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レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「30人の寮だからこそ得られた学び」(University of Michigan Ann Arbor・榎本 舜)

HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、アメリカの大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。

HLABでは、本場の実際の留学生活をより深く知っていただくために、動画版「留学体験記」を配信するサイト 『Living on Campus』(https://h-lab.co/campus/)を設立しました。留学希望の方はもちろん、海外大の学習環境や日常を覗いてみたい方はこの記事とともにご一読ください。

今回は、University of Michigan Ann Arborに留学している榎本 舜さんによる寄稿です。

現在アメリカにあるUniversity of Michigan Ann Arborという大学の2年生で、分子生物学を専攻しています、榎本 舜です。渡米してから約一年半が経ちますが、授業や課題、課外活動等に追われながら日々多くを学ぶ生活にも徐々に慣れ、瞬く間に大学生活の折り返し地点を迎えようとしています。今は当たり前のように過ごしている毎日ですが、中高生の時の自分にとっては想像もできなかった場所でした。


皆様はアメリカの大学と聞いて何をイメージされるでしょうか。リベラルアーツ教育や教授との距離、少人数制の議論式授業など、色々な特徴がありますが、中でも学生にとって大きな影響を与えるのが寮生活です。私の大学では一年時は全員寮に住むことが義務とされていますが四年間の寮生活を基本としている大学も多くあります。高校時代の一年間の留学で多様な友人と共に遊び勉強する環境を経験したことがきっかけでアメリカへの進学を決意した自分にとって、特に寮での生活は大学一年時の最大のハイライトになりました。

私の通っている大学には全部で18棟の寮があります。寮によって部屋の大きさやルーミーの数、料金やSubstance Free(アルコールやドラッグが禁止されている環境)か否かなど異なるため、学校の始まる前に各々の希望を書くことのできるアプリケーションを提出します。また、Living Learning Programと呼ばれ、それぞれの寮が環境やアート、Women in STEMなどのテーマを持っていて、テーマに沿った活動やワークショップを寮の住人同士で開くプログラムもあります。それらを踏まえた希望調査を元に、大学側が配属していきます。

私の寮はSustainable Living Experienceがテーマで、寮のキッチンで料理をしたり、寮のペーパータオルの使用を撤廃するプロジェクトなどソーシャルイベントを通して、入学間もない頃から全員とBondingする機会もありました。

Oxford Housing: 教室から約10分の場所にある寮。街のメインストリートからも近い。

退寮日に片付けを終えた後の一枚。人生初の2段ベッドでした。

そうして幕を開けた寮生活ですが、18年間実家暮らしであった自分にとって慣れないことだらけでした。学校生活に追われる余り、洗濯や買い出しや掃除等を怠ることも多々あり、いかに自分が親に依存していたかに気づかされました。非常に情けないことですが、そうした経験を通して自立できたことも私にとっては寮生活の魅力の一つです。ですが何よりも寮で得た友人との繋がりは他の何にも変えられない価値のあるものとなったと思います。

私の寮にはわずか30人の学生しか住んでいませんでした。小規模であるが故に、本当に仲の良いメンバーでした。学んでいる分野は多岐に渡り、3Dプリンターを部屋に置いて自ら模型作りに勤しむ宇宙工学専攻の友人や、株に投資して小遣いを稼ぐビジネス専攻の友人、夜な夜なアプリ開発の没頭するエンジニア、さらには陸上の三段跳びの選手など...

各々の分野で遥か先を走っている友人と同じ屋根の下で過ごす日々は多くの刺激と発見にあふれていました。友人が学んでいる分野の話から新たな興味が生まれる一方、彼らが必死に勉強している姿は最大の刺激剤でもありました。

隔週で行われるHall meetingでの一枚。RA (Resident Advisor) も含め、寮の状況や各々の近況を話し合う場。

そんな切磋琢磨し合える友人は一番の支えでもあります。膨大な課題とテストに追われる学校生活は到底一人で乗り切れるものではありません。寮の一階と地下には広々としたコモンスペースがあり、毎日誰かしらと一緒に勉強していました。夜更かし続きで友人と勉強する、アメリカの大学寮ならではの経験ではないでしょうか。また、朝がとにかく苦手な私は毎朝ルームメイトやフロアの友人に起こしてもらったりもしてましたね。

不安ばかりだった一年目を楽しくさせてくれたのも寮の友人でした。週末に皆でパーティーへ行ったり、アメフトの観戦に行ったりと私生活の多くを共にしました。特にミシガン大学はアメフトが盛んで、ゲームデイは朝から町中がお祭り騒ぎです。寮の皆とライバル校戦を観に行った思い出は一生忘れないでしょう。一年の終わりの退寮日前日には全員でFarewell Partyを開きました。

友達と夜な夜な勉強しているときの様子。右からBusiness, Electrical Engineering, Biologyと異なる分野の話を聞くことのできる時間でもある。

こうした刺激や学び、支えや楽しみは実家暮らしでは到底経験できるものではなく、寮という最も身近な環境で、価値観の違う人々と毎日を共にする中で、お互い歩み寄る努力を重ねた末にあるものです。根本的な共同スペースの使い方や生活習慣なども人それぞれで、趣味嗜好や考え方、専攻分野も違う。寮の住人の一員としてそういった違いを理解したり解決方法を探ろうとする姿勢、さらには部屋に篭らず、皆と打ち解けようとする努力など、様々な要素が必要とされました。ですがこれは寮に限ったことではありません。

アメリカの大学ではチームでのプロジェクトが多く課されます。そうした際にも寮生活と同じような意識は欠かせません。寮は人種や性格の垣根を超えるという、あらゆる場面で必要とされる実践的経験を学ぶことのできる環境です。同時にそれを通して得られた友人は一生の付き合いとなることでしょう。

寮最終日の朝。多くの思い出の詰まった廊下で撮った一枚。


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