見出し画像

【台湾建築雑感】集合住宅の平面計画(2)

現在の台湾で集合住宅の設計実務をするにあたって、一つ特徴的なことがあります。それは柱や梁が外観に露出するということです。それはほとんどデフォルトになっていて、台湾の建築師が設計の検討を始めるにあたって、初めに建築主に見せる図面は既にそうなっています。このことについて少し詳しく検討してみましょう。

前回の紹介で、台湾で見られる集合住宅の時代による変遷を見ましたが、この梁が露出するという傾向は、最近の高層建築になって見られる現象であることが分かります。中華民国の時代になった初期の建物では、日本と同じように外壁面はフラットで柱も梁も建物のヴォリュームの中にあります。これが、何らかの理由があって外部に出てくることになったと考えられます。

まず、なぜ台湾の設計ではこの様になるのかを考えてみます。設計の実務で言われるのは住宅を買う消費者が、梁や柱が室内に現れるのを嫌うということです。これは二つの面の理由があります。
一つは室内に使えない無駄なスペースを設けたくないということです。通常、建物の面積は外壁ラインの中心を基準にして算出します。そうすると、柱が壁面の外にある場合、柱の面積はカウントされませんが、壁面の内側にある場合、柱は面積でカウントされる範囲内にあることになります。そうすると、柱が内側にあると、同じ面積でも実際に使える面積はその柱の分不利になります。これを嫌うということですね。この理屈は日本でも同じです。
もう一点、室内に梁が現れることを嫌うということがあります。このことを表す中国語もあります。“壓梁”と言い、梁による圧迫感という意味で、これは消費者に嫌われます。例えば部屋のレイアウトを検討する際に、ベッドの枕の上に梁があることは良くない配置と考えられ、これをできるだけ避けるように計画していきます。もともと梁が室内になければ、“壓梁”という問題は起こらないわけです。

これらの理由で、設計のデフォルトとして柱の内側に壁面を配置し、柱と梁が外壁面側に露出することになります。

因みにこの柱や梁が室内に現れない、部屋の外側にあるということについて、日本でも“アウトフレーム”という概念があります。ただし、平面計画の全体に見られることではなく、通常日本では、バルコニーのある側の外壁の設計で採用される工法です。

この様に、台湾では柱と梁を外壁面の外側に現れるということは、きちんと理由があることが分かります。

次に、日本では何故このことに違和感を感じるのか見ていきましょう。

まず、外観に柱と梁が露出するのはデザイン的に好ましくないということがあります。日本でいうアウトフレームというのは主にバルコニーの面でのみ検討され、そうなるとバルコニーのデザインで処理することができ、外観に直接現れることはありません。しかし、台湾の設計ではバルコニーだけではなく、その他の面でも柱と梁が現れるので、外観に構造フレームが見えてくることになります。これは外観デザイン上好ましくないという判断です。

また、梁をこの様に露出させると、外壁面が増えコストがアップするという実務的な面、梁の上面は防水上の弱点になるので、ここからコンクリート内に水が入り込むことを避けたいという維持管理の視点もあります。

日本での設計実務ではこのような理由で外壁に梁が露出することを嫌う傾向があります。例外はバルコニーの面で、この部分ではそもそもバルコニーの床面で防水処理をするので、意匠上も維持管理上も問題ないと判断されます。

さて、柱と梁が露出することに対する台湾と日本の考え方の違いを見てきましたが、次に何故このような違いが起こってきたのかを考えてみましょう。

前回述べたように、この傾向は最近の建物で見られることで当初はなかったということが分かります。そしてそれは台湾の住宅購入者の声を反映したものであろうと考えられます。この消費者の声がどのようにして建築計画に反映していくのかという問題についてはまた、別の機会に説明します。
室内に柱があると邪魔だという感覚は日本でも同じはずです。しかし、だからと言って日本では柱と梁が外壁に現れるという建築計画にはなりません。そして、その理由は外観デザインと、梁が露出することによる不具合を避けるということです。
こう考えると、日本では住宅購入者の声よりも、デザインをする“建築設計者”と維持管理に責任を持つ“建設会社”の意見が重視されているのではないかというのが僕の考えです。


 台湾ではこの消費者側からの声が大きく建築デザインに影響を与えているわけです。これは良い面と悪い面と双方にあるとおもいますが、これが台湾での設計業務の特徴であると考えています。

この、消費者の声を建築計画に反映する、建築生産システムのキーポイントに、販売会社(銷售公司)の存在があります。次回はこのことについて説明したいと思います。

台湾建築さんぽ

FBで台湾建築さんぽというグループを作って、台湾の建物やランドスケープも紹介しています。こちらもご覧ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?