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読書日記その553 「小村寿太郎 近代日本外交の体現者」

小村寿太郎も陸奥宗光と同様に、不遇な時期での人との出会いが転機となる。陸奥にとっての転機は坂本龍馬と伊藤博文との出会いだったが、小村はその陸奥宗光と桂太郎であろう。

翻訳局という閑職にいた若き日の小村は、陸奥によってその才能を見いだされる。小村の卓越した語学力と豊富な知識が陸奥の目にとまり、公使館参事官として清国への勤務を命じられる。これは小村にとって初めての外国勤務となり、そして飛躍のきっかけとなるのだ。

またその時期にぼっ発した日清戦争において、第3師団長だった桂太郎と意気投合したことも、のちに桂が首相になった際の外務大臣に小村が任命されることへつながる。桂との出会いがなければ小村の外相もなかったわけだ。人の運命というのは、誰と出会うかで大きく変わるものなんだな。

とはいえ、小村はそれだけで躍進したわけではなく、しっかりとした実力が備わっていたからこそチャンスをものにできたのだ。陸奥も変わった性格のような印象だが、小村もまた変わった性格のような印象だ。

子どものころから無類の読書好き。そして日本での勉学に飽き足らず米国へ留学。そのまま米国の法律事務所に就職し、卓越した語学力を身につけて日本に帰国する。5年にわたる米国生活でさぞかしアメリカかぶれするかと思いきや、和服の書生スタイルで帰郷。小村は留学を経て英語だけでなく、強い愛国心を身につけるのだ。

ああ〜、外国で生活すると日本の良さを痛感することがあるのだが、彼もそんな感じだったのだろうか。なんだかんだいってやっぱり日本だなぁ〜って。治安いいし食べ物うまいし、って、いやこれは今の日本の個人的な感想だが……。

小村といえば条約改正。それもすばらしいのだが本書を読むと、日露開戦からの第二次日英同盟の交渉、そして戦後の日露講和条約の交渉がともに圧巻ッ。外国人をまえにひるむことなく強気な姿勢で駆け引きを展開する。日本人はとかく交渉事が苦手といわれるが、どうやら彼は別者のようだ。

日露戦争といえば日本海海戦や二百三高地が思い浮かぶ。しかしそのウラでは日英同盟の改定における英国とのつばぜり合いが展開されていたようで、その激しさにおどろく。ドラマなどではこのような外交はサラッと流されるだけなので知らなかったが、小村の強気な姿勢に英国が根負けするというかたちで交渉が成立するのだ。

そして戦後はロシアとの講和条約の交渉だ。これもまた難航を極めるのだが、それは主に賠償金でもめたようだ。このときのロシアは財政危機で賠償金がはらえない状態にあり、断固拒否の姿勢をとる。そして何度も交渉を重ねたのちに、小村は賠償金を妥協して旧韓国の支配権を獲得する。

著者はこの交渉を、現実的に考えれば成功だったという。しかし当時の日本の民衆は不満を持つものが多く、抗議集会が暴徒化したり、小村個人や家族に脅迫がおよんだりしたようだ。やはり賠償金というわかりやすい基準がゼロだったのが、民衆の不満につながったのだろうか。

このように戦争は兵士だけが闘っているのではなく、政治家も外交で闘っているのだ。日露戦争からさかのぼること約40年前、江戸末期の日本の外交はつねに列強ペース。アヘン戦争をネタにおどされて不平等条約を結ばれる。そこから日本は近代化をはかり、とうとう大国ロシアに勝利し、外交でも列強と対等に交渉するようになるのだ。

晩年の小村は病気がちだったようだ。しかし満身創痍でのぞんだ二度目の外相で、日本外交最大の悲願だった不平等条約の改正を完結させる。これは恩師である陸奥の仕事を完成させることでもあったから、喜びもひとしおだったであろう。しかしその9ヶ月後に病状が悪化し他界する。享年56歳。

小村の強気一辺倒な勇ましい交渉は、日露戦争を引き起こした帝国主義外交ともいわれる。しかしそれまで日本の外交は条約改正交渉に失敗してきた経緯をふまえると、彼の業績は突出していると著者はいう。

小村は交渉事において、ともすると日本人で初めて外国と対等に渡りあえた人物ではなかろうか。いや、それはどうか知らんが、本書を読むとそんなイメージがわいてくる。列強に対してどこかコンプレックスをもつ日本の外交を、その列強と肩を並べるまでの存在にしたのは、まさしく小村寿太郎である。

個人的な願望なんだが、「坂本龍馬」→「陸奥宗光」 → 「小村寿太郎」という流れで、不平等条約の改正を軸に3回にわたってドラマ化されたらおもしろそうだなと思う。坂本龍馬の回は不平等条約の締結と陸奥を引き上げる龍馬。そして2回目は治外法権の撤廃と小村を引き上げる陸奥。最後の3回目は小村による関税自主権の回復で、悲願の不平等条約改正の完結を見る。

個人的にはすごく興味があるのだが、う〜ん……世間的には地味すぎて視聴率とれなそ〜。



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