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一人会社の経理塾(知っておくべき決算書知識)


(1)はじめに

近年のAI技術の進化に伴い、自動仕訳機能を持つ会計ソフトが登場し、経理業務が大きく効率化されつつあります。

しかし、このAI時代において、単にツールを使用するだけでなく、その背後にある基本的な知識や理解を持つことが、業務効率性獲得と適切な経営判断を下すための鍵となります。

そしてその中核をなすのが、「決算書理解」と言えます。

この記事では、一人会社や個人事業主向けに、損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の基本からその重要性、そして具体的な読み解き方を解説します。

また、確定申告をはじめとする経理実務の効率化を追求する上で、冗長な勘定項目を削減し、必要最低限の情報を示す「コンパクトな決算書」の作成方法についても触れます。このノウハウを身につけることで、経理業務の省エネ化はもちろん、その後の確定申告書作成業務の効率化も実現できるでしょう。

(2)決算書の全体像

日々の経理業務で日常取引の仕訳を行い、総勘定元帳や試算表を通じ、最終的に一年間の業績や財産の状況を、「決算書」に集約します。

「決算書」については、「計算書類」、「財務諸表」、「財務三表」、などと呼ばれることが多いですが、それらの言葉が意味する書類関係について以下でまず説明します。

【計算書類とは?】
会社法の対象となる会社の決算書であり、以下の総称。
①貸借対照表(B/S)
②損益計算書(P/L)
③株主資本等変動計算書(S/S)※1
④個別注記表
※1:Statements of Shareholders' Equity の略称

【財務諸表とは?】
金融商品取引法の対象となる会社(主に上場企業)の決算書であり、以下の総称。
①貸借対照表(B/S)
②損益計算書(P/L)
③株主資本等変動計算書(S/S)
④キャッシュフロー計算書(C/F)
⑤附属明細表

【財務三表とは?】
①貸借対照表(B/S)
②損益計算書(P/L)
③キャッシュフロー計算書(C/F)

これらの関係性を以下の通りまとめました。
通常の企業経営では、「決算書」というと、「損益計算書(P/L)」と「貸借対照表(B/S)」を指すことが多いと思います。
※3色の枠全てから囲まれているのも、「PL」と「B/S」ですね。

「決算書」の書類関係

以下では、主に、P/LとB/Sについて解説していきます。

(3)損益計算書(P/L)

P/Lとは、Profit&Loss Statementの略称で、企業の1年間の収益と費用(=経営成績)を示す経営レポートです。
売上高から様々な費用を引いた結果としての利益や損失が計算されます。
P/Lを読解することで、事業の収益性やどの部分でコストがかかっているのかなどを把握することができます。

P/Lの体系(全体像)

まずは、P/Lの体系を理解することが重要です。
以下のP/L主要項目の内容と共に、この体系図は暗記するまで必ず押さえておきましょう。

損益計算書(P/L)体系図

P/L主要指標

1. 売上総利益(粗利益)
売上総利益(粗利益)は、売上高から直接的な費用、すなわち売上原価を引いたものです。
売上原価とは、商品を販売するためにかかった直接的なコスト、例えば材料費などを指します。

2. 営業利益
営業利益は、売上総利益(粗利益)から営業活動に関連する費用(営業費用)を引いたものです。
厳密には「販売費(広告宣伝費など商品の販売活動にかかる費用)」と「一般管理費(家賃など販売とは直接関連のない一般管理業務にかかる費用)」に分かれますが、実務上は両者を区分して理解する必要はありません。
企業の本業の収益力を評価する際の指標です。

3. 経常利益
経常利益は、営業利益に営業外収益と営業外費用を加減したものです。
営業外収益とは、投資活動や金融活動からの収益など、主要な事業活動以外からの収益を指します(例:受取利息)。一方、営業外費用は、それらの活動からの費用(例:支払利息)を指します。
企業の本業以外も含む通常の業務活動を通じて得た利益指標です。

4. 税引前当期純利益
税引前当期純利益は、経常利益から特別利益や特別損失を加減したものです。特別利益や特別損失が発生する事例は少ないことから、経常利益と税引前当期純利益が同額となることも多いです。

5. 税引後当期純利益
税引後当期純利益は、税引前当期純利益から税金(法人税、住民税、事業税など)を引いた後の純利益を指します。つまり、実際に企業が1年間で得た、税金を差し引いた純粋な利益の額となります。

P/Lに係る主要仕訳

以下の記事をご覧ください。

(3)貸借対照表(B/S)

B/Sとは、Balance Sheetの略称。年度末での企業の資産、負債、および所有者の資本状態を示す財務レポートです。
B/Sを読解することで、事業の財務健全性や資金繰りの状態を明らかにすることができます。

B/Sの体系(全体像)

まずは、B/Sの体系を理解が重要です。
以下のB/S主要項目の内容と共に、この体系図は暗記するまで必ず押さえておきましょう。

貸借対照表(B/S)体系図

B/S主要指標

以下の通り、B/Sの主要指標の位置づけを理解しておきましょう。

1.資産
資産は、企業が所有する経済的な資源や価値を表します。以下の3つの項目に区分されます。
<資産内訳>
① 流動資産

流動資産とは、1年以内に現金化される見込みのある資産を指します。
例えば、現金、預金、売掛金、棚卸資産、短期貸付金などが該当します。
② 固定資産
固定資産は、1年以上継続して使用される資産で、事業活動基盤として長期間利用されるものを指します。
大きく、「有形固定資産」、「無形固定資産」、「投資その他の資産」に区分されます。
例えば、各々、以下のような項目が該当します。
・「有形固定資産」:土地、建物、機械、車両 など
・「無形固定資産」:ソフトウェア、商標権 など
・「投資その他の資産」:投資有価証券、関係会社株式、長期貸付金 など
③ 繰延資産
繰延資産は、既に支払いが済んでいる支出のうち、支出の効果が翌期以降も続くものを指します。例えば、創立費や開業費などが該当します。

2. 負債
負債は、企業が将来支払う義務や債務を表すものです。以下の2つの項目に区分されます。
<負債内訳>
① 流動負債
流動負債は、1年以内に支払う必要がある債務を指します。
例えば、買掛金、短期借入金、未払金などが該当します。
② 固定負債
固定負債は、1年以上の長期間で返済する必要がある債務を指します。
例えば、長期借入金などが該当します。

3. 純資産
純資産は、企業の純粋な価値を示すものです。
資産から負債を引いたものとして表され、以下の3つで構成されます。
<純資産内訳>
① 資本金
資本金は、会社設立時及びその後の増資時に株主が出資した資金を指します。
② 資本剰余金
資本剰余金は、出資金の一部を資本金ではなく資本剰余金へ計上した場合などで生じます。
③ 利益剰余金
利益剰余金は、過去の利益から配当などを差し引いた後の累積された利益部分を指します。通常、株主への配当原資はここから使用されます。

B/Sに係る主要仕訳

以下の記事をご覧ください。

(4)P/LとB/Sの関連性

「一年間で稼いだP/Lの税引後当期純利益は、B/Sの繰越利益剰余金へ計上される」ということを理解しておきましょう。

P/LとB/Sの関連性

(5)決算書(勘定科目)のコンパクト化

事業を始める際に効率的な事業運営を行うことは多くの経営者にとっての共通の目標であり、特に一人会社や個人事業主の場合、このテーマの重要性は増してきます。
この点を経理業務に置き換えると、いかに決算書をコンパクトにまとめ上げるかが、直接的な時間の節約や業務負荷の軽減に繋がります
すなわち、決算書をシンプルに保つことは、確定申告時の業務の省エネ化や、ビジネスの透明性を高める効果があるのです。
特に、株式投資や不動産投資会社のようなケースを除き、B/S(貸借対照表)の簡素化/圧縮は、少額資本で事業を行うことや、在庫の最小化といったアプローチを実現することができ、これは起業リスクを低減する効果も有します。

P/Lコンパクト化事例

例えば、上記P/L「②シンプルケース」では、在庫を保有しない、無借金経営、特別損益項目が生じないケースを想定しました。
一人会社ではこのようなケースも多く、上記の通り、シンプルなP/Lに仕上げることができます。
このケースでは、販管費項目の集計が経理業務の大半を占めますので、自動仕訳機能を使うことで、経理業務を効率化できます。

B/Sコンパクト化事例

例えば、上記B/S「③シンプルケース」では、固定資産や在庫を持たず、無借金経営で、繰延資産も償却済(費用計上済)のケースを想定しました。
一人会社ではこのようなケースも多く、上記の通り、シンプルなB/Sに仕上げることができます。

(6)おわりに

一人会社や個人事業主が直面する経営課題は多岐にわたりますが、決算書の理解とその効果的な管理は、事業の健全性を維持し、成長を目指す上での不可欠な要素と言えるでしょう。

本記事を通じて、決算書の基本やそのコンパクト化の意義、そして効率的な管理方法についての知見を深めることができたかと思います。

特に、一人会社や個人事業主が不確実な時代を生きる上では、決算書を通じて事業の実態を明らかにし継続的にモニタリングを行いながら、自身が強みとする領域へ経営リソースを最適化することが重要です。

経営は常に変化とともにあり、新しい課題や機会が次々と現れますが、基本を理解し、それを土台にして戦略的に取組むことで、多くのハードルを乗り越える力となることでしょう。

◉当記事の詳細は、以下をご確認ください。

◉「一人会社」に関する記事は以下をご確認ください。

◉「一人会社の経理塾」に関する記事は以下をご確認ください。

<導入編>

<知っておくべき経理知識>

<決算・節税対策>

<税理士選定ガイド>


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