見出し画像

読書日記その554 「逆説の日本史 18 幕末年代史編 Ⅰ」

本書は著者の推測が多分にあるため、自分で調べて考える必要がある。本書にある内容を、ネットやほかの著者の本と見比べたりして、自分の見解を確立するのが良いのでは。

そういう意味では、本書は歴史を考えるきっかけになるのでとてもいいと思う。また通説や常識にとわられない史観がおもしろいし、文章もとても読みやすいので、息抜きに読むには最適だ。ま、大河ドラマや歴史小説を読む感覚で本書を読むのがいいと思う。

とはいえ、ボクのような歴史素人にはよく知らないことや興味深い内容が多いのも事実。そのなかでもとりわけ個人的に興味深かったことを三点あげてみる。

一つ目は、米露の開国要求のさなかにあったオランダの開国勧告。そのときにひとりのドイツ人医師が大きく関わったことだ。日本と貿易が許されていたオランダは、世界が見えてない日本に対して開国をすすめる。その仲介をしたのがシーボルトというドイツ人医師である。

このシーボルトを自分で軽く調べたらじつにおもしろい。ドイツ人だがオランダ国王に仕え、オランダ人と偽って来日。表の顔は医師として日本で暮らすが、ウラの顔はスパイである。

しかし日本に長く暮らすうちに日本が大好きになり、日本人と結婚、娘も授かり、ますます親日となる。鳴滝塾(なるたきじゅく)という診療所も兼ねた私塾を開き、日本各地から集まった日本人医師に西洋医学を教えるかたわら、日本の植物や動物、気候や地理を研究し、それらを本にして世界に紹介するのだ。

そんなシーボルトがスパイ容疑で国外追放となり、オランダへ帰国することとなる。するとシーボルトは国王に対して、日本に開国をうながすよう意見書を提出するのだ。家族と離ればなれなため、日本に戻りたいというシーボルトの個人的な願望もあるかもしれないが、しかし彼には当時の日本の危うさが見えていたのでは、と著者はいう。

そんな日本大好きシーボルトは、追放されてから30年後に刑がとかれて再来日。また娘のイネは父のあとを継ぎ、女医として活躍する。へぇ〜、シーボルトの生涯、めっちゃおもしろそうだなぁ。これは本書とは別にまた調べていきたいな。

二つ目は、江川太郎左衛門英龍(ひでたつ)
。彼はペリーがどうせ日本人には作れないだろうとしてプレゼントしたボートホイッスル砲を一年もたたないうちに作った人物である。

また彼は今や観光名所でもある「お台場」も一年たらずで作ったという。お台場はもともとは黒船が江戸湾の奥へ侵入するのを防ぐために作られた砲台の人工島だ。それを6つまで(計画では11)完成させた。

さらに彼は伊豆の韮山に反射炉も建設している。すでに日本初の反射炉の建設に成功している佐賀藩に技術協力を得て、黒船来航の翌年(1854年)から着工。しかし英龍は完成を見ることなく1855年に病死。息子の秀敏があとを継いで1857年に完成となる。

このように、著者は1853年から54年にかけての英龍は江戸史上もっとも多忙だった代官ではないか、と述べている。これは幕府からしたらこの緊急時に、これだけの大仕事を任すのにほかに頼れる人物がいなかったということでもある。英龍はそれだけ技術も高く、信頼の厚い人物だったことがうかがえる。

三つ目は、ハリスによって円とドルとの交換レートが修正されたこと。世界有数の金の保有国だった江戸期の日本。ところがレートを修正されたことによって、豊富にあった金があっという間に米国へ流出してしまうのである。本書にはそのからくりが記されている。いや何なんだ、これは。ということは、わが佐渡金山の金の多くが米国へ流れたということか。これは由々しきことではないかッッ。

そのからくりだが、これが文章ではなかなか説明しづらいので割愛するが、いや、それにしてもだ。これは現代の感覚であればすぐにおかしいことがわかるものだが、当時の日本はいろいろな意味で未熟だったのだろう。やすやすとこれを認めてしまう。これについても本書とは別にさらに詳しく調べていきたい。

以上のように本書は自分で歴史を考えたり調べたりするきっかけになるので、しばらく本シリーズを読んでいきたいと思う。またひとつ気になったことがあるのだが、著者はとかく歴史学会を批判する。個人的には、淡々と自分の見解を述べるだけでいいのではと思うのだが……ま、素人で部外者のボクには知りえない何か心情的なものがあるのだろうな、きっと。




この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?