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【吃音】対応できる医療機関や言語聴覚士が少ない理由

当院では、新型コロナウイルスの警戒ステージに応じてですが、基本的には県内・県外問わず相談を受け入れています。
ですが、中には「遠くて通えない」という方や、居住地に近い病院を紹介した方が良いだろうと感じる方がいらっしゃいます。
改善を目指していくのであれば、あまり期間をあけずに定期的に通院するのが良いですし、定期的に通院をするのであれば、居住地に近い病院のほうが通いやすいですね。

私個人のもとにも、勤務先にも、県内・県外問わず、
「吃音を診てくれる病院はありますか?」
というご質問が現在も多く寄せられます。

紹介先がないわけではないですが、対応できる医療機関数がそもそも少ない現状は確かにあります。

「新規の方を診れる余裕がなく、手一杯なので、現在は相談の受け入れはしていません」

このような状態にある医療機関もあります。
当院は吃音専門外来を行っている医療機関ですが、数ヶ月前には一時期この状態に陥ってしまったことがあります。

茨城県内でも、茨城県外でも、言語聴覚士が在籍している病院は多く存在します。
言語聴覚士がいないわけではないのです。
では、なぜ吃音を診れる医療機関が少ないのでしょうか。
なぜ吃音を診れる言語聴覚士が少ないのでしょうか。

言語聴覚士などの専門職の方に聞いたご意見には、以下の内容が多く挙げられました。

「対応できる言語聴覚士がいない」
「医師の理解が得られず、協力してくれる医師がいない」
「相談を受け入れたいと思うけど、知識や技術に自信がなくて、外来相談を行っていない」
「吃音の相談まで受け入れている余裕がない」

ここで生まれてくる疑問は、『言語聴覚士は吃音に詳しいはずでは?学校では学ばないの?』かと思います。
言語聴覚士の養成校では、吃音の授業ももちろんあります。
全く学ばないわけではないのです。
しかし、全体からみてコマ数(授業の時間数)は少なく、全カリキュラムの0.2%程度しかないとも言われています。
また、教科書の知識を学ぶ(覚える)だけという内容の際には、臨床や支援に生かせないなぁと感じる場合もあります。
吃音を専門で学び、吃音を専門でやっていこうとする言語聴覚士はまだまだ少ない現状にありますが、最近は、吃音の診療をやっていきたいという言語聴覚士が昔よりも少し増えている感じもします。

私は、5年ほど前から専門学校の非常勤講師もしています。
発声発語障害学(吃音)の担当です。
吃音の当事者でもある言語聴覚士で、且つ、吃音専門外来を新規開設し担当している言語聴覚士が講義をすることは、学生の皆さんにとって、とても良い学びの機会になっているようで、それは嬉しい限りです。
講義をきっかけに、吃音の診療に興味を持ってくださる方もいます。

では、なぜ吃音相談に意欲・興味のある言語聴覚士が吃音の診療を行えない場合があるのでしょうか?
その答えは、①医師や事務方の協力(指示・支持)が必要だから、②効果的で正しい知識や技術を学んだり、近くで相談できる人や場がない(少ない)からです。

①について解説していきます。
言語聴覚士法には、以下のように記されています。

言語聴覚士法 第42条第1項 (業務)
言語聴覚士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として、医師又は歯科医師の指示の下に、嚥下訓練、人工内耳の調整その他厚生労働省令で定める行為を行うことを業とすることができる。

病院での言語聴覚療法を行うためには、医師の診察を通り、リハビリが実施できる体調・状態と判断されてから、言語聴覚士のリハビリにまわるということが必要です。
そして、医師の診察の前に、病院では受付を行います。
受付や診察の対応によっては、受診が嫌だと感じて、その後は来なくなってしまうケースもあります。
吃音の診療を行っていくには、どうしても医師や事務方の理解・協力が必要なのです。
ここで苦労する言語聴覚士がいるのも事実です。

また、②についてですが、効果的で正しい吃音の知識や技術を学べる場所、そして、経験を積める場所、さらには、外来開設・運営に関してのアドバイスをくれる人や橋渡しをしてくれる人の存在が必要かと思います。

実際、私のところにも、見学にきたり、アドバイスを求めに来てくださる方がおります。
私も、今の立場では、知識や知恵を授けることはできますが、勤務先での外来開設など実行に移していくのはその方自身の力量(説得力)が重要となってしまっています。
また、ひとりでやっていくのは不安だけど、一緒にやっていける言語聴覚士がいれば安心という方もいます。
なかなか吃音に対応できる医療機関や言語聴覚士が増えない現状にあるのも、このような要因も一因となっている可能性は否定できません。

本当は、様々な病院・施設などに出向いて、新規立ち上げなどのお手伝いが積極的にできれば良いのですが…


「遠くて通えない」
「相談できる病院がなかなか見つからない」
「手一杯で受け入れていないと言われてしまった」

このような事態が少しでも少なくなるよう、吃音相談に対応できる医療機関が増えていってくれることを祈るばかりです。

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