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【前編】ひるぜんフィールドワークレポート企画メンバー座談会『Hiruzen Action Tourism '23』

「蒜山(ひるぜん)に秘められた資源」を掘り下げる!

岡山県真庭市蒜山エリアの資源を発掘し、新しいプロジェクトや事業を始める人を応援するツアー「Hiruzen Action Tourism」の参加者募集を9月19日にスタート致しました!

募集開始にあたって、企画メンバー3名で蒜山エリアへフィールドワークに行き、様々な資源を自分たちの目で見て、どんな方にツアーへ参加して頂きたいか考えを巡らせてきました。

今回は、真庭市蒜山エリアにより多くの方に興味を持っていただくために
前編・後編に分け、フィールドワークレポートをお届けしています。

前編では、真庭市蒜山の地域資源や地域の魅力について、企画メンバーが出会った資源をピックアップしながら語り、後編では、「蒜山で出会った人たち」をテーマに、企画メンバーの3名で座談会を開催。

実際のフィールドワークで、蒜山の歴史や文化、人々に触れ、西日本屈指のリゾート地としての側面だけではない奥深い魅力を体感してきました。一体、どんな地域資源が秘められているのでしょうか。


蒜山はどんなところ?

「西の軽井沢」と呼ばれ西日本屈指のリゾート地として知る人も多い、岡山県真庭市の北部に位置する「蒜山(ひるぜん)」エリア。ジャージー牛や乳製品、大根やとうもろこしなどの農作物なども有名です。

一見、恵まれた土地として感じられますが、実は潤沢に作物が育つ土壌ではないという環境の中で、人々が生き延びるために、時代や社会情勢によって、生活や産業を柔軟に変化させてきた歴史があります。さらに、岡山と鳥取の県境に位置し、両方の影響を受けた独自の文化が、色濃く残っているのもユニークな点です。マイナスにも見える環境を、その時々の知恵や発想で、クリエイティブに活かす動きが蒜山にはありました。

▼座談会メンバーのご紹介

荻野高弘(おぎの たかひろ)※左
まちづくりの研究をしていたからか、暇さえあればどこかのまちへ出掛けてしまう性分な今回の企画担当。最近、新潟に引っ越したこともあり、自分の行動範囲を全国に拡大中。

本間由佳(ほんま ゆか)※中央
その人の「これは面白い!」という視点や今までの人生ストーリーを聞くのが好きなコミュニティマネージャー。自然豊かな場所に憧れる東京生まれ東京育ち。

奥澤菜採(おくざわ なつみ)※右
美大卒でなぜか不動産畑を歩みながら場づくり領域に生息しているプレイングマネージャー。長野に居を移し、週1ペースで東京・埼玉を行き来する移動距離多めな3男児の母。

蒜山の伝統工芸「郷原漆器」はなぜ木目が透けて見えるのか?

奥澤:
行ってきました、フィールドワーク!(2023年8月16日〜18日に実施)想像以上に、知らないこと、もの、それらが色々な時代を経て繋がっていたりして、面白かったですね。レポート前編となる今回は、「蒜山に秘められた資源」をテーマに具体的にピックアップしながら、私たちもクリエイター、ビジネスパーソンのひとりとして振り返っていきたいと思います。

まずは何が印象に残っていますか?

荻野:
僕は「郷原漆器」に惹かれました。博物館に展示されているとさらっと通り過ぎてしまいそうですが学芸員の方のお話を聞いて、すごく興味深いなと。

蒜山で800年程前から続く「山焼き」の文化があるのは知っていたのですが、そこと密接に結びついた生活道具だったとは!
(※山焼きについては本記事後段でご紹介しています)

本間:
山に火を入れて草原をつくる古くからの慣習があって、どうしても大きな木が育たない。だから、木で生活道具を作るためには、成長途中の木を使う必要があったんだよね。

荻野:
なるべく簡単に、だけど丈夫な器をつくることができないか、そこにすごい創意工夫があったんだと想像しちゃうよね。普通は木を切って横にして使うけど、どうしても細いから縦にしか使えない。だから年輪が中央に出てきて、一度塗りで一気に仕上げるから木目が現れる。まさに必要に迫られたところから生まれたデザイン。

奥澤:
そうだよね、すごく生活に密着した食器だったはずだけど、プラスチック製品ができたり、漆の入手が難しくなってしまって…。生活用具としては役目を果たしたけど、時代が変わって、今「木目を活かす仕上げの美しさ」にフォーカスして、工芸品として継承していこうという動きが始まっているのもとても興味深い。

郷原漆器
蒜山で生産される約600年の伝統をもつ漆器。蒜山に自生するヤマグリ等を生木のまま輪切りにし、器の形をつくっています。漆器の多くは、年輪の中心をさけて木地挽きをしますが、郷原漆器は芯を中心に加工するのが特徴で、生木の状態から一気に仕上げ、乾燥は形成の後に行います。漆を一度塗りで仕上げることから、木目が美しく現れるのが特徴。

人の営みから生まれた民具をファッションとして継承していく

奥澤:
同じように、蒜山ならではの環境の厳しさや生活スタイルから生まれたものとして「がま細工」にも注目したいな。

荻野:
岡山県にあまり雪のイメージがないけれど、蒜山は12月から3月頃まで「百日雪の下」といわれるくらい、今も昔も雪国!
外に出て仕事をすることができないから、冬の作業としてがま細工が作られていたんだよね。

本間:
博物館で見た、そのバリエーションの多さにまずびっくりしたな。

奥澤:
防水性、保湿性があって、雪国の生活に欠かせないアウトドアグッズだったわけだよね。ひと冬に何足も履き替えるような消耗品だったから、あまり残っていないらしいけど、今見てもファッショナブルなデザイン!

荻野:
まさに、GREENable HIRUZEN(真庭市と阪急百貨店が取り組む”誰もがサステナブルの価値を身近に体感できる”観光文化発信拠点施設)のショップで、ファッションとして再編集され、販売されていて、工芸品のこういうアーカイブって魅力的だなと思った。

奥澤:
はい、そして私は「今年分のがまで作られた最後の一品」という言葉に撃ち抜かれてしまい、即決でバッグを買い求めてしまいました(笑)聞けば20年以上使っていると飴色に変化していくとのことで、当時は消耗品でも今の使い方に合わせれば一生楽しめるモノになるんだなと。

荻野:
ファッションやプロダクトの作り手であれば、がまで作られた、雪ぐつや背負いかごなんかも、機能性やデザインが、デザインやインスピレーションに繋がるような気がするので、そういう出会いを作っていきたいなぁ。

左)博物館に展示されたがま細工などの民具
右)企画メンバーがGREENable HIRUZENで購入し使い始めたがま細工のバッグ

がま細工
蒜山地方に古くから自生する「がま」を、「ヤマカゲ(しなの木)」の皮のひもで編んで作った生活用具。「がま」は防水性に富み、雨・雪を防ぐのにすぐれていることから、雪ぐつなど、雪国に欠かせない様々な製品が作られてきました。現在、がまが育つ湿地帯の再生、育成・採集、技術の継承に取り組む方達により、希少ながま細工が生産されています。

短い夏を楽しみ尽くす、無形文化財「大宮踊(おおみやおどり)」

奥澤:
冬があれば反対の夏はどうか。このフィールドワークは8月に行ったので、私たちがたまたま遭遇することができたのが「大宮踊」ですね!

本間:
お盆の時期はほぼ毎日、蒜山の神社やお寺で開かれているのが驚きだけど、私たちはその中でもハイライトとなる福田神社での様子を見ることができたのは本当に貴重でしたね。

荻野:
短い夏を楽しみ尽くすぞ、という、この地域ならではの共通価値観みたいなものが現れていたよね。しばらく前から公民館で練習をしていたり、天井に吊るされていた灯篭に飾る「シリゲ」(独特の切り絵)が学校の課題になっていたり、子どもの頃から体を使って、この文化に深く接しているというのが凄いと思った。こうやって継承されていくんだな、と。

奥澤:
独特のゆるいリズムの唄や足をふみ鳴らす音、風になびくシリゲの幻想的な感じ、踊りに加わらなくても不思議な夢の中の情景を見ているようだった。例えば、本当は旅行などでもこういった深い地域性に触れる体験ができると面白いよね。

大宮踊
毎年お盆の時期に踊られる、蒜山地方に古くから伝わる盆踊り。蒜山各地の神社やお寺、辻堂などを日替わりで回って踊られます。輪の中心に灯される大灯篭には“シリゲ”と呼ばれる切り絵細工が吊るされ、踊りの雰囲気を演出。その音頭の歌詞が何のことやら意味不明の文句があったり、踊りのテンポが非常にゆるく、むしろ舞に近い手の込んだ踊り方であることなどから、よほど古くから踊り伝えられたものだろうといわれています。

蒜山の文化全てに繋がっている「山焼き」
そこにある特別な「草原」とは?

奥澤:
最後は(本当はもっと紹介したいのですが・・・)、蒜山の全てに繋がっていると言っても過言ではない、「山焼き」と「草原」でしょうか。

荻野:
ですね、これは蒜山を語る上では欠かせないと思います。ジャージー牛の牧場としての印象も強い地域ですが、実はそれとは全く違う「草原」がある。蒜山地域で環境保全と利用に取り組む「蒜山自然再生協議会」の千布さんにアテンドしてもらったことですごく理解が進みましたね。

本間:
1年に一度の山焼きによって、一帯を焼き、灰が肥料となって作物や植物が育つ、そういう循環を繰り返してできた草原なんだよね。そこにしかない生態系があって、絶滅危惧種もたくさん含む貴重な動物や植物が自生している、そう思うと、ものすごく長い時間の中にいるような気がして、モノを見る尺度が変わってくる気がする。

荻野:
山焼きによって、最初に話した「郷原漆器」が生まれたり、この草原での農作業で「がま細工」が活躍していたり、蒜山の様々な文化に繋がっているんだよね。この行事を、山焼きが必要なくなった現代社会の中でも、自然環境の保全とか、蒜山にしかない景観づくりとか、いろんな側面から、山焼きの文化を残そうという活動が情熱を持って続けられているのがすごいこと。春の、山全体が焼ける光景は圧巻だろうなぁ!

山焼き
蒜山地域では、800年ほど前から「山焼き」が行われてきました。火を入れることでキキョウやサクラソウの群落、様々な希少種をはじめ、多様な動植物が生息する草原が保たれるだけでなく、山焼きが続けられることで美しい自然景観が維持されてきました。
茅葺き屋根の材料に使うススキなど、かつて人々は草原から生活に必要な資源を得ていましたが、生活環境の変化などから、山焼きが行われる面積はだんだん減少。草原でしか生息できない生物の環境を維持するため、ボランティア団体である「山焼き隊」による活動によって維持されてきた山焼きを、現在は「蒜山自然再生協議会」を中心にアクティビティとして活動が続けられています。

蒜山の資源に出会いにいこう。
ひるぜんアクションツーリズムを開催します。

蒜山に秘められた資源のごく一部を企画メンバーの視点でご紹介してきました。
まとめとして、2つの視点があるように思います。
1)時代の中で必要に迫られ、人の営みを守るために様々な創意工夫が続けられてきたこと
2)新しいものを受け止める民族性・地域性によって、必然的な機能や仕事や行事だったことがアップデートされ、確かな文化や活動になっていること

これらの観点は、「不確実性な社会の中で何かを生み出していく」これからのクリエイティビティやビジネスの大きなヒントになるのではないか、そう考えています。

今回企画する、「ひるぜんアクションツーリズム」では、こんな特性を持つ蒜山エリアで、自分なりのやり方で資源を発見、捉え直し、何かを生み出そうとする人、豊かなアイデアで蒜山の資源を料理してみたいと思える人を全国から募集しています。まずは、「自分の活動のタネになるかもしれない」そんな気持ちでエントリーください!

Hiruzen Action Tourismの詳細・エントリーはこちら!

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