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僕、大きくなったら食べてみる。

自分が食べられるもののリストを書いてみてください。
食べられないものではなく食べられるものです。
書き出せますか?
毎日、食べているものすべて。
どれくらいの量になりますか?

好きなもの
美味しいもの
嫌いなもの
苦手なもの
不味いもの
甘い
辛い
酸っぱい
しょっぱい
いろんな食べ物が世の中にはあって
それを当たり前のように食べている。
食べると言うのは
生きていく上で当たり前の行為。
そして
社会で生きていくうえで
いろいろと厄介な行為でもある。
と、わたしは思う。

座って食べなければいけない。
テーブルマナーがある。
ただ、お腹が空いたからと
食べたいものを食べたいときに食べるということも好き勝手にはできない。
いつの間にか決まっている3食のルールにのって
できればみんなで揃って食べる。
箸やスプーン、フォークなどを使って静かに食べる。

食事にはそんなルールがつきまとう。

わたしもそれを当たり前として
息子にも伝えていこうとした。
食べると言うことがこんなに大変なことなんだとは思いもよらなかった。

彼は食べられない。
食べられるものが極端に少ない。

離乳食のときからだった。
どうしても食べない。
相談した。
長い目で見ましょうと。
やれることもやった。
保健師さんは
「お母さん、頑張ってるね。食育としては申し分ないよ。」と声をかけてもらった。
けれどどれもダメ。
食べられるものを探す毎日。

私の夢。
息子とファミレスでお子さまランチなんかを食べる。
ラーメン屋さんでラーメンを食べる。
食べ放題で楽しむ。
旅行に行って美味しいものを食べる。
どれもできない。
なぜなら彼は食べられるものが少ないから。

みんなで美味しく食べればと思い
給食のある幼稚園に望みをかけた。
彼も給食を楽しみにしていた。
誰もが食べられるかもと期待をしていた。

けれど、彼は泣いてしまった。
食べられなかった。
とてもショックだっただろう。
そして、家でも食べられなくなった。

入園という大きな環境の変化もあり、
風邪を引き、熱を出し
食事ができなくなり登園拒否。

どうにも万策尽きて、
小児科の先生へ相談。
過敏なところがあるからと専門医へ
そして
自閉スペクトラム症の傾向が強いですねと言われた。

わたしはほっとした。
彼の苦しんでることが少しはこれで分かるから。

彼は口のなかがとりわけ敏感。
白米でも炊きたてしか口にできない。
温度が変わると味が、食感が変わるらしい。
厄介なことに白米なら何でもいいかと言えば違う。
特定の銘柄しか食べられない。
さらに本人からの申告によると食べ物が臭いのだ。
そう、匂いにも敏感なのだ。

給食は食べなければいけない。
と言うようなことを伝えていたのもプレッシャーだったのだろう。

結論としては待つしかない。
彼が食べられると口にするのを…
いつになるのかは
わからない。

彼は毎日、幼稚園に
食べられるパンを持っていく。
とてももったいないことだけれど
食べられるかもしれないことを期待して
給食も継続している。
賛否両論どころか否の方が多いだろう。
甘やかしもいいところなんだろう。

けれど、否を受けるべきは彼ではない。
親であるわたしだ。
食べられるものがなければ
お腹が空いてどうしようもなくなるまで何もあげなければよかったのかもしれない。
かたくなに口をあけない息子の口に
流し込めばよかったのかもしれない。
食べなくても座らせて
自分で食べさせればよかったのかもしれない。
わたしはどれも別な選択をした。
わたしなりに考えて出した結果だ。
否ならわたしが受ける。

幸い、彼は人並みに成長している。
手掴みで食べられるものを毎日、
せっせと口にしている。

食べ方からマナーからすべて間違ってる。
いや、恥ずかしい。
でも、わたしは待つことにした。
この先、彼はきっと苦労する。
辛くて苦しくて。
泣くこともあるだろう。
でも、気づいてくれると思う。
彼のなかではきっと諦めなのだろう。
生きていくための行為でしかなくなるのかもしれない。

かつてわたしは
食べては吐いてを繰り返していたときがある。
食べられないと言うこともあった。
でも、いつの頃からか
諦めてしまった。
食べなければ生きてはいけないから。
わたしは食べないということを諦めた。
状況は違うけれど
いつか彼も食べないということを諦めるときがくるんだろう。

悲しい未来なのかもしれない。

わたしがかけられる時間をかけて
少しづづ、彼に伝えていかなければいけない。
食事のこと。
座る。箸を使う。待つ。飲む。食べる。生きる。
笑顔で過ごしてはいられないこともあるだろう。
やってることの大半は非難を受けてしかるべきな気もする。
でも、いつかくる日に希望を託して待つしかない。

食べられるものがなければ
食べられるものを自分で作ればいい。
そう言い聞かせて
わたしは彼の偏食に付き合う。

先日、テレビでクロサイの話をしていた。
非常に原始的な生き物で、目が悪い。
その分、鼻がいいから匂いで好きな草だけ選んで食べる。

彼はもしかしたら原始的な感覚が強いのかもしれない。
専門書読んだところでわたしの知識や経験はたかが知れている。
本当に彼を理解することはできない。
けれど少しでも近づけたらと思う。

人間みたいにいろんなもを食べてしまう雑食な生き物ってどれくらいいるんだろう?
逆に決まったものしか食べない生き物もどれくらいいるんだろう?
どちらもその時を懸命に生きては食べている。
そう、みんな自分の特性にあわせて食べている。

時々、彼は一定のものを繰り返し食べる。
こちらからすれば
そんなんで栄養がとれてるのかと気になる。
けれど、
一週間で食べたものをピックアップしてみるとなかなかバランスがとれていたりする。
満たされているわけではないけれど
ギリギリのところでうまくできていたりする。

新しい食のスタイルなのかもしれない。
必要なものは体が知っている。
そんなことを教えてくれる。

自分の食生活が完璧ではないので時々、
彼のように口の感覚に正直に食べてみようとも思う。
わたしは食べられるものはそこそこあるけれど
美味しいと思うものはそんなにないかもしれないとも思う。
口の中はいろんな刺激で溢れている。

口の中が敏感なのは辛いだろうと思う。
時々、口の中が真っ赤になっている。
口内炎を作っている。
舌に歯形がいっぱいついている。
どれもこれも口のなかでうまくいろんなことを処理できていないせいなんだろうと思う。
少しづづ、刺激に慣れて
いや、諦めて、食べる決断をしてくれるようになってほしい。
なんと残酷な望みなんだろう。

社会が進んで、
食べられなくても
生きていけるような、
それだけで
栄養を網羅できるような何かができて
それが当たり前になって
彼がそれを受け付けることができたら
きっと彼の世界は少しは楽しくなるんだろう。

同じものを食べると言う安心感。
それを認めてあげることしか今はできないけれど
そこから食べることが楽しいと
もっと食べてみたいと思ってくれるよう何かと声をかける。

これはどう?おいしそうよ。
食べてくれたらお母さんもうれしいな。
これは栄養いっぱいだから大きくなれるよ。

そんな日々の中で時折、
まったく食べたことのないものを食べてみようとする。
口に入れておいしいと食べるか
飲み込めず出してしまうか
ハラハラしながら見守る。
そうか、彼はまだ諦めてはいないんだと思う。
彼の挑戦と戦いだ。
まだ、幼いのに本当に頑張っている。

たまたま彼には今の社会で食べられるものが少なかっただけ。
食べることを拒否しているわけではない。
だから
彼はきちんと「いただきます。」「ごちそうさまでした。」が言える。
今はそこをたくさん認めていこうと思う。

食卓にいろんな料理が並ぶと
いろんな匂いがして鼻が悲鳴をあげるらしい。
一つのお皿にいろんなおかずが載っているともう食べられなくなってしまう。味が混ざると気持ち悪くなってしまうらしい。
せっせと作っても甲斐がない。

それでも時々彼は
みんなと食べると美味しいねと言う。
そしてよく、
食べ物を勧めると
大人になったら食べられるよ。
大きくなったら食べてみたい。
そんなことを言う。
彼の希望だ。そしてわたしの希望だ。

彼のタイミングできっといつの日か
食べられるものが増えるのだろう。

いつか大きくなった彼と笑いながら食事をする。

わたしの目標だ。


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