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戸森しるこさんの童話『ぼくの、ミギ』を読んで

くつ下を買う時は、なるべく同じものをたくさん買うといいと聞いて以来、私は一度に同じ色かつ同じ柄のくつ下を複数購入するようになった。完全に同じくつ下なら、片方に穴が開いても、もう片方が無事であれば、他のどのくつ下ともペアで履けるからだ。経済的で効率が良いと思って、同じくつ下を履き続けていたけれど、この本を読んだら、他のものとはペアを組めない一点もののくつ下に憧れるようになった。

戸森しるこさん作『ぼくの、ミギ』は、くつ下が主役の童話。童話だけど、完全な子ども向けというより、ヤングアダルトから大人向けの深いお話だと思った。赤い毛糸のくつ下のヒダリが、行方不明になった片割れのミギを探しに、家の中を旅する物語。
家族分のくつ下が保管されているチェストの中で、くつ下たちがひそひそ会話を繰り広げていたり、大きなソファのある部屋で忘れ去られていた長老のようなうさぎのぬいぐるみが、旅に出ていたくつ下のヒダリと会話をする様は、子ども心をくすぐるし、大人は童心に帰れる。でもよく読むと奥深くて、話している内容が哲学的だったりする。そういう点で、大人向けの童話だなと思った。(※以下、ネタバレあり。)

ミギを知っているぬいぐるみと出会ったおかげで、ヒダリは無事、ミギと再会を果たせるのだが、ペアだからこそ、片方が劣化してしまうと二人揃った時、くつ下としての役目を果たせず、人間に処分されてしまう可能性が高いと毛糸がほつれ色褪せたミギはそのことを気にしていた。色褪せやほつれもなくまだきれいに見えるヒダリの相方としてふさわしくないと、ミギは自ら雲隠れしていた。でもヒダリは姿が変わってしまったミギのことを気にすることなく、「ぼくらは、どうしたって、ふたりでいっそく。」、「いっしょにいたいんだよ。」とヒダリにやさしく言う。
 
あぁ、愛があるなと思った。まるで幼馴染同士で結婚した老夫婦のような。生まれた時からお互いを知っていて、何をするのもずっと一緒で、若いうちは二人とも何でも一緒にできたけど、そのうちどちらかが先に老いてしまって、迷惑をかけるくらいなら、相方の元から離れようと考えてしまう夫婦がいるように、くつ下のミギとヒダリはずっとお互いを思いやっていた。姿が傷んだ相方を受け止めて、それでも二人でいたいとヒダリがミギに向かっていうシーンはまさに愛の告白だった。
 
ヒダリのためを思ってヒダリから離れて過ごしていたミギと、ヒダリは和解し、二人揃ってハッピーエンドかと思いきや、クリスマスの物語でもあるためか、くつ下のミギとヒダリにも特別なクリスマスプレゼントのような、さらにハッピーな仕掛けがラストに用意されていた。
 
二人と会話していた老いぼれたうさぎのぬいぐるみとの再会、そしてくつ下のミギヒダリに与えられた新たな役割…。読者を温かい気持ちで包み込んでくれるラストは、著者からの最高のプレゼント。クリスマスに本を送るとしたら、迷いなく、『ぼくの、ミギ』を選ぶ。読書の秋に、一足早いクリスマスプレゼントをもらった気分になった。今年のクリスマスはこの本と共に赤い毛糸のくつ下をかけがえのない誰かにプレゼントしたい。

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