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2021/02/14 『millenium parade』を紐解く21枚

King Gnuのコンポーザーでありギタリストの常田大希のソロプロジェクト、"millenium parade"のセルフタイトル作がリリースされた。内容に某雑誌にレビューを書いたので作品のレビューはそちらを読んで頂くとして、ここではレビューに書ききれなかったルーツ的なところを主に書きたい。

原稿を書くために作ったプレイリストがこちら。

プレイリストの前半は参加ミュージシャンの参加作系。(この辺はあらゆるレビューで触れられるというかこの辺に触れてお終いみたいなレビューが多そう)、後半はルーツ系だったり。

そもそも

これも様々なところで語られ尽くしていると思うけど、そもそも常田大希は東京藝大出身でチェリスト。プレイリストにも入れた"東京塩麹"は、東京藝大出身で同い年の作曲家、額田大志が率いる人力ミニマルバンド。時期によってメンバーは変わっているけれど、一時期はmellenium paradeの中のいわゆる同級生チーム、石若駿、江崎文武(WONK)、常田大希が同時に参加していた事もあった。

(この映像は2016年のものだけど、エンジニアの染野拓さんも最近活躍されてますね)

コレクティブ

僕としてはmillenium parade(ひいてはPERIMETRON)の"コレクティブ感"の基調となっているのはやっぱり、90年代〜00年代あたまにThe Rootsのクエストラブが率いたSoulquariansや、00年代から現れたFlying Lotus率いるBrainfeeder、Kamasi Washingtonが率いるWest Coast Get Down、Tylar, the Creatorが率いるOdd Futureあたりが参照点になっている気がする。

中でもジャンルのまたぎ方やいわゆるメジャーシーン(或いはチャートアクションと言っても良いかもしれない)への影響力的に近しいのはSoulquariansだろう。クエストラブ、ディアンジェロ、J Dilla、Common、エリカ・バドゥ、モス・デフといった表に立つプロデューサーやシンガーだけではなく、ピノ・パラディーノやロイ・ハーグローヴといったプレイヤー(クエストラブ自身もドラマーだ)も擁していたところに近しさを感じている。

The Roots『Falling Apart』、D'Angelo『Voodoo』、Common『Like Water for Chocolate』、Erykah Badu『Mama's Gun』と、数々のヒットを生み出したSoulquariansみたいになるのか、はさておき。

ビートミュージックと生演奏の挑戦

常田大希のソロプロジェクトの第一作『http://』(廃盤になっているのが惜しい)を聴いた時、誤解を恐れずに言うと「Flying Lotusやん!」と思った。

というのも、『http://』がリリースされた2016年というのは、前年にFlying Lotus『You're Dead!』がリリースされており、ちょうどその頃『Jazz: The New Chapter』というシリーズでこの辺をごりごりに追っていた自分としてはめちゃくちゃリンクしていたのだった。

リリース時のインタビューでは常田自身も「フライング・ロータスでいえばサンダーキャットの役割を駿がやっている」原典)と述べている。

プレイリストに入れたFlying Lotus「Never Catch Me」では、サンプリングで構築されたトラックの中で縦横無尽に動きまくるThundercatのベースが聴ける。

生演奏でビートミュージックを超える、あるいはビートミュージックと融合するというのは、2010年代にUSのヒップホップ/ジャズの世界の大きな命題だったように思う。

その中でもmillenium paradeに近しいチャレンジをしていたのは、LAのプロデューサー/ヴァイオリニストのMiguel Atwood-FergusonがJ Dillaの楽曲をオーケストラで再現した"Suite For Ma Dukes"(2009年)(CDは廃盤だけどたまに中古がある)

そしてこの手法のマスターピースとなったのがRobert Glasper Experiment『Black Radio』(2012年)だ。

Robert Glasperはミュージシャンからのアプローチ、Flying Lotusは非ミュージシャンからのアプローチで、生演奏とビートミュージックの関係性を模索してきた。

そしてこの路線の代名詞となったはクエストラブやChris Daveといったドラマーが生み出した"スネアをずらす"あるいは"ハイハットをずらす"という手法。2010年代の中頃にいちはやくこれをキャッチして日本語のポップスに落とし込んだのはSuchmosとceroだった。

millenium parade「Fly With Me」を冒頭からリードするドラムのパターンこの延長線上にあるといっていいと思う。

シンフォニックなサウンドとポップス

millenium paradeのサウンドの中核となるのがストリングスのサウンドです。

もともとチェリストということもあり、ここはかなりこだわりポイントのよう。2017にKing Gnu『Tokyo Rendez-Vous』のインタビュー時にも以下のように語っている。

ストリングスのアレンジもちゃんとやってるんです。J-POPによくある、「とりあえず後ろにストリングス付けときゃ感動するだろ」みたいな感じではなく(笑) (原典

現代音楽とロックバンド、というのは2010年代なかばに近接していきます。Radioheadのギタリストであるジョニー・グリーンウッドや、USインディーバンドThe Nationalのギタリスト、ブライス・デスナーは現代音楽のアルバムを出していたのがこの頃。また、クラシック側からも、ニコ・ミューリーがビヨークやグリズリーベアのアルバムに参加したりと様々な動きがありました。このあたりはライター八木皓平さんがNext For Classicという連載にまとめてくださっています。

"インディークラシック"と呼ばれるこれらの動きから、ロックバンド的にインパクトがあったのは、Ben Foldsがインディークラシックの名手yMusicとコラボレーションした『So There』(2015年)でしょうか。

日本でこの動きに近しいものでインパクトを残したのは、『Dancer in Nowhere』(2019年)でグラミー賞の「最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム部門(Best Large Jazz Ensemble Album)」にノミネートされた挾間美浦さん。

そして挾間美浦さんは国立音楽大学のビッグバンド出身、King Gnuおよびmillenium paradeのベーシスト、新井和輝さんも国立音楽大学のビッグバンドでベースを弾いていました。(同ビッグバンド出身者にはモノンクルの角田さんも)

また、常田大希と同じく東京藝大出身であり、Ensemble FOVEを率いる坂東祐大さんは、米津玄師「海の幽霊」や、嵐「カイト」の編曲を担当しており、蔦谷好位置さんが絶賛したことでめちゃくちゃ注目を集めています。

様々な参照点

Kendrick Lamarがジャズミュージシャンの力との蜜月をみせた『TPAP』だったり。

ジャズ的な演奏力とアンサンブルの力の融合として、2020年代に掲示するものとして同時代的なフィーリングを持っているのはJohn Hollenbeckが率いるビッグバンドだったり。

Kamasi Washingtonがストリングス/アンサンブルと見せるバッハ的対位法のネクストステージだったり。

Arcaがジェシー・カンダと見せる、音楽と映像クリエイティブの蜜月だったり。

Abstract Orchestraが見せるビートミュージックとビッグバンドサウンドの結節点だったり。

正直参照点として浮かぶけどいまいちここまでの文脈に結び付けられないものを置きました。

結局常田大希がすごい

もう結論はこれに尽きます。

すごい。すごすぎる。

みんなでアルバム聞きましょう。


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