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コミュニティ経験から「理想の学び舎」をつくる 〈HLAB×孫正義育英財団×柳井正財団学生が考える未来のキャンパス〉

いま「教育=学校の授業」という構図が崩れてきています。
座学を中心とした従来の学校教育が全てではなくなりました。アクティブラーニングやeラーニングなど、場所や世代を超えて学べる機会が広がっているんです。

新たな教育の形を考えていくうえで、ひとつのキーワードとなるのが「住環境」。国外に目を向けると、ミネルバ大学が世界各地に学びの拠点をつくる取り組みをしていたり、ハーバード大学が「住環境の提供によって、21世紀の教育を再定義する」ことをビジョンに掲げるようになったりと、学校以外のリアルな生活空間へと教育の機会を拡張していくことが注目されつつあります。

多様な学びの体験や空間を提供することで従来の「学校」の枠組みに囚われない新たな教育のあり方を探求するHLABは、2019年1月、「理想の学びの場」づくりのヒントを得るため、クローズドイベント『未来のキャンパス-学びのコミュニティづくりカンファレンス-』を開催。HLABのメンバーに加え、「インフィニティ(Boston/San Francisco)」を運営する公益財団法人 孫正義育英財団の学生、米国トップ大学への海外留学を支援する一般財団法人 柳井正財団の奨学生をゲストに招き、レジデンシャル教育の可能性が議論されました。

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公益財団法人 孫正義育英財団
7歳から26歳の高い志と異能を持つ若手人材発掘・支援する、ソフトバンクグループの孫正義社長が私財を投じて設立した組織。2019年1月現在、約130人に奨学金を提供しており、全体の約6割は留学生が占める。海外にも拠点をもっており、留学支援や留学先でコミュニティをつくっていくための支援活動も行なっている。
一般財団法人 柳井正財団
グローバルな知見を持つリーダーを育成する目的で奨学金を学生に提供する、ユニクロで知られるファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が設立した一般財団法人。アメリカのトップ大学へ進学する人の学費や生活費を支援しており、海外支援コミュニティづくりに注力する。日本人として海外の大学で学ぶ人は少ないことから、帰国後に交流の場となるコミュニティづくりにも力を入れている。

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ポップアップショップ出店、コミュニティマネージャーの存在…「理想の学び舎」とはなにか?

これまでHLABは、異なる背景や学校、世代から集う学生が、共生・切磋琢磨し合える教育環境を提供する「レジデンシャル教育」を実践してきました。レジデンシャル・カレッジ(教育寮)として「THE HOUSE by HLAB」(中目黒)、「NODE GROWTH」(湘南台)の二拠点を運営し、国際経験豊かな若手起業家・社会人・学生と共に学ぶコミュニティを創り上げてきたことも、その一例です。

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レジデンシャル・カレッジの仕組み
都市にキャンパスの各機能を持たせ、学生はレジデンシャル・カレッジをハブとして生活。学生の行動圏は自然と集約され、日常の中で学びのある交流が生まれるようになっている。詳細は、2018年度の年次報告書(p59)を参照。

これらに加え、2020年夏の完成に向けた新たなコミュニティが誕生しようとしています–––HLABは下北沢を舞台に教育寮をつくるプロジェクトを進めています。通称「下北沢キャンパス」です。従来の学生寮のような「一つの建物内で完結する、寝食をベースとした施設」とは異なり、文化に恵まれた「下北沢」という土地そのものをキャンパスに見立てて生活していこう、という想いを込めて名付けられました。

グループディスカッションは、HLAB代表・小林亮介の言葉でスタート。

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小林 亮介
HLAB代表。1991年東京都生まれ。桐朋高校、1年間の交換留学を経て、2009年4月に一橋大学、9月にハーバード大学に入学。2011年に高校・大学生対象の教育事業HLABを立ち上げ、14年に法人化し代表。奨学金の設立や教育寮の企画運営に取り組む。2014年三極委員会のロックフェラー・フェローにアジア太平洋地域を代表して選出、世界経済フォーラム(ダボス会議)傘下のグローバル・シェーパーズ・コミュニティのメンバー。

小林「街をキャンパスとしてとらえた時に、どういった学び舎をつくれるのか、発想を広げて考えていきたい。各コミュニティにおける成功や失敗の体験を共有しながら、『理想の学び舎』のアイデアをディスカッションしていきましょう」

小林氏の言葉を皮切りに、グループディスカッションがスタート。テーブルに座る人の組み合わせを変えながら対話を行う「ワールド・カフェ」の手法が採り入れられ、日頃からコミュニティに関わることが多い各団体のメンバーが、4つのグループに分かれ、三者三様の「学び場」の経験と知見をもとに意見交換が行われました。

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「コミュニティに人が入ってくる条件」、「良いコミュニティの要素」、「下北沢キャンパスが、いかにして地元と溶け込んでいくか」…各班の関心に沿ったテーマが、それぞれのテーブルで議題に挙がりました。

「コミュニティに人が入ってくる条件」、「良いコミュニティの要素」については、各々の留学や財団でのコミュニティ経験をもとに検討されることに。「人が入ってくる条件」として、人のつながりを豊かにし、生活空間のもつれを解消してくれるコミュニティマネージャーの存在、また場としての魅力を高め、コミュニティのファンをつくることが挙げられました。

「良いコミュニティの要素」については、「コミットメントに個人差が出てしまう」、「見えない同調圧力を感じる」といった既存のコミュニティの課題をもとに議論が進められました。理想のコミュニティのあり方を、「場所」、「目的」、「人」、「事象」の4軸に分けて整理。個人が尊重され世代を超えて自然に人が集まること、強制しない共通のミッションの存在、構成員の多様性やモチベーションの高さ、偶然の発見や出会い、学びが生まれること…こうした4つの要素がコミュニティの質を高めるということを、擦り合わせていきました。

また、新しくできる教育寮を理想の学び舎にしていくための展望として、「下北沢キャンパスが、いかにして地元と溶け込んでいくか」にも焦点が当てられました。コミュニティは、寮内だけでなく、地域全体にわたって広がっています。カルチャーの街・下北沢ならではの文化発信を行うポップアップショップ出店や、音楽・舞台イベントの開催といったアイデアが飛び出し、理想の学び舎への想いを膨らませていきました。

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学校教育だけで完結する学生寮ではなく、世代を超えた「共生」の場にしたい

グループディスカッションの結果を発表した後に、企画担当の富岡氏は「学生たちが得てきたコミュニティへの知見を交換する、良い機会になった」と感想を述べていました。

最後は、HLAB代表・小林氏の言葉でイベントが締められました。

小林「本日はありがとうございました。これからもは、『今後生きていくなかで、どういった学び合いの環境が必要か』、そして『自分の子供が生まれた時に、どういった環境があったら素敵なのか』を一人ひとりが考え、実践していきたいと思っています。下北沢ではただ寮をつくるだけではなく、多様な年齢、属性のメンバーが無理なく共生できる環境を構築していきたいです」

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近年バズワードとなっている「コミュニティ」。使いやすいだけに、言葉だけが一人歩きしがちなようにも思えますが、今回のイベントで出た各々のコミュニティ体験に基づいた会話の数々からは、挑戦する際に背中を押してくれ、時には成長を見守ってくれる家族のようなコミュニティの価値を実感できました。

レジデンシャル教育は、運営者だけでなく、住居者やイベント参加者、サポーターなど、コミュニティに関わる一人ひとりの想いのもと実現していくものです。今後もHLABでは、コミュニティのメンバーが一体となって「理想の教育」の姿を追求していくため、各界での著名なゲストを招くなど定期的にイベントを開催していきます。

全4回の「未来のキャンパス」記事はこちらからご覧いただけます。

写真:植田 陽
執筆:川尻 疾風
編集:小池 真幸

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