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140字小説

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140字小説をまとめています。
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長岡さんは話が長いが、語り口はとても良い。朗々と良い声で話す。話す内容は平坦。のんびり運転でドライブするかのよう。聞いていると眠くなる。今日は旅先でレンタカーを借りてドライブする話を聞いていたが、途中で寝てしまった。はっと起きて謝ると「まだ着かないから寝てていいよ」と言われた。

小学生の息子は大のカリカリ好き。フライドポテトも少し焦げたものを好む。今も義母に熱弁をふるっている。
「唐揚げの衣もカリカリが好き。ベーコンもカリカリに焼いて欲しい」
「韓国海苔とか鮭の皮も美味しいわよね」
「おばあちゃん!カリカリとパリパリは違うよ!」
息子よ、カリカリするな。

夜中に尿意を覚えて目が覚めた。起きようとすると、右足のふくらはぎがつりそうな感覚。大丈夫、治し方はわかっている。足の裏を床にぺたっと付けて足をまっすぐに伸ばせばいい。覚悟を決めて立ち上がる。痛ッ!足の裏に激痛。尻餅をつく。レゴ?レゴだ!あ、左足もつった!ああもう、床の上で大の字。

「お師匠様、そろそろ下界に降りても良いですか?」
「ならん」
「なぜです?侘助は三年で下界に降りたのに。私はもう五年ですよ」
「年数ではない」
「私には何が足りないのですか?」
「味噌汁じゃ。お前のは旨すぎる」
「は?」
「毎日飲みたい。残れ」
「お湯を注ぐだけだぞ、クソジジイ」

ラーメン屋にて。大盛りは何gか問う男あり。店主、計ってないから知らんが兎に角多い、と嫌々返事。男は計量器を見せ、OKか?と更に問う。店主、駄目だ、帰れと怒る。男は平謝りして着席。大盛りを注文。男は麺を咀嚼しつつ何gか計っている様子だったが、店主の急な大声で麺量を見失ったようだ。

学生時代、下宿先に玉ねぎを十個以上ストックしている男がいた。我々は玉ねぎが必要になると彼に譲ってもらっていたが、ある日、私が訪ねて行くと彼の玉ねぎストックが切れていた。彼は何の責任感からか、枕カバーから隠し玉ねぎを出してくれたのだが、私がそれを断った時の彼の顔が忘れられない。

大阪出張の帰りの新幹線。車内には肉まんと焼売の匂いが充満。マナーも空腹には勝てず。隣の席では、生真面目そうな会社員が持ち帰りタコ焼きの箱を見てフリーズ。「車内ではご遠慮下さい」シールが。やがて彼は動き出し、極限まで箱に顔を近づけ、一瞬だけ箱を開けてタコ焼きを口に放り込む技を披露。

ヒマワリへ手を伸ばす。
太陽に向かって咲くお前が、太陽の力を持っているのか知りたい。
毎日手を伸ばしているが、まだ分からない。
今日もまたヒマワリへ手を伸ばす。

誰かに手首を掴まれた。先生?

「もうやめなさい。種しか食べないわよ、普通」

聞いたことのない病気で入院した8月。

今日から入院。相部屋で男の子と気難しそうなジジイがいた。男の子がヒマそうだったので話しかけた。
「嫌なことがあったらイヤ〜ンって言うゲームしない?」
男の子は面白がってイヤ〜ンを連発。かわいい。

夜、しわがれ声のイヤ〜ンが聞こえた。

隠し持っていた酒を没収されたジジイだった。