月の裏から 2069


アポロの歓喜から100年が過ぎた
すでにAもBもCもなく
新たな敵 Mが台頭している
ビッグブラザーが遺伝子情報をシャッフルし
人類は皆クレオールになった
ネイションは消滅している
約束の地は新権力によって分割されたが
それはおそらく大本営フェイクだろう

救世主Qは宇宙線のせせらぎに体を横たえ
霊気を集めていた
デジタル帝都の公文書館には
解読不明の文字が刻まれた
月面のロゼッタ石が安置されている
それは秘密主からの最後の手紙であった
クレーターとクレーターの狭間に
最大の秘密がある
JAXAははじめからワンポイントでそこを狙っていた
情報はすでに全て吸い上げられている
司令室の中にオゾンのような匂いが充満する
それは宇宙人の体臭であり
テストステロンと甘美な幻覚を誘発する
連鎖するエクスタシーになす術がない

その日予期せぬ重力波がQのチャクラを開いた
国際宇宙ステーションに3人の預言者が蘇り
天使のファンファーレは全ての通信を占拠した
銀河の震えがプレートの喘ぎと呼応し
彼方から現れる憤怒の巨大な宇宙蛸
全てをかき混ぜる狂った青龍の爪によって
地球は元の泥の沼エマルジョンに戻っていく
この偉大なるリセットによって
歴史は終わり、新しいタイムセットが始まる
世界を呪う赤子を鎮めるために
鎮魂の子守唄が用意された
月の裏の太陽の蜜が凍る聖堂では
記憶のクリームが薄く引き延ばされ
飛行する金属虫が結界の紐を結んでいく(つづく)





38聖なる水




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?