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文法か、会話か

日本語教師をやっていて必ずこんな話題にぶち当たるというか、議論になるのが「文法を重視するのか」「会話を重視するのか」という話。
わたしの職場でも、どんな教科書を使うのか、ということから始まり…少し議論になったので、こちらに場所をお借りし私の考えを整理させてください。

「みんなの日本語」は、”みんな”の日本語のスキルにつながるのか?

いろんな日本語教師の養成講座や国内外多くの学校で使われている「みんなの日本語」というテキストがありますね。あれをみなさん、どう思いますか。もちろんわたしも養成講座のとき使用していました。
簡単な文型からはじまり、徐々に提示される文法が難しいものになっていきます。各課の練習も練習A→B→Cと整理され、Aは文法の型の例が、Bは代入練習したり、形を変える練習をしたり、そしてCにはイラストが入れられており、イラストや文字をみながら会話を考えます。

先生によっては、練習が整理されていて、見やすい。「口ならし」ができる。という意見もあります…が…

口の筋トレ?

まずわたしが言いたいのは、果たして「口慣らし」って必要なのか?です。
いろんな本や意見を参照してて、かつ自分の経験からも
この口慣らしは意味があるのか?に疑問を持っています。
養成講座のとき、「口をついてでるように」と教わり、いままでいろんな教育機関で1クラス20人ぐらい教えていたときはみんなで一斉にコーラス練習しました。
「さむいです、さむくないです、さむかったです、さむくなかったです」という活用を大声でみんなで一斉に言うんです。

…でも、実際の会話でこれを言う場面ってないですよね。実際に言わないことを練習して何の意味があるの?って話です。
そして科学的にもパターンプラクティス、代入練習はコミュニケーション力の養成には効果がない、と証明されています。
なぜ、効果がないことに時間をかけるのか?わたしは分かりません。

また文法説明そのものが習得を起こすという実績はありません。文法の仕組みなどを知っている=会話ができる、というわけではないです。
よく”て形”の表を埋めてください、という練習がありますよね。あれも効果は限定的です。「食べます→食べて」という表が埋められるからといって、適切な場面で友達に「よかったら、これ食べてください」とおすすめできるか、会話ができるかというと、そうではない、ということですね。

みんなの日本語にも練習Cっていう会話練習もあるよ!っていう声も聞くんですが、あれは果たして会話練習なのでしょうか…?


みんなの日本語 第2版 初級Ⅰ スリーエーネットワークより…

こちらが練習Cなのですが、このイラストの下線部分"ミラー"さん、"IMC"をイラストを見ながらイラストにあった言葉に変えて会話をします。
これって、結局代入練習ですよね。
会話って自分が話したいこと、言いたいこと、相手に聞きたいことを発話するってことなので、それとは違うと思います。

結局、日本語を勉強しているのに、コミュニケーションのスキルの習得につながる練習は一切この教科書にはないんじゃないか、と私は思っています。

そこでなんですが、わたしがこの教科書を使って教えていたときは
ターゲットになっている文型を使ってどんな場面でどのようにコミュニケーションが行われるんだろう…?と考えて、絵やらカードやら準備して、1人で2役の寸劇?みたいなことをして
生徒さんにコミュニケーションの例みたいなものを見せていました。なので、新人のときは夜中の2時、3時まで準備したりして結構大変だったことを覚えています。

ここまで結構批判的にこの「みんなの日本語」の教科書について書いてしまったんですが、わたしはこれを作れ、と言われてもとても作成できないですし、これを作った先生方は本当に素晴らしいと思っています。
ただ、コミュニケーションの養成という目的に対してこれを使うのは、目的と合っていない、と思う次第です。文法の仕組みについて理解したい、とかほかの目的に使用するのであればすごくいいテキストだと思っています。

Can-do シラバスのテキストってどうなん?

コロナが蔓延する前にわたしはカナダで勤務していたんですが、そのときにはじめて手に取ったのが"まるごと"というテキストでした。それぞれの課で"なにができるようになるか"という目標達成に重点が置かれ、その目標をクリアするために、必要な文法やことばを学んで練習します。
はじめて見たとき、「教科書をそのままやればいい」ことに不安でした。どう使えばいいの?って思いました。

たとえば初級1の第1課に「すんでいます、はたらいています」など自分や家族が何をしているか、について話すトピックがあるんですがそれまで文型積み上げ式で教え慣れていた私は「~ています」の文型の作り方を説明して、「たべています」「のんでいます」など別の動詞の「~ています」の作り方の練習などさせてました。
…が、これって全然トピックと関係ないですよね。
この課の目標は自分について話す、だから。そしてもれなくわたしは学習者を混乱させていました…!!!

でも、そんな余計なことしなくてもよかったんです。本当に教科書どおりに教科書の練習をしてすすんでいけば、たぶん新人でまったく日本語教えたことがない人もそこそこいい授業ができると思います。

このテキストについて思うのは、第二言語を習得するというプロセスにきちんと基づいた教科書づくりがされている、というところです。

YouTubeでよくアニメだけ見て日本語上手になった人とか、はじめはインプットばっかりしてて話せるようになった人とかいますよね。

たくさんインプットをして、そこで何らかの"気づき"があり、注意を向けることが習得には必要なことだそうです。
実際にこのYoutubeのなかのMattさんも、高校生のときに一度日本に来たことはありますが、そのあとはひたすらインプットをし、いわゆる「て形」などの動詞活用は学ばずに日本語を習得しています。

まるごとのテキストは会話はもちろん単語もすべて音声があり、またネット上に会話の映像もあります。すべて無料でアクセスできますし、また最近シェアされている「いろどり」の教材はそれとリンクしている部分が多いので音声教材を活用することができます。

また、「みんなの日本語」や「大地」などの文型積み上げ式で教えていたとき、主任の先生が「気づかせること」、学生に「考えさせること」を重要視していたことを覚えています。
すごく厳しい先生だったんですが
さっきわたしが話した"寸劇"の中で、答えをすぐに与えてしまうのではなく、学生に会話を聞かせてその会話の意味に気付かせることに重きを置くんだよ、と教えていただきました。いま思えば、すごく効果的なやり方だったのかな…と思っています。

ここまで書いて、かなり長くなってしまったんですが…
教科書通りにできる(先生の負担が少なくなる)こと
第二言語の習得のプロセスに基づいて研究されて作られたテキストであること、
またインプットができるという点からも、わたしは
「日本で生活できるコミュニケーション力の養成」が目的なのであれば、Can-doシラバスのテキストを使用したほうが負担が少なく、かつ効果的なんじゃないかな、と思っています。

最後のまとめちょっと雑になったんですが、この週末もう少し詰めて考えたいと思っています。…
まとまるかな…

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