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「名言との対話」3月5日。綿貫礼子「女は自分の生涯だけで結着しない」

綿貫 礼子(わたぬき れいこ、1928年3月5日 - 2012年1月30日)は、科学ライター、エコロジスト。

東京薬科大学卒業。東京医科歯科大学医学部生化学科などで生化学分野の研究した。専門は環境学、平和研究、エコロジー。「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク代表。反環境汚染、反原発運動を行った。日本の女性サイエンス・ライターの草分けである。

著書、共著、翻訳も多い。著書は『生命系の危機』『胎児からの黙示』『大地は死んだ ヒロシマ・ナガサキからチェルノブイリまで』。共著は『ダイオキシン汚染のすべて』『毒物ダイオキシン』『廃炉に向けて 女性にとって原発とは何か』。『誕生前の死 小児ガンを追う女たちの目』『地球環境と安全保障』『リプロダクティブ・ヘルスと環境 共に生きる世界へ』『環境ホルモンとは何か 日本列島の汚染をつかむ 2』『環境ホルモンとは何か リプロダティブ・ヘルスの視点から 1』『未来世代への「戦争」が始まっている ミナマタ・ベトナム・チェルノブイリ』『放射能汚染が未来世代に及ぼすもの 「科学」を問い、脱原発の思想を紡ぐ 女性の視点によるチェルノブイリ25年研究』。翻訳はマシュー・マクルア編『原子力裁判』クリストファー・ノーウッド『胎児からの警告 危機に立つ生命環境』マイケル・ブラウン『荒れる大地 死をよぶ有毒廃棄物』『生物化学戦争 悪夢のシナリオ』。ジョアン・ロスチャイルド編『女性vsテクノロジー』。

綿貫礼子編『廃炉に向けて 女性にとって廃炉とは何か』(新評論社)を読んだ。

1986年のソ連チェルノブイリ原発事故をきっかけに、原発と女性をキーワードとして結び合わせながら「いのち」を主題にまとめた本である。放射能はユーラシア大陸を越えて拡散したたため、フィンランドの女性たちは「子どもを生まない」という決意を表明している。綿貫は「女のからだを通じて、その「負荷」を将来世代に伝達し、遺伝子への介入といった事故も起こりえる」といい、そして「女は自分の生涯だけで結着しない」という。セシウムは卵巣にたまり濃縮され、胎盤を通じて胎児に移行する。若い女性優先で移行するからだ。

綿貫が亡くなったとき、上野千鶴子が熊本日日新聞に追悼文を書いている。「綿貫さんをチェルノブイリへ向かわせたのは、水俣の経験だった」。綿貫は胎児性水俣病患者と出会い胎内汚染へと目を向け、チェルノブイリ事故では現地へ飛び、「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワークの代表を務めた。綿貫は化学物質と放射能汚染のおどろくべき類似性を見た。とりわけ胎内環境への長期にわたる影響である。女性の生殖健康(リプロダクティブ・ヘルス)へ一貫して関心を持った。

IAEA(国際原子力機関)を中心とした国際的な原子力管理のしくみを「国際原子力ムラ」と呼び、「低線量被爆」の効果を小さく見積もらせるIAEAの放射線健康影響評価を信じるな」と綿貫は語っている。そして上野は「ミナマタは終わらない。チェルノブイリは続いている。そしてフクシマは始まったばかりだ」という。これは名言だ。

「女は自分の生涯だけで結着しない」とは生命の連続の中で自分をとらえている名言だ。一人の女性の生涯は、そのからだを通じて次世代、次次世代へと連綿と続いていく。綿貫礼子は『廃炉に向けて』では、鶴見和子、竹中千春、高木仁三郎らとも語り会っている。上野千鶴子も含め、その後の原発をめぐる思想、放射性汚染とのたたかいの運動に強い影響を与えている。次代、次世代に影響を与え続ける人となっている。綿貫礼子は生き続けている。

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