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「スタートアップのための取締役会資料の作成の秘訣」

HIRAC FUND キャピタリストの檜山です。
起業家・経営者の皆さまに向けて、ファイナンスリサーチ、海外の有益な記事などを取り上げて情報発信させていただきます。

今回は「取締役会資料の作成」についてです。
多くの場合、シードやシリーズAの会社では取締役会議を本格的に始めることはないと言えます。しかし、資金調達を進めるベンチャー企業にとって、次回投資ラウンドや社外取締役が任命されるタイミングで取締役会を執り行う必要性は必ず生じるといえるでしょう。

特にアーリーステージのベンチャー企業においては、 効率良く且つ効果的な取締役会を執り行うために、取締役会資料の構成について一度整理しておくことは非常に大切なプロセスになるといえるでしょう。経営者の皆さまが効果的に現状の課題や助力を必要とする論点を取締役に伝える一助となるはずです。逆に、効率よく資料を作成し論点を整理できていないと、取締役から適切なアドバイスを受けづらくなり、準備に余計に時間を費やすだけになり、双方がアンハッピーな結末になるかもしれません。

取締役会の目的を整理すると、社員よりも圧倒的にその事業に時間を費やしていないが、経営や各分野において「経験が豊富な人間から適切なアドバイスを引き出す場」と考えることができます。社外取締役などで社長以外が任命した役員も基本的にはその事業がより利益を生み出すことを望んでいると思います。取締役それぞれの目的はあるものの、取締役会全体の目的としては日々事業を推進している経営陣と、第三者的視点から様々な知見を提供できる役員がコミュニケーションをすることと整理ができます。どんなに熱意のある取締役でも、日々現場で事業を推進している経営者と事業の内情について全てを汲み取ることは難しいでしょう。こうした認識のすり合わせをしつつ、事業の現状の課題とゴールを有効的に伝え、それに対する適切なアドバイスを効果的に引き出していくことが取締役会のゴールなのではないでしょうか。

では取締役と効果的なコミュニケーションを取るために、どういったアクションが必要でしょうか。最も有効的な手段の一つがプレゼン資料の構成を整理することだと私は考えています。あくまで大枠の一例ですが、下記のような流れで資料構成を整理すると「聞く側」の取締役にとって理解がしやすい資料となり、また一定程度、資料構成を体系化することで取締役会に対する準備も効率化できるのではないでしょうか。

◆前回取締役会からのアップデート概要
◆事業の現状説明
◆事業展望の説明
◆現状課題・直近ゴールについて深堀りするディスカッションベースのセッション
◆必要であればSOなどの承認手続き等

特に4点目の現状課題や各ビジネスゴールを整理しておくことは非常に重要になると考えています。ここでワーキングセッションのような形でスライドを用意しておくと、取締役との潤滑なコミュニケーションをより促進することができるといえます。

また、2点目の事業の現状説明については、現時点の課題を整理する上で、経営者の皆さまが一歩引いたところから現状を客観視する良い機会を創出できると考えられます。また、この部分が準備段階で最も時間を短縮できるパートともいえます。ここで下記のような論点をチャート化しておくことで、初期的なチャート作成にもそこまで時間がかからず、毎回の取締役会時のアップデートにもそこまでの労力を割かずに事業の現状を効果的に伝えられるのではないでしょうか。

◆四半期財務サマリ
◆月次売上高・経常利益実績vs売上・経常利益予想
◆例:月次営業実績vs営業パイプラインのリード候補
◆例:アクティブユーザー数推移vs解約率
◆例:アプリ・ソフトダウンロード数推移

上記のような取締役会資料の構成について、各VCのテンプレートを参考にして成功をしているベンチャー企業は多く存在しています。実際に、米国最大手VCの1社であるSequoia Capitalがシード期から伴走したDropboxは、同VCが公開している下記の基本的なフォーマットを初期から使用しており、上場会社となった今も使っています。

◆Big Picture: 15 minutesー概要説明:15分
● CEOからの概要アップデート
● 直近の取締役会からのハイライト(ポジティブなアップデート)
● 直近取締役会からの課題
● 現状、サポートが要る分野(例えば採用、顧客、パートナーリング、製品、マーケティング)

◆Calibration: 45 minutes to 60 minutesー事業の現状:45分から60分
ここが“Tell Your Story”「自社のストーリー(現状)を伝える」パートになります。チャートを次々と足していくだけであれば非常に簡単ですが、役員に伝えるために正しいメトリック/チャートを的確に会社の現状に当てはめる作業は一気に難易度が上がります。ここでチャートが分かりづらいものだと、役員に適切なアドバイスを受けづらくなってしまうかもしれません。下記にご参考になりそうなグラフ軸を記載しました。
● 四半期ごとの財務パフォーマンスと更新後の業績予想
● マーケティング実績vsリード/見込みターゲット
● 売上高実績vs予想
● プロダクトエンゲージメントテーブル(サイン数、ダウンロード数、起動率、エンゲージメント、保持率)
● プロダクトローンチ・販売
● 顧客体験の質:どの会社も顧客体験クオリティを図る術は持つべきです。(NPSがよく使われますが、よく間違った理解をされます。背景・文脈を考慮して使用するべきです。)
上記のどれも最初に作成するのも難しくなく、アップデートも簡単なはずです。

◆Company Building: 30 minutesー会社の事業展望:30分
● 組織予想図:現在と6か月後のチームとポジションのチャート
● プロダクト・ロードマップ:前回取締役会からの主なローンチと達成事項、またそのプロダクトの達成目的
● 技術・工学面でのアップデート:前回取締役会からの主なローンチと達成事項、一次的な課題とサポートを必要とする分野
● グロース・チームアップデート:急成長チームのKPIに対する全社パフォーマンス
● マーケティングアップデート:ポジショニング実行、ブランディング、メッセージング、PR
● ビジネスデベロップメント:営業候補・連携したい会社トップ10
オペレーション(必要であれば):KPIに対するパフォーマンス、一次的な課題とサポートを必要とする分野.
● 売上、バーン、キャッシュ残高、従業員数の月次ウォーターフォール

◆Working Session: 30 minutes per topicーワーキングセッション:トピック毎に30分間
● トピック1:機能分野の深い掘り下げ、大きなパートナーシップの掘り下げ、ビジネス課題の掘り下げ
● トピック2:四半期毎の会社のゴール、プロダクトの課題

◆Closed Session: 15 minutesークロージング:15分間
社長へのフィードバック、正規手続き、ストックオプションの承認など

出典:”Preparing a Board Deck”, Sequoia Capital, https://www.sequoiacap.com/article/preparing-a-board-deck/?fbclid=IwAR34hr0mpO_xUoXoocpK3crCuMIAEgb2_4tKRVDpmXEtViJ4enG_P-esjM

ぜひ上記のような大手VC等が公開している取締役会資料の構成テンプレートなどを参考にしてみてください。より効率よく取締役会の準備が進められたり、経験豊富な取締役達からより有効的なアドバイスを受ける機会を見出すきっかけとなるかもしれません。
今後もスタートアップの皆さまに少しでも役に立つような記事や、海外の先行事例の紹介・業界分析などを発信していきます。(ぜひフォローお願いします!)


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