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「とかげが旅に出た理由~おかあさんとおとうさんとおにいちゃんに会いたくて~やさしい魔法とあたたかい奇跡のすみっコぐらし物語」

 とかげはどうしておかあさんと一緒に暮らさないのでしょうか?とかげのおかあさんは普段、海のすみっこにいて、時々、すみっ湖に現れます。居場所は分かっているのですから、とかげはおかあさんと一緒に海で暮らしてもいいはずですよね。でも一緒には暮らせない何か理由があるようです。

※なるべくオリジナルのすみっコぐらしの設定に添って書きましたが、一部、設定は変更されています。ご了承ください。以下、本文です。

 とかげがまだおかあさんと二人で、海のすみっこで暮らしていた頃、とかげには恐竜としての名前がありました。とかげの名前は「レイ」と言いました。

 レイにはおかあさんだけでなく、もちろんおとうさんもいました。レイがおかあさんのおなかに宿るとおとうさんは
「早く会いたいな。元気に生まれてくるんだぞ。」
とおかあさんのおなかをさすりながら、やさしく声をかけていました。おとうさんもおかあさんも、もうすぐ自分たちの子どもに会えると思うと、とてもしあわせでした。

 成長が少し遅かったレイは、なかなかおかあさんのおなかの中から出てきませんでした。おかあさんはとても心配しましたが、おとうさんは
「この子はきっと少しでも大きくなってから生まれたいんだよ。大丈夫だよ。」
とレイの生命力をずっと信じていました。

 冬にしてはおひさまの光が強くてあたたかい日のことです。海面にもおひさまの光が反射して、キラキラ輝いていました。
 おかあさんはおなかの中にいるレイに光を感じさせてあげたくて、おなかを空の方へ向けて海の上でぷかぷか浮いて、ひなたぼっこしていました。そのうち、うとうと海の上でまどろんでしまいました。まるで春のようなぽかぽか陽気で、昼間なのに眠くなってしまったのです。

 そこへ大きな船が現れました。その船の中にはたくさんの人間たちが乗っていました。その人間たちは海賊でした。
「ついに見つけたぞ。首長竜の生き残りだ。」
「殺さないように麻酔銃で眠らせて、生きたまま運ぼう。」
「きっと高く売れるぞ。」
 寝ぼけているおかあさんが忍び寄る海賊たちに気づく前に、少し離れた場所にいたおとうさんが海賊に気づきました。慌てておかあさんを助けに向かいました。
「おかあさん、おれが人間たちをおびき寄せておとりになるから、おかあさんは早く海の中に逃げて。なるべく深い場所に。おなかの子のことは頼んだよ。」
「おとうさん、そんなことしたらおとうさんが捕まってしまうかもしれないわ。わたしがうたた寝していたせいで…ごめんなさい…。」
「おかあさんは何も悪くないよ。おれなら泳ぎには自信があるから大丈夫。きっとすぐに戻ってくるから。だってこの子に会いたいもの。」
おとうさんはおかあさんとおかあさんのおなかに微笑みながらそう言うと、遠くへ向かって泳ぎ始めました。おかあさんは心配しながらも、レイを守るため、深い海の中に潜りました。

 おひさまが水平線に沈んでも、おとうさんは帰ってきませんでした。満天の星空の夜になっても、翌朝、またおひさまが昇り始めても、いつまで待っても結局、おとうさんは姿を現しませんでした。おとうさんは海賊に捕まってしまっていたのです。

 おとうさんがいなくなってしまい、おかあさんは自分のせいでおとうさんが人間に捕まってしまったと泣いて過ごすようになりました。レイはまだ生まれそうにありません。もしかしたらあの子と同じように死んでしまっているかもしれない…。ひとりぼっちになってしまったおかあさんはすっかり元気をなくしていました。

 あの子というのはレイがおなかの中に宿る前に、おかあさんが産んだ子どものことです。おかあさんが産んだ時には残念なことに息絶えていました。死んでしまっていたのです。冷たい雪の降る日に亡くなって生まれたその子を、おとうさんとおかあさんは「ユキ」と名付けて、海へ流しました。おとうさんとおかあさんは泣きながら、「どうかどこかで生まれて変わってね」と願いながら、ユキを見送りました。

 おとうさんがいなくなったあの日のあたたかさはまるでうそのように寒い冬らしい日が続いていました。そのうち、しんしんと冷たい雪が降り始めましたが、塩分を含んでいる海水の上に、雪が積もることはありません。おかあさんはユキのことを思い出しながら、おなかの中にいるレイにどうか元気で早く生まれてねと語りかけていました。

 降り続いていた雪がようやく止んだ朝のことです。おかあさんはおなかに強い痛みを感じました。しばらく力み続けるとついにレイが生まれました。元気な産声をあげたレイの顔にはやわらかなおひさまの光が射し込んでいました。
「元気に生まれてくれてありがとう。あなたはおとうさんとわたしの希望の光よ。だからあなたの名前はレイ。」
こうして後に「とかげ」と呼ばれることになる、恐竜の生き残りのレイは生まれたのです。

 おかあさんは生まれて間もないレイを背中に乗せて、ゆっくり泳ぎ始めました。ここにいたらまた人間たちがやって来て、レイが捕まってしまうかもしれないと心配し、人間たちが来られない遠くの海に逃げようと考えたからです。
 おかあさんとレイは海のすみっこにたどり着きました。二人以外、誰もいません。おかあさんはレイがいてくれるから一人でもさびしくありませんでした。レイもおかあさんがいてくれるから、ちっともさびしくありませんでした。むしろおかあさんと二人きりで暮らせて幸せだなぁと思っていました。

 海の彼方からおひさまが昇る朝、レイは「おはよう」とおかあさんに起こしてもらいました。おひさまが海の彼方へ沈み、星たちが空でまたたき始め、おつきさまが夜空のてっぺんでぼんやり光る頃、おかあさんに「おやすみ」と言ってレイは眠りました。
 おかあさんと一緒に流れ星を見たこともありました。流れ星に願い事をすると叶うんだよとレイはおかあさんから教えられました。
 冬にはおかあさんと一緒に雪を眺めました。海面に雪が積もることはありませんでしたが、岩場に積もった雪でおかあさんとレイによく似た雪だるまを作って遊びました。

 うららかな春のことでした。レイとおかあさんが一緒にお昼寝をしていると、何かが空から降ってきました。それが体に当たって二人は目を覚ましました。春なので雪ではありませんでした。なんとそれは色とりどりのすてきな香りのするお花たちでした。
「おかあさん、お花がたくさん降ってきたよ。」
「すごいわね。お花が降ってくるなんて、お母さんもはじめて見たわ。」
おかあさんはおどろいていましたが、レイはそんなにおどろきはしませんでした。なぜなら少し前に流れ星を見た時、お花が大好きなおかあさんのために、「お空からたくさんお花が降りますように」と心の中で願っていたからです。流れ星に願い事をすると本当に願いは叶うんだとレイは知りました。

 空から次々落ちてくるお花は雪と違ってとけることなく、海の上にも一面に降り積もりました。まるで海がお花畑になったようです。レイとおかあさんはお花を拾っておそろいの花かんむりを作ったりして遊びました。夢のように素敵で幸せな時間でした。はしゃぎ疲れた二人はお花の上でまた眠ってしまいました。

 次に目覚めた時にはお花はなくなっていました。夢だったのかなとレイは少しさびしくなりましたが、おかあさんとレイの頭にはちゃんとお花のかんむりが残っていました。夢ではなく、お花は本当に降ったのです。

 しばらくすると岩場の土の中から、何かの芽が顔を出しました。それを見つけたおかあさんは
「きっと、この前降ったお花が種を残してくれて、芽を出したのね。」
と言って微笑みました。
「じゃあここであのお花がまた咲くんだね。」
レイとおかあさんはその芽をやさしく見守っていました。

 芽は毎日少しずつ成長し、数週間後にはきれいなお花を咲かせました。でもそのお花は一週間も経たないうちにしおれてしまいました。
「おかあさん…お花、もう枯れちゃったね。」
レイは悲しい気持ちになっていました。
「お花は枯れてしまったけれど、きっとまた種を残してくれるわ。そうやってお花はいのちをつないでいるのよ。」
おかあさんは悲しんでいるレイにそっと教えました。
「ほんと?じゃあ今度は種になるのを待つよ。」
レイはお花が種を残してくれるのをじっと待っていました。

 そしてお花は綿毛のついた種になりました。風が吹くと、ひとつずつ空に舞い上がり、どこかへ飛んで行ってしまいます。レイはまた悲しくなりました。
「おかあさん、種もいなくなっちゃうよ。ずっとここにいればいいのに…。」
空に舞い上がる綿毛を見つめながら、レイはつぶやきました。
「お花はね、私たちと違って動けないでしょ?風や誰かに運んでもらわないと動けないのよ。だから種になった時は動くチャンスなの。狭い場所に次々芽を出したら、のびのび成長できないから、いろいろな場所に散らばって生きるのよ。みんながなるべく生き残るためにね。」
おかあさんはレイに説明しているうちにはっと気づきました。レイのことを守りたくて誰にも見つからないようにこうして二人きりで海のすみっこで暮らしているけれど、旅立っていくお花の種を眺めていたら、はたしてこのままでいいのだろうかと考えるようになりました。
「レイ…あなたはもうだいぶ大きくなって、何でも一人でできるようになったわよね。」
「うん、そうだけど…どうしたの?おかあさん。」
レイはおかあさんが自分に何を伝えたいのかが分からなくて、少し不安になりました。
「あのね、レイ…。私たちは恐竜の生き残りなの。つまり仲間は少ないのね。」
「うん、知ってるよ。」
「だからね、おかあさんはあなたの命を守りたくて、レイが生まれてすぐに海のすみっこに逃げてきたの。」
「おとうさんは人間に捕まってしまったんだものね…。」
レイはおかあさんからおとうさんが捕まってしまった話を聞いたことがありました。
「そうね。おとうさんのようにあなたが人間に捕まらないように誰もいないここまで来たの。でもね…そろそろレイもおかあさん以外の仲間を見つけないとね。」
おかあさんはレイに向かってやさしく微笑みました。
「それってどういうこと?仲間がいそうな別の場所を探すってこと?」
「えぇ、その通りよ。レイはここではない場所で仲間を見つけなさい。おかあさんはここでおとうさんの帰りを待っているから…。おかあさんは体が大きくて目立ってしまうから一緒には行けないけれど、まだ体の小さいあなたならどこへでも行けるわ。レイが自由に楽しく暮らせる居場所を自分の力で見つけるのよ。あのお花の種たちのようにね…。」
おかあさんは空に舞い上がる綿毛を見つめながら言いました。
「えっ?おかあさんと離れて暮らすってこと?そんなのイヤだよ。ぼく…別に仲間なんてほしくないよ。おかあさんがいてくれたらそれで幸せだもの。だからぼくもずっとここにいる。」
レイは突然、おかあさんから突き放された気がして、悲しい気分になりました。
「仲間っていうのはね…別に恐竜の仲間を探せと言ってるわけじゃないの。他の生き物でもいいからお友だちを作った方がいいのよ。レイはおかあさんのことしか知らないんだもの。世界は広いのよ。たくさんの生き物がいて、ここから旅立てばきっとたくさんの出会いに恵まれるわ。レイは一緒に笑ったり泣いたりできる仲間やお友だちを見つけて。」
「そんなのいらないよ。おかあさんと一緒に笑ったり泣いたりできればいいんだもの。それにここじゃない場所に行ったら、人間もいるかもしれないでしょ?危険だよ。おとうさんのように人間に捕まってしまうかもしれないじゃない?おかあさんはぼくのこと嫌いになっちゃったの?」
涙目になっているレイの頭をやさしくなでながら、おかあさんは言いました。
「あのね…レイ。たしかに人間の中には怖い人もいるわ。でもみんなが悪い人じゃないのよ。おかあさんはね、レイくらいの頃に人間に助けてもらったことがあったの。ケガしてしまった時にね…傷が治るまで、手当てしてくれたやさしい人間がいたのよ…。だから人間を恨んだり憎んだりしないで。人間以外の生き物もそうよ。少し冷たい子もいればとてもやさしい子もいる…。いろんな生き物と出会っているうちに、いつの間にか仲間や友だちになれる子が見つかったりするの。そういう経験をレイにはしてほしいの。おかあさんはあなたのことを嫌いになったわけじゃないのよ。レイのことが大好きだから…海のすみっこで隠れて暮らすのはもうやめて、仲間と出会えるあなただけの居場所を見つけながら自由に生きてほしいの。」
自分のことを心から大切に思ってくれるおかあさんの愛情を知ったレイは泣くのをやめておかあさんに向かって言いました。
「そっか…。わかったよ。おかあさん。人間も恐竜も他の生き物もやさしい人もいればそうではない人もいて、いろんな子がいるんだね。いろんな子がいるなら、ぼくも仲良くなれる仲間や友だちを見つけることができるかな…。本当はおかあさんがいるこの場所でずっと一緒に暮らしたいけれど、おかあさんと離れるのはつらいけれど、でもここにいたら誰とも出会えないものね…。ぼくがこのままずっと仲間や友だちを見つけられないままひとりぼっちだと、おかあさんはきっと悲しむものね…。自分だけの新しい居場所を探してみるよ。」
涙をこらえて笑顔を見せるレイを見ていたおかあさんの方が今度は涙目になって言いました。
「わかってくれてありがとう、レイ。あなたならおかあさんがいなくてももう大丈夫よ。だってあなたはやさしくて勇敢なおとうさんにそっくりだもの。このまま海のすみっこで隠れるように暮らしていたら経験できないことを他の場所でたくさん経験して。恐竜の仲間と出会うことは難しいかもしれないけれど、他の生き物たちと出会って、この世界に生まれて良かったと思えるように、あなたの人生をあなたらしく生きてほしいの。離れていても心の奥ではずっとつながっているからね。おひさまやおつきさまは世界にひとつずつしかないの。さびしくなったらおひさまやおつきさまを見上げてみて。おかあさんも同じおひさまとおつきさまをここで眺めてながら、レイのことを思っているからね。あなたはおかあさんにとってはおひさまやおつきさまよりも大切な光なのよ。きっとあなたなら、誰かの光になれるわ。暗やみの中、さまよっている子がいたら、やさしくしてあげてね。」
おかあさんは泣きながらレイをだきしめました。おかあさんの温もりを感じるとレイもまた泣き出してしまいました。その夜、二人はいつも以上に寄り添って眠りにつきました。糸のように細いおつきさまがやさしく二人を照らしていました。

 翌朝、おかあさんはレイに残っていたお花の種を少しだけ持たせて旅立たせました。恐竜と自己紹介すると怖がられるといけないからと、恐竜によく似ている「とかげ」になりきって、とかげとして生きるように教えました。とかげならたくさんいるから、捕まる心配もないからねと。

 レイはおかあさんの言いつけ通り、とかげとして生きてみるよと言いました。おかあさんから渡されたお花の種を小袋にしまうと、レイは
「たまになら…帰ってきてもいいでしょ?」
とおかあさんに尋ねました。でもおかあさんは
「ここは海のすみっこで遠すぎるから、おかあさんの方からあなたがいそうな場所の近くまで会いに行くから、待っててね。その時は気づいてね。」
と言ってレイを見送りました。

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 こうして恐竜の生き残りだったレイはおかあさんと離れ、とかげになりすまして生きるようになりました。海から離れ、一人でいろいろな場所に行ってみましたが、にぎやかな街のような場所はどうもなじめませんでした。海のすみっこで暮らしていたせいか、森のすみっこのような場所が気に入って、そこに自分のおうちを作りました。おうちの中にはおかあさんの絵など、秘密の宝物をたくさん並べて暮らし始めました。おかあさんからもらったお花の種はおうちの庭に植えました。

森の中を散歩していると、かたつむりと出会いました。かたつむりだと思っていましたが、実はかたつむりになりすましたなめくじで「にせつむり」だと知りました。自分と同じく別の生き物になりすましながら生きている子がいるんだと気づくと、とかげになりすましているレイは、にせつむりとは秘密を共有する親友になれました。

 それからにせつむり以外にも、たくさんの生き物たちと出会い、いつの間にか仲間は増えていました。かっぱによく似たぺんぎん?、しろくまやふろしき、ねこやざっそう、とんかつやえびふらいのしっぽなど…。きのこ、ほこり、やまという仲間もできました。それから本物のとかげとも友だちになりました。

おかあさんが恋しくなって、空に浮かぶまんまるのおつきさまを眺めていた夜、すうーっと流れ星が流れた気がしました。レイは慌てて「おかあさんに会えますように」と祈りました。すると翌日の新聞に、すみっ湖に現れるスミッシーと呼ばれる恐竜の記事が載っていました。おかあさんに違いないと思い、レイはすみっ湖へ仲間たちと一緒に向かいました。そしてすみっ湖に来てくれていたおかあさんと大切なみんなと仲良く一緒に遊びました。

 かっぱによく似たぺんぎん?は読書家で物知りです。レイは自分のことをとかげと言うけれど、恐竜によく似ているなと気づいていました。レイのおかあさんも明らかに本で読んだことのある恐竜でした。そして最近読んだ本の中に、すみっ古(こ)動物園という場所に恐竜の生き残りが飼育されていることを知りました。ぺんぎん?はレイにそのことを教えました。レイはその恐竜はおとうさんに違いないと思い、「その動物園に行ってみたい」と言いました。

 動物園に行くなら、自分も行きたいとしろくまが言いました。北で暮らしていた頃、仲間から人間に捕まって、動物園に連れて行かれるしろくまもいると聞いたことがあったからです。もしかしたら仲間に会えるかもしれないと考えたのです。

 物知りなぺんぎん?は人間が多く活動している昼間は行かない方がいいと言いました。なので寝静まっている人間の多い夜に動物園に行くことにしました。

 レイとぺんぎん?としろくま(とふろしき)は人気の少ない夜にすみっ古動物園に忍び込みました。人間に飼育されている多くの動物たちもそれぞれの檻の中で眠っていました。

 しろくまの檻の前へ行くとしろくまは急に叫びました。
「おかあさん!」
しろくまの声に気づいて目覚めた檻の中のしろくまは
「あんた…寒がりで北から逃げ出したわたしの子よね?そのふろしきを持っているからすぐにわかったわ。」
としろくまを見て微笑みました。
「うん、そうだよ、おかあさん。寒さに耐えきれなくて逃げ出してしまってごめんね…。おかあさんはここにいるってことは人間に捕まってしまったの?」
「あんたを探してうろうろしているうちに捕まってしまってね…。でもここの居心地は悪くないんだ。ほら、北にいる頃は氷も食べ物も何でも自分で探さなきゃ生きられなかったけれど、ここでは探さなくても定期的に人間が用意してくれるから。慣れれば悪くないところだよ。それにここにいたおかげであんたとこうして再会できたし。」
しろくまのおかあさんは檻の中にいても少しも不幸せそうではありませんでした。
「そっか…ぼくのせいでごめんね。でもおかあさんがここも悪くないって言って、元気で暮らしてくれていることが分かって安心したよ。ここにいることが分かったから、時々こうして会いに来られるし。」
しろくまがおかあさんと再会を果たしたのを見ていたレイは自分もおかあさんに会いたいと思いました。それからこの動物園にいるかもしれない、まだ会ったことのないおとうさんにも早く会いたいと思いました。

 しろくまがおかあさんと昔話に花を咲かせている間、レイとぺんぎん?は動物園の中をうろうろしていました。
 ひときわ大きな池のような場所の柵の向こう側に大きな黒い影を発見しました。その影はおかあさんによく似ていて首が長く見える影でした。柵のプレートには「幻の生き残りの恐竜」と書かれていました。
「おとうさん…?」
レイはそっとその大きな黒い影に声を掛けました。黒い影はレイの声に気づくとレイの方へゆっくり近づいてきました。
「おや…こんな時間にだれかと思えば、もしかして…おまえはおれの子どもか…?」
大きな恐竜は小さな恐竜を見つけると、目をまるくしました。
「やっぱり、ぼくのおとうさんだよね?会いたかったよ、おとうさん。おかあさんがぼくのことをレイと名付けてくれたんだよ。」
「あの時、おなかの中にいた子がこんなに大きくなったのか…。無事に生まれて良かった。おとうさんもずっと会いたかったよ。ずっと気になっていたんだ。レイか…いい名前だな。おかあさんはどうしている?元気か?」
レイのおとうさんは目を細くして、やさしくレイを見つめながら尋ねました。
「ぼく…今、おかあさんとは離れて暮らしているんだ。人間に捕まらないように、海のすみっこでおかあさんと二人で暮らしていたんだけど、おかあさんが仲間や友だちと出会える自分の居場所を見つけなさいってぼくのことを旅立たせてくれたんだ。この前再会できて、おかあさんなら元気だったよ。ぼくらならちゃんと生きてるから大丈夫だよ。おとうさんの方こそ、元気なの?つらくない?」
レイは自分たちのことより、おとうさんの心配をしていました。
「そうか、おかあさんも元気なら良かった。おかあさんはおれがいなくても一人でがんばってくれたんだな…。おかあさんはきっとおまえに自由に羽ばたいて生きてほしいと願ったんだ。レイがこんなに立派に成長してくれておとうさんはうれしいよ。おとうさんも元気だよ。おれを捕まえた人間たちは少し乱暴だったけれど、ここでおとうさんの世話をしてくれる人間たちはとてもやさしいから。ただ…時々広い海が恋しくなるし、おかあさんやおまえに会いたいなってずっと思ってたんだ。ここは生活には困らない場所だけど、おかあさんとおまえがいないからさびしかった。どうしてここに来てくれたんだ?」
レイのおとうさんは微笑みながらも涙を流していました。
「そっか…やっぱりおかあさんが教えてくれた通り、やさしい人間もいるんだね。おとうさんが元気そうで安心したよ。でもたしかに海と比べたらここは狭いよね…。ぼくもおとうさんに会えなくてずっとさびしかったよ。会えてうれしいよ。友だちが…恐竜の生き残りがこの動物園にいるって教えてくれたんだ。だからもしかしたらおとうさんがいるかもしれないって思って、来てみたんだ。」
レイの近くにいて、レイとおとうさんの様子を見ていたぺんぎん?がぺこりと頭を下げた。
「レイにはやさしい友だちがいるんだな。おまえに仲間ができておとうさんもうれしいよ。これからもレイのこと、よろしく頼みます。」
レイのおとうさんはぺんぎん?にそうあいさつしました。
「おとうさん、流れ星にね、お願い事すると願いが叶うって知ったんだ。だから今度流れ星を見つけたら、おとうさんがここから出られて、おかあさんと一緒に暮らせますようにって祈るよ。」
レイはおとうさんを勇気づけるように言いました。
「レイは本当にやさしい子だな…。そういうところはおかあさんにそっくりだ。でもおとうさんなら大丈夫だから。ここから出られなくてもおまえと会えたからもう心残りはないよ。おとうさんの願いはおまえとおかあさんが元気に暮らしてくれることだから。流れ星を見つけたら、おとうさんのことじゃなくておかあさんのことを祈ってほしい。」
「ぼくっておかあさんに似てるんだね。それならうれしいな。おかあさんはぼくのことをおとうさんにそっくりだって言ってくれたよ。じゃあ…おとうさんがここから出られないとしても、ぼくは時々会いに来るから。いいでしょ?」
「レイはおかあさんとおとうさんの子だから、どちらにも似ているのかもしれないね。また来てくれるのか…うれしいよ。でも人間に見つからないように気をつけるんだよ。無理してはダメだよ。おとうさんのことは気にしなくていいから、おまえは友だちやおかあさん、そして自分を大切にして生きるんだよ。何もしてやれなくてごめんな。」
レイのおとうさんは最後に申し訳なさそうにつぶやきました。
「うん、無理はしないよ。来れる時に来るから。友だちやおかあさんのことも自分のことも大切にするから。おとうさんが生きていてくれるだけでぼくは元気になれるよ。おとうさんが元気で生きていてくれることが何よりだから。また必ず会いに来るね。」
レイは柵越しにおとうさんの頭にすり寄りました。おとうさんも柵越しにレイの頭をなでました。

 ぺんぎん?は「きみが恐竜だってことは秘密にするから安心して」とレイに向かって言いました。レイはにせつむりのように秘密を共有できる相手ができてうれしいと思う反面、親友はにせつむりだけのはずなのに、いつの間にかぺんぎん?とも親友のようになってしまって、にせつむりに申し訳ない気もしました。

 少し離れた場所からとかげたちの様子を見ていたしろくまも合流し、すみっ古動物園から森へ帰りました。

 早朝、自分のおうちへ戻ったレイは、友だちのおかげでおとうさんと会えたことを手紙に書き、おかあさんがいる海へ届くように瓶の中に入れて、川に流しました。

 夕方になると、しろくまがおうちへやってきて、とかげのために手作りしたというおとうさんのぬいぐるみを渡しました。手芸が得意なしろくまはとかげにおかあさんのぬいぐるみもプレゼントしたことがありました。しろくまのおかげでレイの宝物がまたひとつ増えました。レイの宝箱の中はやさしさで包まれていました。

 その夜、しろくまが作ってくれたおかあさんとおとうさんのぬいぐるみを抱えながら眠ったレイは夢を見ました。海のすみっこでおかあさんとおとうさんに囲まれながら三人ですやすや眠る夢を…。

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 三人が仲良く眠っていると、空からふわふわの雪が舞うように降ってきました。その中で星のようにキラキラ輝くひとひらの雪は雪ではありませんでした。
「こんばんは。ぼくはゆきのこだよ。」
輝く雪に見えるひとひらの雪は三人に向かってそうあいさつしました。ゆきのこの声に気づいた三人は目を覚ましました。
「こんな夜中にだれ…?ゆきのこ?」
レイは眠い目をこすりながら、ふわふわ漂っている、ゆきのこを見つめました。
「もしかして…おまえはユキなのか?」
「あなたはユキよね?」
おとうさんとおかあさんはゆきのこに向かって、ユキと声をかけました。
「ユキってだれ?ぼくはゆきのこだよ。」
ゆきのこはレイのおとうさんとおかあさんにもう一度、自己紹介しました。
「いや、きみはユキに違いない。」
「きっとユキの生まれ変わりなのね。会いに来てくれてありがとう。」
おとうさんとおかあさんは涙を流しながら、ゆきのこを見つめていました。ゆきのこはきょとんとしていました。
「ユキってだれ?」
レイはおかあさんに尋ねました。
「レイのおにいちゃんよ。生まれてすぐに死んでしまったけれど…。あなたにはおにいちゃんがいたの。」
「えっ?ぼくにはおにいちゃんがいたの?」
レイはひとりっ子だと思っていたので、おどろきました。
「レイのおにいちゃんは雪が降る日に生まれたんだ。だからユキと名前をつけたんだよ。ゆきのこくんはきっとユキの生まれ変わりだよ。」
おとうさんもレイにおにいちゃんがいたことを説明しました。
「そうなんだ。ぼくにはおにいちゃんがいたんだね…。会いたかったな…。ゆきのこくんが本当におにいちゃんの生まれ変わりならうれしいな。」
レイのあたまの上にゆきのこがちょこんと止まって、不思議そうな顔をしていました。

 そんなやさしい夢を見ながらレイは翌朝、目覚めました。不思議な夢だったな…と思いながら、外に出ると雪が降っていました。その冬の初雪でした。
「ゆきのこくんが本当にいるといいな…。」
そんなことを思いながら、レイは静かに降り積もる雪を眺めていました。

 森の中では頭の上の雪を増やしたくて、やまが外に出て雪を待ち構えていました。頭の上の雪が増えれば、富士山みたいに貫録がつくと考えたからです。

 その近くできのこもかさの上に雪を積もらせていました。ゆきを頭に乗せれば少しはかさが大きく見えると考えたからです。

 ほこりとわたは自分たちによく似たふわふわの雪にじゃれて遊んでいました。触れてしまうと雪はとけて水になってしまい、ほこりとわたを重くしてしまうので、触れないように慎重に、雪をよけながら漂っていました。

 そんなほこりとわたの元へひとひらの雪が近づいてきました。
「おはよう。ぼくはゆきのこだよ。きみたちってぼくによく似ているね。」
「ゆきのこ?雪じゃないの?わたしはほこりよ。」
「本当にわたしたちによく似ているわね。わたしはわたよ。」
ほこりとわたは、ゆきのこにあいさつしました。
「うん、雪じゃなくてゆきのこだよ。ほこりさんとわたさんか。よろしくね。」
ゆきのことほこりとわたはみんな小さくてふわふわ漂っていたので、すぐに仲良しになりました。三人が一直線に並んだ時はまるでおだんごのようにも見えました。

 「ぼく…海ってところへ行ってみたいんだ。海の中に潜ってみたいんだ。」
ゆきのこはほこりとわたに自分の夢を語り始めました。
「海に行きたいの?海は水だから、わたしは苦手なのよね。」
「わたしも水は苦手よ。ゆきのこくんも雪でできているなら、きっと海は危ないわよ。雪は水に浸かるととけてしまうもの。」
ほこりとわたはゆきのこが憧れる海に恐怖心を抱いていました。
「うん、知ってるよ。海の水に触れてしまったら、きっとぼくは消えてしまう。だから潜るなんてできないのはわかっているんだけど、なぜか海に惹かれてしまうんだ…。どうしてかはわからないんだけれど。」
ゆきのこは遠くを見つめながらつぶやきました。
「そうなのね…。そんなに憧れているなら、ゆきのこくんが海に行けるように、わたしたちで考えてみましょうよ。」
「そうね。ゆきのこくんとわたしたちは友だちだものね。」
ほこりとわたはどうしたらゆきのこがとけずに海の中に潜れるか考え始めました。

 ほこりとわたがゆきのこのことを考えていた夜、流れ星を見つけました。とかげから流れ星に願い事をすると叶うんだよと教えられたことがありました。二人は流れ星に向かって「ゆきのこくんが海の中に潜れますように」と願いました。

 翌朝、ほこりとわたの元へ、海の神さまが現れました。
「わたしは海の神だ。ほこりとわたよ…おまえたちの願いを叶えてやろう。ゆきのこ一人では難しいが、よく似たおまえたち二人が協力してくれれば、ゆきのこに海の中を見せてやろう。」
海の神さまの言葉を聞いたほこりとわたは喜びました。
「海の神さま、ありがとうございます。わたしたちは何をすればいいんですか?ゆきのこくんの夢を叶えてあげたいんです。大切な友だちだから…。」
「ほこりやわたやゆきのこのままでは海の中へ潜れないから、三人が合体して、生き物の中で一番強い、恐竜になれば良い。わたしの魔法で三人を合わせて、恐竜の姿に変えてやろう。ただし一週間で元の姿に戻ってしまうから気をつけるように。」
海の神さまはゆきのこを呼び出し、三人をおだんごのように一直線に並ばせました。すると三人の体は恐竜というより、友だちのとかげによく似た姿に変わりました。
「うぁ…わたしたちとかげくんによく似た体になったわね。」
「そう言えば、とかげくんは泳ぐのが得意って言ってたわ。」
「とかげくんってだれ?」
三人は一つの体の中で会話していました。
「そうだ、とかげくんに海を案内してもらいましょうよ。」
「そうね。とかげくんは海が詳しいらしいし。」
「ねぇ、とかげくんってだれ?」
ゆきのこの質問に答えないまま、ほこりとわたは
「海の神さま、ありがとうございました。これから海へ向かいます。」
と海の神さまにお礼を言いました。
「くれぐれも、時間には気をつけるように。魔法がとける一週間後の今頃、海の中にいたらおまえたちは消えてしまうからな。」
海の神さまはそう忠告すると三人の前から消えてしまいました。

 「さっそく、とかげくんにお願いしましょう。」
「わたしたちの姿を見たらおどろくかもしれないわね。」
「ぼくにもそのとかげくんを紹介してね。」
とかげのような姿になった三人はとかげの元へ向かいました。

 「こんにちは。とかげくん。わたしたちがだれかわかる?」
レイのおうちに現れた、自分の姿にそっくりな相手を見て、レイはまばたきしながらおどろきました。
「こんにちは。きみ…だれ?」
もしかして恐竜の生き残りが会いに来てくれたのかと思いながら見つめていると、
「わたしたち、海の神さまのおかげで合体してこの姿になったほこりとわたよ。それからゆきのこくん。ゆきのこくんの海の中に潜りたいって夢を叶えるためにこの姿にしてもらったの。わたしたちはみんな水が苦手だから…。」
「はじめまして、とかげくん。ぼくはゆきのこだよ。」
レイは夢の中で出会ったおにいちゃんの生まれ変わりかもしれないゆきのこを思い出しました。
「えっ?ほこりさんとわたさんとゆきのこくんが合体して、ぼくにそっくりの姿になってるの?すごいね。こんなことってあるんだ。はじめまして、ゆきのこくん。ぼくはとかげだよ。」
レイは自分にそっくりの相手に向かってそう言いました。
「でも不思議よね…。海の神さまは恐竜の姿にしてくれるって言ってたのに、まるでとかげくんにそっくりなんだもの。でもとかげくんは泳ぐことが得意なのよね?」
レイはほこりとわたの言葉にドキっとしました。
「そうなんだ…。うん、ぼくはとかげだけど、泳ぎは得意だから。だから神さまはぼくに似た姿にしてくれたんじゃないかな。」
「とかげくんって海も詳しいんでしょ?おすすめの一番すてきな海に連れて行ってほしいな。」
ゆきのこはレイにそうリクエストしました。
「うん、海のことなら任せて。おすすめの海はそうだな…すみっこの海かな。だれもいなくてとてもきれいな場所なんだ。」
レイは自分が育った海のすみっこを三人に見せてあげようと思いました。
「じゃあその海へ行きましょう。一週間で行けるかしら?」
「一週間しかこの姿のままでいられないの…。」
ほこりとわたはレイにタイムリミットがあることを伝えました。
「一週間か…たぶん行けると思うよ。行ってみよう。」
「ありがとう、よろしくね。とかげくん。楽しみだな…。」
ゆきのこはだれよりも強く海に思いを寄せていました。

 海のすみっこは思っていたより、遠くてたどり着くまで、時間のかかる場所でした。たくさんの街や森を越えて、湖や川も越えて、海に出ると、ひたすら海のすみっこを目指して泳ぎ続けました。
「ねぇ、ゆきのこくん、海を見られたし、すでにこうして潜れているから、もう森のすみっこに戻ってもいいんじゃない?」
「そうよね。もう海の中を楽しめたし、これで十分じゃない?」
ほこりとわたは想像以上にどこまでも続く広い海を泳ぐことに疲れ始めていました。
「いや、せっかくとかげくんがここよりもっときれいな海を見せてくれるっていうんだから、海のすみっこを目指そうよ。」
ゆきのこくんだけは疲れ知らずでした。
「ゆきのこくん…海のすみっこはもちろんここよりもっときれいな所だけど、そこに会わせたい人がいるんだよ。」
レイはゆきのこがおにいちゃんに違いないと思っていました。だからおかあさんに会わせてあげたかったのです。
「会わせたい人?とかげくんの友だち?」
「ううん。ぼくのおかあさん。」
「へぇーとかげくんのおかあさんは海のすみっこで暮らしているんだね。」
「とかげくんのおかあさんなら、前にすみっ湖に来てくれた時、わたしたちは会ったことあるわよね。」
「ほこりさんとわたさんは会ったことがあっても、ぼくは会ったことないから、とかげくんのおかあさんに会ってみたいよ。」
四人はこんなおしゃべりをしながら、海のすみっこを目指して泳ぎ続けました。

 六日目の夜のことです。海のすみっこまであと少しというのに、間に合いそうにありませんでした。明日の午前中には元の姿に戻ってしまいます。
「ねぇ、残念だけど、そろそろ海から上がらないと、わたしたち消えてしまうわ…。」
「そうよね。とかげくんのおかあさんには会えなかったけれど、海なら満喫できたし。」
ほこりとわたは自分たちが消えてしまうことを心配し始めていました。
「そうだね…。でもあともう少しだけ、がんばってみようよ。」
ゆきのこくんだけは海から上がろうとはしませんでした。

 そこへまんまるのお月さまの明かりに照らされながら泳ぐ大きな影がゆっくり、ゆきのこたちの方へ近づいてきました。
「もしかしたらあれは…おかあさん?」
レイがその忍び寄る影を見つめていると、さらに近づいてきました。
「レイ、よく来てくれたわね。それから…あなたはレイのお友だち?」
大きな影はやはりレイのおかあさんでした。
「会いたかったよ、おかあさん。」
「こんばんは、とかげくんのおかあさん。わたしはとかげくんの友だちのほこりです。実はわたしたち合体していて、この姿になっています。」
「おひさしぶりです。わたしはわたです。またお会いできてうれしいです。」
「はじめまして。ぼくはゆきのこです。とかげくんのおかあさんに会えて良かった。あきらめずに泳ぎ続けて良かった。みんなありがとう。」
レイによく似た姿の三人はレイのおかあさんにあいさつしました。
「ほこりさんにわたさんにそれからゆきのこくんが合体して、その姿になっているのね。まるでレイにそっくりだからおどろいちゃったわ。」
おかあさんはやさしく微笑みました。
「おかあさん…あのね…。」
レイはこっそりおかあさんにだけ、夢の中で出会ったゆきのこの話をしました。レイの話を聞いたおかあさんはゆきのこに向かってやさしく言いました。
「あなたは…ユキかもしれないのね。ずっと会いたかった…。忘れたことはないのよ。毎日思い出していたの。ゆきのこくん、はるばる会いに来てくれて本当にありがとう。」
「ユキってだれ?」
ゆきのこは意味が分からず、自分にすり寄ってくるとかげのおかあさんを不思議に思いましたが、でもなぜかとてもしあわせな気持ちになりました。
 レイはおかあさんとおにいちゃんと三人で過ごせた今夜を忘れないようにしようと思いました。本当は夢の中のように、おとうさんもここにいてくれたら良かったと思いました。

 「ゆきのこくん、そろそろ陸に上がらないと…。」
「とかげくんのおかあさんにも会えたことだし。」
いつの間にかおひさまが昇りかけていた水平線を見つめながら、ほこりとわたが言いました。
「うん、そうだね。ほこりさんとわたさん。それからとかげくんととかげくんのおかあさん、本当にありがとう。ぼくはみんなのおかげで夢を叶えられて幸せだよ。」
「ぼくの方こそ、ゆきのこくんのおかげで夢が正夢になったよ。」
「わたしも…ありがとうね、あなたに会えて本当に良かった。ユキ…ゆきのこくん。」
なぜかレイとレイのおかあさんに感謝されたゆきのこはきょとんとしていました。
「今度は、私の方からゆきのこくん、ほこりさん、わたさん、レイに会いに行くわね。またすみっ湖に遊びに行くから。」
レイのおかあさんは最後にレイとレイにそっくりなゆきのこたちを抱きしめながら、そう約束しました。みんなあたたかくてさびしくて涙目になっていました。

 おかあさんと別れて、陸に上がると間もなく魔法はとけて、ゆきのことほこりとわたはまた元の小さな姿に戻りました。
「海の神さま、ありがとう。」
ゆきのこやレイは海の神さまに感謝しました。

 すっかりゆきのこと仲良くなったレイはこう言いました。
「ゆきのこくん、今度は一緒にすみっ古動物園に行こうよ。きみに会わせたい人がいるんだ。」
「会わせたい人って?」
「それはね…まだ内緒。」

 森のすみっこが寒い冬色に染まり始めた頃に起きた、あたたかくてやさしい奇跡のお話でした。おしまい。

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