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何者かでありたい私たちは

『株式会社マイナビ(旧:毎日コミュニケーションズ)新卒採用事業部 営業第3部第1課 営業 庄司仁美』

ちょうど今から11年前の桜が満開の今頃、まだ就活用のスーツをきて初出勤を果たした私は、そう書かれた名刺を渡されて涙が出るほど嬉しかったのを覚えている。(その時はまだ旧姓)今となっては当時の名刺はもう手元にはないけれど、私はそこで約2年間、本当にたくさんの大好きな仲間に囲まれて働いた。

ちょうど新就職氷河期と呼ばれるときに就活をしていた私は、大体30社くらい(書類だけを入れたらその倍はあったのかもしれない)は悠に落ちていたように記憶している。周りの友達も内定をもらい始め、焦りも出ながら朝から晩まで就活をしていた。就活においての合格・不合格は、その会社との相性が合うか合わないかというだけの話であって、=自分の価値がないという理解は全くのお門違いな話なわけだけれど、例に漏れず私もそのように自分の価値をものすごく下げてしまっていたうちの1人である。

就職活動においてものすごく自己肯定感が下がった私が最終的には無事内定をもらい、その会社の一員になれたという事実、そしてそれはつまりうちの看板を背負っても大丈夫な人間だと認めてもらえたということ、それを名刺が私に教えてくれたように感じ当時は本当に本当に嬉しかったのだ。

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会社を辞めた後も、ヘアメイクアップアーティスト、美容家、美容コンサルタント、インナービューティーアドバイザー、エステティシャン、ラインアナリスト、カラーアナリスト、ライフスタイルデザイナー、クリエイティブディレクター、プロデューサー・・・。

会社を辞めた後の私は美容業界に転職し、そこから美容に限らずあらゆるお仕事をさせていただく中で、たくさんの肩書きを持ってきた。こうしてさらっと書けるような、簡単な道のりではもちろんなかったけれども。

さまざまな「私」をやってきた中で、1番最初私に涙が出るほどの嬉しさを与えた肩書きというものは、気がつくとだんだん私の首を絞めるようになっていった。

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違和感を覚えるのは、私の名前より私の肩書きが先行して認識されるようになっていくときだ。今の私は和田さーん!ひとみーん!と呼ばれることが通常だが、そういう時は決まって「メイクさーん!」「マイナビさんは〜」「担当の和田さん」と、肩書きありきの対応をされていることに気付く。夫と仕事することも多々あるので、現場で「奥さん」と呼ばれることでも少し眉がピクリとしてしまう。

相手に一切の悪気がないことも承知の上だ。むしろその肩書きを名乗った最初の時期は、そう呼ばれることで認めてもらえたように感じられてむしろ嬉しさいっぱいなのも事実。

ただ時間が経つにつれ、私はとても窮屈になっていく。マイナビという名を背負う以上、マイナビに不利になることは思っていても口にしてはいけないし、ヘアメイクとして行く現場では、ゆるゆるマイペースな素の私ではなく、現場への気配りができる気がきくヘアメイクの私でいなければいけない(逆に気づいても言ってはいけないときもある)。コンサルとして教育する現場では、全ての社員に神経を張り詰めてるため一瞬の気も抜けないし、美容家でいる以上、私がまず輝くほどの美しさを醸し出していないといけない。こうして、「◯◯なんだから〜しなければ」にいつも縛られていた。


肩書きがあることで、相手が私に何を求めているのかがむしろわかりやすくなるということもメリットではあるし、何を提供すればいいかが明確なのは仕事をする上ではとても楽なのかもしれない。そしてそれが仕事だと言われればそれもそうなのかもしれない。しかし、私はそれがすごく苦しかった。いつも苦しくなっては次の肩書きへ移り、またそれに縛られて苦しくなっては次の肩書きを考える。

朝井リョウ著の『何者』という就活を題材とした本があるが(映画にもなっている)、私はこの繰り返しの中で、何者でもない自分には価値がないという大前提で「何者かである自分」に、ただ自分で安心したかっただけなのかもしれない。

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同時に、肩書きを付けては手放すということを繰り返しに繰り返した結果、都度苦しくはなったものの、その分ものすごい量の経験をきっとさせてもらってきたのは今ではとても財産になっている。その多くの肩書きたちは、重なりに重なって私の人生の地表となり、今では大きな土台となって私を支えてくれている。

今の私は、何者でもない。と自分では思っている。そして逆に、何者でもあり、何者にもなれるとも思っている。ただ単に、何者でもいい。それだけだ。

以前に比べると、かなり柔軟に「私」という価値を捉えられるようになった。今までは、肩書きに私が縛られていると思って苦しんでいたが、肩書きは別に私を縛っていたわけではない。勝手に私が肩書きを悪者にして縛られにいってただけだったことにも、ここにきてやっと気付くことができたように思う。

ああ、恥ずかしい。

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