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コミュニケーション力を鍛える

日本ではよく「コミュ力」と言われる、コミュニケーション能力。学術研究の場では、口頭、記述に関わらず、とても大事な能力です。自分が理解・発見したことを相手に伝え、納得してもらう事ができなければ、研究に貢献したとはみなされませんし、単位取得に必要なレベルの理解度に達した事を、教員に伝えて評価してもらうことだってできませんね。

以前、このnoteに投稿した「異文化社会でのコミュニケーション」という記事で、英語圏でのコミュニケーションは「ローコンテクスト文化」が基盤にあるという事を書きました。

「ローコンテクスト」社会では、できるだけストレートに言うことが基本で、曖昧な表現を避けます。これはアジア圏の「ハイコンテクスト」社会から来た人にはきつい物言いに聞こえることもありますが、誤解をできるだけ避けるという点においては、はっきりと伝えることの方が重要であり、そこに悪意がないということは大前提です。

異文化社会では、こうした相手のバックグラウンドが多様であるということがデフォルトなので、「よりわかりやすく伝えるにはどうすれば良いか」という事を自然に最優先して、コミュニケーションを行う場面が多いです。ですから、大学ではこうした事を皆意識して、会話を交わしたり、書いたりしています。

しかし、それ以前に、そもそもの「伝えるスキル」がなければ、良いコミュニケーションを行うことはできません。今年話題になった本、石井光太さんの「ルポ 誰が国語力を殺すのか」を私も興味深く読みました。

本のレビューには色々と意見がありますが、私が自分の経験から本の内容について賛成する点は、「自分の言葉で言いたいことを説明できる力」は、普段の生活の中で、起きている物事について、思考、理解し、それを他者に伝える機会がどの程度あるか、そして伝えたことに対して、相応のリアクションや、フィードバック(同程度かそれ以上の質と量のもの)が返ってくるというキャッチボールがなされているか、がコミュニケーション能力の高さ、低さと繋がっている、という事です。これは学生を見ていたら、すぐに分かります。もちろん、普段の読書量も関係することはあると思います。ただ、学生を見ていると、読書よりも、普段プライベートの時間に家族や友人と、ある程度まとまった会話のキャッチボールができているかの方が、大きいと思います。今の学生は、子供の頃からスマートフォンがあることが当たり前の環境で育っていますから、短いチャットは瞬時にできますし、ゲームだってやります。そこでのコミュニケーションでは省略語や絵文字が中心に使われることが普通だと思います。

ただ、チャットやゲームをたくさんしている学生でも、そこで使われている省略語を使わず、きちんと自分の考えを丁寧に説明できる子はたくさんいます。逆に、分厚い本を肌身離さず持っている学生(珍しいですが!)が、自分の言いたい事がうまく言えないことだってあります(これに関わらず読書は人間として生きていくスキルを身につけるという点において大事ですので、読書習慣がまだついていない人は、是非読書を習慣にしてください!)

私の個人的な印象ですが、オーストラリアの子供たちは、家庭で政治や学校で起こったことなど、「議論」する事が多いです。家族や兄弟・姉妹と「自分はこう思う、理由は〇〇」などと、話し合う。親が言うことを聞いて終わり、というのではなく、必ずそこで自分の意見を言う事が期待されているし、本人も当たり前にそれができる。学校でもそうです。一方的に伝えて終わりではなく、相手の意見も聞いて、議論は続いていきます。意見が一致しなくても、それは「異文化社会」ですから、むしろ当たり前のことです。むしろ、いつも同意していると、「あなたの意見はないの?」「この人は考えていないのかな?」と思われてしまうことだってあります。

オーストラリアの子供たちは、子供の時からこれを延々とやっていますから、大学に入るまでには、人前で自分の意見とその元になる思考を説明できるようになっている学生がほとんどです。大学1年生の最初の学期から、意見発表の場を意図的に組み入れていますが、何も言えない学生はいません。(ただ、学生によって差はあります。それは主にこうした経験の「量」によるものです。)こうした場面に慣れていない留学生は、この意見発表や議論の場をみて尻込みしてしまう事があります。こうした留学生は、「親や目上の人に意見」を言う事が、文化的に、また習慣的に「してはいけない事」という環境で育ってきている人たちが大半ですし、我々教員もそれを理解しています。こうした留学生はオーストラリアの大学で学んでいくうちに、議論のスキルを身につけていきます。

コミュニケーション力は「スキル」です。鍛えれば身に付く事ができますので、教室でなかなか自分の意見が言えない、と悩んでいる学生さんは、是非勇気を出して、まずは短い言葉でも良いので伝えることから始めてください。手を挙げて発言するのは、慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、後から教員にメールで書いたり、友達にチャットで送っても良いのです。そして相手のリアクションによって、自分が言いたかった事がきちんと伝わったかをチェックしてください。相手に時間があれば、じかに聞いてみても良いでしょう。カフェの店員さんに「今日は寒いねー。早く暖かくなってほしい!」と言うだけでも構いません。相手は接客のプロですから、何か返してくれるはずです。もし混んでいなければ、あと、二言三言繋げて会話の、キャッチボールをしてください。とにかくどんどん自分の考えを言う場を広げていけば良いと思います。ここで、相手が自分のことをどう思うかなんてあまり考えないこと!自分が気にするほど相手は気にしていないものです。

コミュニケーション力は学術研究の場だけでなく、社会のあらゆる場面で役立つはずです。


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