは、掲載されている求人広告によると25名程度で運営されているようだ。

各ニュースメディア(日刊紙3紙、経済産業紙1紙、タブロイド紙1紙)に固有の編集局&ウェブチームの他にも、ボニエメディアグループでは、グループ共通のテクノロジー部門と広告セールス部門を持っている。

求人に関しても各ニュースメディアへの求人と、共通の技術、サポート部門への求人を統括した求人サイトをもうけている。ジャーナリストに関しては後述するがこの求人サイトでは募集していないため、掲載されている職種をみると、まるで新しいウェブサービスを提供しているスタートアップの求人のようである。

いわく、フロントエンド・エンジニア、サブスクリプション・アナリスト、機械学習・AI担当者、トップUXデザイナー、などなど。最近はゲーム会社のやり方を取り込もうとしているようで、先日もスウェーデンのゲーム大手のKing(一連の「キャンディクラッシュ」ゲームで成功)から、デジタルコンセプト&デザインの責任者が、ボニエの広告新技術部門に入社した。

ジャーナリストに関しては「一流の人材を集める」とヴォロダルスキが宣言したように、ダーゲンス・ニュヘテルでは他のメディアで活躍している人たちを次々をヘッドハンティングした。音声コンテンツや動画の提供のためには、ラジオやテレビ局から、人気ラジオ番組のパーソナリティやテレビの花形プロデューサー達も入社しているといった状況だ。

一方、ボニエはグループのニュースメディアを得意先とするジャーナリスト人材派遣会社も持っており、去年タブロイド紙のエキスプレッセンの業績が悪化した際には、この人材派遣会社で20名程度の雇用削減が行われている。

ボニエのライバル社である、もうひとつの大手メディアグループであるシブステッド(ノルウェー資本)は、最近ロボットによる自動生成記事をどんどん投入していることで注目を集めている。ジャーナリストにとっては、個人として尖らないと生き残れない時代に突入しているようだ。

世界一のネイティブ広告エージェンシー

この連載の最後にこれまでは触れてこなかった、広告をめぐる取り組みを取り上げたい。

ダーゲンス・ニュヘテルの2018年の広告事業の決算数字は、紙の新聞への出稿で13%、デジタルでも11%前年から減っており、両方合わせても2000年の水準の3分の1の売上高にすぎない。とはいっても、まだまだ年間4億6000クローナ(約56億円)以上売り上げる重要な収入源だ。

広告製品の開発や販売は新聞(というよりボニエでは「ニュース ブランド」という名称を使い始めた)5紙を統括した広告チームがその任にあたっている。新製品ローンチキャンペーンなどは、これも同じボニエグループのテレビ局とも共同で展開している(ただし、グループのテレビ部門は、今年テレコム大手のテリアへ売却されることが決まっている)。

この他に、ボニエでは、ディスプレイなど従来のウェブ広告とアナログ広告を扱うチームとは別に、ネイティブ広告や、VRやARなどの次世代の広告クリエイティブを扱う部門を、ボニエ ニュース ブランド スタジオ(Bonnier News Brand Studio) という別組織で独立させている。

昨年1年間で17名から62名まで大きく成長したボニエ ニュース ブランド スタジオは、注目のエージェンシー。去年11月に発表された、2018 ネイティブ アドバタイジング アワードでエージェンシー大賞(ゴールド)を受賞している。

また、大手コーヒーメーカー、ロフベリス(Löfbergs)のために制作したコーヒー豆の生産者を扱ったVRを含んだネイティブ広告は、昨年、世界やヨーロッパの広告アワードで多くの賞を受賞した。

さらに、ボニエは最近、ストックホルムから離れたスウェーデン第三の都市であるマルメ(ここでも地元紙を所有する)で、ボニエ ニュース ネクスト (Bonnier News Next) と称する、次世代のニュース提供に必要な技術、ビジネスモデル、広告商品などの研究開発に従事する部門を立ち上げた。

ここで今、取り組んでいるのは、Eヘルスアプリ、フードテックや次世代音声認識技術など。毎日、ニュースブランド全体で300万を超えるデジタル訪問者を誇るニュースブランドの、次のユーザー体験と収益源を開発中だ。

「我々のすべての行動は高品質なジャーナリズムを、次の世代へと続けていくためにある」。

ダーゲンス・ニュヘテルの取り組みが、これからも信頼できるジャーナリズムが続いていく道筋となることを願わずにはいられない。

参照資料
www.dn.se, www.medievarlden.se, www.dagensmedia.se, www.inma.org, www.resume.se
Weibull, Badbring, Ohlsson (2018), Det svenska medielandskapet: traditionella och sociala medier i samspel och konkurrents, Liber
Björn Häger (2014), Reporter: en grundbok i journalistik, andra upplagan, Studentlitteratur
Martin Schori (2016), Online Only: allt du behöver veta för att bli morgondagens journalist, Carlsson

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