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教師の多忙化・バーンアウト

  文科省の調査によると、2010年からの教師の病気休職者数は8500人以上、このうち精神疾患による休職者数は5000人以上である。


この13年間に両者とも増加している。病気休職者数の在職者数は1パーセント未満であるが、特徴的なのは、病気休職者に占める精神疾患の割合の高さであり、90年代の43%から2000年代62%と増加している。


また、朝日新聞社が全都道府県・政令指定都市の教育委員会に対しておこなった調査によると、公立の小中高校と特別支援学校で中途退職する教員は、全国で毎年12000人を超えているという。


また、文科省が外部委託した調査では、「仕事に意義・やりがいを感じる」と答えた人が9割を占める一方、「勤務時間以外でする仕事が多い」という回答も9割を数え、いずれも一般企業の2倍におよんだ。「気持ちが沈んで憂うつ」という教員は27%で一般企業の約3倍に上った。

  「バーンアウト(燃えつき)」とは、仕事によって精神的・身体的に疲弊し、消耗した状態を指し、医療・福祉・教育などいわゆる対人サービスに従事する専門職の職業病ともいわれている。
   大阪の教育文化センターが大阪府の教員のバーンアウト度を測定した結果によれば、強い燃えつき症候群の状態である教員が全体の6・7%で、危険信号以上の状態にあった。


  専門家は、このような状況を、個々の教師の問題としてではなく、教職の病理現象としてとらえ、問題の原因解明や解決に寄与するような社会学の上での研究の必要性を指摘している。専門家は、教職の病理現象の一因として、

①自らのニーズを明確に意識できない子どもへのかかわり合いや配慮が仕事であるという教育労働の特徴

②成果主義の導入が進められるなかで、このようなかかわり合いが「市場化され商品化される」と同時に「労使関係のなかにおかれる」といった社会状況

③教師が同僚とのあいだでそれぞれの問題を共有し教員コミュニティとして問題に対処するスタンスができていない、の3点をあげている。

   日本とアメリカで比較調査を行った人によれば、アメリカの教師はもっぱら「ティーチ」や「インストラクト」といった言葉を用いて自分たちの教育的な行為を表現するのに対して、日本の教師は、「指導」という言葉をひんぱんに用いることに着目し、日本の教師の多忙な職務の背景を次のように分析している。


「教師たちは、指導というマジックワードでみずからの行為を表現することにより、生徒に対する多様な営利行為をすべて教師の本来の役割りにあたるものとして受容する」と同時に、「生徒の気持ちや心を理解しなければならないという暗黙の期待」が強まっていることも多忙化の一因になっている。

  専門家が指摘した「指導の文化」は、日本の教師に広く浸透していると考えられる。わたくしも、あるベテラン中学校教師から次のような言葉を聞いた。


「近ごろは、生徒だけにしないようにしています。休み時間も早く教室に行き、ぼんやりしています。ぼんやりしたふりをしています。なにげない視線で生徒の行動を見ています。いじめや危険な遊びなどなにが起こるか心配です。なにもしなくても生徒と一緒にいることが教師には大事です。中学校では1年生は特に大事です。相互理解が十分でないので」


日本の教職に特有のこのような「指導の文化」こそ、教職のやりがいや奥深さにつうじると同時に、教師の多忙化とストレスを助長する一因になっていると考えられる。

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