読解力2

「2年の日本語の空白」からの復活劇

読解力を鍛えるには「書く」しかない!(2)

前回はお父さん問題の骨子をご紹介しました。
ポイントをおさらいしておきます。

・「お父さん問題」は原稿用紙1枚程度の論述がメイン
・自由度の高い「正解のない問題」を出す
・狙いは「自分の頭で考えて論理を組み立てる」こと
・添削は意見の是非ではなく、論理展開力に焦点を絞る
・2回ほどリライトして「筋の通った作文」に仕上げる

前回、我が家で実際に出題した問題を挙げました。テーマが時事・社会問題などに偏っていたので、「こんなややこしい問題、自分でもよく分からない」とハードルの高さを感じた方もいるかもしれません。
でも、それは誤解です。
出題が「そっち方面」に寄っているのは、仕事柄、私が得意な分野に寄せているだけです。
問題が堅いテーマばかりである必要はありません。一例として挙げた「モノポリーの強さ」なんてテーマも完全に趣味の世界です。

もし「お父さん問題」を真似してみようと思ったら、ご自分が詳しい分野に引き付ければ良いだけです。
たとえば私は餃子以外、料理が全くできないのですが、「効率的に夕食を用意するために必要なスキルは何か」という設問は「お父さん問題」として面白いテーマになるはずです。
この問題、私には採点する勘所が分かりません。でも、「分かっている人」なら、「これは説得力がない」「こう書けばもっと伝わる」「このポイントも押さえるべきだ」と指摘するのは難しくないだろうと思うのです。

肝心なのは「伝わるように書く」という作文術です。
それには、テーマが何だろうと、「読み手を勘定に入れて論理的な文章を書く力」が求められます。この訓練が、自分が読み手になったとき、「書き手の立場で文章を読む」能力、つまり読解力を身につけるのに役立つのです

劇的だった三女の作文能力の向上

少々、議論が先走ってしまいました。
今回は「お父さん問題」はどれぐらい効果があるのか、三女の例を挙げてみます。少々、親馬鹿気味ですが、ご容赦を。
なお、学習過程の公開は三女の同意を得ています。

まず2017年夏、ロンドンにいたころに試しに書かせてみた「お父さん問題」の回答を引用します。約半年後に帰国を控えていたことでした。
お題は「日本とイギリスの良いところ、悪いところ」。

私が思うにイギリスと日本の大きな違いは人。
日本にはほぼ日本人しかいないが、イギリスにはいろいろな人がいる。                     
例えばテロが少ない、多いだと、イギリスにはいろいろな人がいるから意見が一致することが少ないと思う、しかも宗教が違ったりすると、根本的に考えが違うから、テロみたいな激しい意見のぶつかり合いが多々あると思う。
次のポイント、物の使いやすさと品ぞろえが良いか悪いかという話。                                この話はイギリスと日本の学校の掃除タイムや給食にかかわりがあると思う。なぜなら、日本では生徒が掃除し給食の用意も片付けもする、一方、イギリスでは掃除はタームや一年の終わりぐらいにしか生徒はやらない、その上給食は大人に配膳してもらってそれをもらうだけなうえ、片づけは、生ごみ、カトラリー、ごみ、でわけてバケツに放り込むぐらい。だから日本人の方がイギリス人より細かいところまで気にする、ひとまとめにすると几帳面。几帳面だから日本製の物は使いやすいことが多い。

バッサリ言ってしまえば、これは作文として成立していません。
この時点で三女は小学5年生。その学年・年齢にしても、論理の組み立てや飛躍ぶりは「及第点」以下です。

三女は頭の回転は速い方で、ボードゲームで対戦すると大人顔負けの戦術を駆使するロジカルな思考力を持っています。また、ロンドン時代もマンガや小説など日本語のコンテンツには頻繁に触れていました。
それでも、1年半、日本語の「書く」から離れると、話し言葉でしか書けず、文章が組み立てられなくなってしまうのです。

帰国後に判明するのですが、この時点で読解力もかなり落ちていたとみられます。筋のある物語は楽しめるけれど、論理的な文章の読み解きが苦手になっていたようです。
前回書いたように、「話す」→「読む」→「書く」という言語の習得過程を逆流する、「書く」が「読む」を鍛え、「読み書き」がオーラルな伝達力・対話力を上げるという道筋が、総合的な言語運用力=論理的思考力の引き上げに必要なのだろうと思います。
いずれにせよ、三女の「お父さん問題」はなかなか多難なスタートとなりました。

次は帰国後、2018年6月に「お父さん問題」に最初に取り組んだときの一文です。さきほどの原稿から1年弱が経っています。この間、特に作文指導などはしていません。
出題は前回も紹介した「お父さん問題」の定番、「天動説と地動説」でした。キモの第3問だけ再掲し、続けて解答を載せます。

問3 地動説を唱えた人々は迫害されたりしました。そのことについて、感想を10行で述べなさい。

次に私が気になるポイントは地動説を唱えた人々は迫害されたりした、ということです。今は、基本的人権が尊重されているため、何かを唱えることによって迫害されたりすることは法律を侵さない限りありません。だから、私はその時代にも基本的人権がきちんと尊重されていればよかったな、と思いました。それに、意見が違うからといって、人を傷つけたりする人がいるということを残念に思いました。本来、意見が違う人がいたら、話し合って、理解しあって最善策を協力して見つけ出すことが一番良いとみんな分かっているはずなのに、意見を言っただけで迫害された人が出てしまったからです。私はこれから、意見が違う人とも話し合って、協力できるようにしたいと思います。

帰国して2か月、学校にも通いだしていたのでかなりマシになっています。それでも一読して、これは「子どもの作文だな」という印象を持たれるでしょう。
このレベルだと都立中高一貫校の入試では「アウト」です。ビジネスの場でも通用しないのは言うまでもありません。

正直、この解答を見たとき、私は「ロンドンの『2年の空白』は思ったより大きい……これは三姉妹で初めて『残念でした』かも……」と不安になりました。長女、次女と比べて「お父さん問題」開始時のレベルがかなり低かったからです。

実際には、三女の作文力はその後、劇的に向上しました。
親の欲目は承知ですが、この約半年後、受験直前の12月の解答例を挙げます。お題は人工知能で、リライト前の初稿です。

問1 人工知能とは何ですか。簡単に5行程度にまとめなさい。
問2 最近、人工知能が注目を集めています。なぜか、10行程度でまとめなさい。
問3 このまま人工知能が発達すると、社会はどう変化すると思いますか。良い変化と悪い影響を織り交ぜて、自分の考えを15~20行程度で書きなさい。

(解答1)
人工知能とは、文章や音声、画像、状況など、与えられたデータを認識する能力と、その認識結果に対して、一番良いと思われる答えを出す最適化の能力が組み合わさったものである。また、人間が学ぶと何十年もかかる膨大な知識や技術を一瞬でコピーできるため、様々な分野で人間の力を超え始めている。
(解答2)
最近、人工知能が注目を集めているのは、ディープラーニングという、自分で学習する機能が付いた、今までとは違うシステムの人工知能が開発されたからだ。
例えば、そのタイプの人工知能に大量の画像を読み込ませたところ、自分でネコをネコと認識できるようになった。最初から、ネコはこれだ、という情報をインプットせずとも、大量のデータを分析して、ネコはこれだ、という答えを見つけた、ということだ。
そして、その学習能力によって、今までの人工知能に欠如していた常識を、長い時間をかけてデータ化せずとも、自動でそのことをできるのではないか、という道が開かれた。この技術が発達し、人工知能が自分で自分を改良できるようになれば、急速に成長していくと考えられている。
(解答3)
私は、このまま人工知能が発達すると、過労で死ぬ人が減少すると思う。パソコンにデータを打ち込んだり、そのデータを処理したり、などの作業は、もうすでに人工知能が人間よりも数段早く行えるのだから、このまま進歩すれば、他の作業もできるようになるはずだ。だが、その一方で、失業者が増えてしまうかもしれない、という不安があると考える。人工知能は人間よりも仕事が早い分野もあるうえに、機械なため、疲れることなく、24時間給料なしで働いてくれるからだ。そんな、雇用側からしてはいいことづくめの人工知能の普及が進めば、人間の仕事場はたちまち人工知能たちに奪われてしまうだろう。
しかし、芸術や人を思いやる心などの、感情を表現するものでの力は、人工知能よりも人間が上回っている。人工知能がいくら過去のデータを読み取ろうとも、これだけは、永遠に人間を超えることはできないと、私は思う。時に人の言葉が心に響くのは、共感する力が言葉をかける人にあるからだ。
例えば、一度も痛い、と思ったことがない人に「大丈夫?」と聞かれても、慰めにはならない。それと同じことで、人工知能は恐怖や痛み、喜びがないため、かける言葉が心に響くわけがない。
このようなことから、私は、このまま人工知能が発達すると、社会に良い影響も、悪い影響も、両方ともあたえるが、心がない人工知能ではできない分野の成長につながると思う。

正直、初稿を見て、私は「ここまで来たか!」と驚き、「これなら受かるだろう」と安心しました。
補足しておくと、三女はこの問題に答える直前、たまたま「言葉屋」というシリーズで人工知能とディープラーニングについて読んだばかりだったようです。確かにディテールには「仕入れたてホヤホヤ」のにおいがします。
「言葉屋」については、以前、三女の読書感想文をnoteでシェアしました。これも、親馬鹿は承知ですが、良く書けています。

「お父さん問題」の解答に戻ります。
この文章は、まだ表現に稚拙さや粗さが残っているものの、ちゃんと筋が通った構成になっています。たまたま読んだ本と出題テーマが重なるラッキーがあったのを割り引いても、及第点以上の出来です。
これこそ、「読解力+作文力=論理的思考力」を鍛えるという「お父さん問題」の目指す成果です。
「自分の言葉で、自分の考えを的確に伝える」。
当たり前のようでいて、的確にこれを実行できる人は少ないのです。

この人工知能の初稿には「80~90点」と合格点を与えました。細かいテクニカルな修正のアドバイスを与えて、1回のリライトでほぼ満点の原稿に仕上がりました。
三女自身も、この回で「やれる」という大きな自信をつかんだようです。

ここまでたどり着くのに、マジックをあったわけでありません。あったのは、地道な試行錯誤と紆余曲折でした。
次回以降、もう少し詳しく個々の添削例に踏み込んで、「お父さん問題」の運用ノウハウを共有します。
是非、マガジンのフォローを!

=========
連載「読解力をつけるには『書く』しかない!」のご愛読ありがとうございます!
新規投稿はツイートでお知らせします。こちらからぜひフォローを。
異色の経済青春小説「おカネの教室」もよろしくお願いします。

無料投稿へのサポートは右から左に「国境なき医師団」に寄付いたします。著者本人への一番のサポートは「スキ」と「拡散」でございます。著書を読んでいただけたら、もっと嬉しゅうございます。