【短編小説】ヤクルトさん
夜中、眠れないことがある。若い頃はよくコンビニへ雑誌の立ち読みに行ったものだけど、最近はコンビニに雑誌が置いてないので目的もなく行くことができなくなった。
深夜営業のファミレスに行ってドリンクバーを頼んでみたけれど、特に何かが飲みたかったわけでもなくしっくりこない、どうしたものか。
そんな話を後輩にした。後輩は今でも大学の研究室に残っていてアルバイトでコンビニの深夜勤をしている。
「たしかに雑誌の棚が減ってから、夜中に暇つぶし目的みたいなお客さんは減りましたね。イートインのある店舗はそういう人が増えているなんて話も聞きますけど、夜中にイートイン開けているところは多くないですよね。」
やはり減っているのか。ではそういう人はどこに行っているのだろうか。
「今でも夜中にやってきて店内ぐるっと一周して帰る人はいますよ。飲料やお菓子の棚を念入りに15分くらいかけてチェックして。だいたい同じ人なので習慣で来ているのかも知れません。」
雑誌の代わりに商品をチェックする人がいるのか。それはそれでアリなのかも知れない。そういうお客さんは迷惑じゃないのか。
「商品を散らかしたり迷惑かけるわけじゃないですし、何となく空気を読んでいるのは分かるので平気ですよ。先輩もやったらどうですか?コンビ二のカップラーメン、昔好きでよくチェックしてたじゃないですか。」
学生の頃、カップラーメンのチェックを良くしていた。新作が出ると必ず一度は買っていた。今はあまり食べなくなったけど、それなら夜中にコンビニへ行く理由になるかも知れない。
「いつもの人だって分かってもらうために同じ格好で行くとかすると良いですよ。あまり警戒されなくなります。そうだ、まだヤクルトスワローズのキャップ持ってます?」
昔、研究室のメンバーで神宮球場のナイターに行ってノリで買ったヤクルトのキャップ、今も玄関に置いたままだった。後輩はよく覚えている。たしかに毎回アレを被っていればいつもの人だと思ってもらえそうだ。
ありがとう、今度試してみるよ。
「このあたりのコンビニに夜中よくカップラーメン棚に出没するって噂のヤクルトさん、知ってます?」
同じ深夜勤に入ることが多い大学生の子が、さっき届いた朝刊をレジ前に出しながら話しかけてきた。
ヤクルトさんって言うんですか?ヘルプに行った先の店でそういう人が来るって聞いたことがあります。なんでもカップラーメンのブログやってるなんて話でしたけど。
「実はあれ、僕の先輩なんですよ。」
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