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好きな歌に好きを言いたい

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好きな短歌の一首感想、一首鑑賞
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好きな歌に好きを言いたい 21/09/30

好きな歌に好きを言いたい 21/09/30


ギロチンがギロチンの子を産む夢のなかでわたしは助産婦だった
 大森静佳『ムッシュ・ド・パリ』

 短歌研究2021.8月号 水原紫苑責任編集「女性が作る短歌研究」より

 ネット上の炎上を見ていてると時に不安に襲われる。今まさに大バッシングを受けている人と、バッシングしている人と、それを「またか」と思い静観している自分と、それぞれの間に大きな違いはあるのだろうか、いや、ほとんど違わないのではない

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好きな歌に好きを言いたい 2021/3/24

好きな歌に好きを言いたい 2021/3/24

ほんたうに桃とおもへるうちはいい桃だから手にとつてごらんよ 
 平井弘『遣らず』

本当にそれは桃なのか、と問うような上句
桃だから手に取ってごらんよ、と囁く下句

 一読してちぐはぐなことがわかる。一首の中に違う主体が存在しているような、居心地の悪さがある。

 それでも妙に心に残り、もう一度読むと、本当に主体は別々なのだろうかと思えてきた。一首の中で、同一人物のなかにある人格がぶれている、そう

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好きな歌に好きを言いたい 2020/12/08

好きな歌に好きを言いたい 2020/12/08


腐食のことも慈雨に数へてあけぼのの寺院かをれる春の弱酸
 山尾悠子『角砂糖の日』

 山尾悠子さんの歌集「角砂糖の日」は、ずっと読みたくて、でも古本市場でとてつもなく高騰していて手が出ず、葉ね文庫さんで非売品を触らせてもらって「あ~読みたい」と恋い焦がれ、その後新装版が出てようやく入手した、ちょっと思い入れの強い一冊です。

 そうしてようやく読めた歌集なのですが、残念ながらわたしには難解で読み

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好きな歌に好きを言いたい【番外編:あみもの第三十一号より】 2020/08/06

 御殿山みなみさんが発行されている短歌連作サークル誌「あみもの」、こちらは固定メンバーなし、提出義務なし、誰でも三~十五首の短歌連作を投稿できる月一回のサークル誌です。

 今回は最新号「あみもの 第三十一号」から、気になった歌・連作をピックアップしてみたいと思います。Twitterで流したものの再掲なので、制限された文字数に納めるよう書いており、それゆえ言いっぱなしな感じになっていますがご容赦く

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好きな歌に好きを言いたい 2020/08/01

好きな歌に好きを言いたい 2020/08/01

ホッチキスで止めた傷口まもりつつ今年の夏の忙しいこと
 東直子『青卵』

 関東地方の長い梅雨がきょう、ようやく明けた。朝、寝そべったまま、窓から見える空が青いというのは何てうれしいことだろう。そしてこの歌がふわっと頭に浮かんだ。歌が現実に寄り添ってくれることってあるんだとまたうれしくなった。

 自分で短歌を詠み始める前から大好きな歌で、この歌を引用してショートショートを書いたこともある。けれど

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好きな歌に好きを言いたい 2020/07/23

好きな歌に好きを言いたい 2020/07/23

「傍観者」と指をささるることもなく生きてオリオンビールを選ぶ
 大口玲子『ザベリオ』

 この歌が一首目に置かれた章のタイトルが「辺野古崎」で、同じ歌集のもう少し後にも「基地」「座り込み」という単語が出てくることから、この歌が辺野古への基地移設のことを思って詠まれたことは確かだろう。

 けれど、もしそういった周辺情報がなくても「傍観者」「オリオンビール」という言葉の情報量から、沖縄に存在する複数

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好きな歌に好きを言いたい 2020/07/13

好きな歌に好きを言いたい 2020/07/13

遠雷よ あなたが人を赦すときよく使う文体を覚える
 服部真里子『行け広野へと』

 ひとを赦すのは難しい。けれど赦したほうが怒りを、そして執着を手放せる分、ずっと楽になれるように思う。そして手放せば楽になれることに気づくと、「赦すこと」と「諦めること」が突然近い意味を持つようになる。

 「あなたが人を赦すときよく使う文体」、「よく使う」というところから、赦すことが日常になってしまった「あなた」の

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好きな歌に好きを言いたい 2020/07/10

好きな歌に好きを言いたい 2020/07/10

冬に始まったから秋までを観たけどもういちど夏だけを観て、外へ
 千種創一『千夜曳獏』

 四季にまつわる何かを「観た」こと、「夏」を観たあとに外へ出たこと、情報としてはそれだけの、読み解く手がかりの少ない歌だ。この歌一首をぽん、と出されたら、うっかり「具体的なことばが欲しい」と言ってしまいそうだ。けれどおそらく、この歌からはその「具体的なことば」が意図的に排除されているような気がする。

 この歌

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好きな歌に好きを言いたい 始めに

好きな歌に好きを言いたい 始めに

 

 一読しただけでは意味を掴みきれない、掴むことができたか自信が持てない、それで何度も読み直すうちに、知らぬ間に心のうちに深く沈んで留まってしまった、そういう歌を記録しておきたい。そんな思いで一首鑑賞を始めます。

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「一読では意味が掴めない」タイプの短歌は、Twitterのタイムラインに流すには向いていないのかもしれない。パッとみて「わからない」と思われたら二度と読ん

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